夢中で追いかけてもう9巻となりました。
今度は終わりそうなのが悲しいです。
ネタバレします。
ジェルミはエリックとその妻ポピーと共にバレンタインに会うためスエーデンへと向かう。
ところがエリックに抱きつかれた途端バレンタインは逃げ出し二階の窓から飛び降りようとした。
必死でそれを抱きとめたジェルミ。
この時、怪我の功名で今まで声が出なかったバレンタインがわめき声をあげたのだ。
どちらが辛い話か、という比較をしてもしょうがないが自分自身が女性のためか、ジェルミの物語よりもバレンタインの話が辛い。
双子の兄との間にできてしまった子供を殺してしまうバレンタインの苦悩と悲しみを思うととても辛い。
ジェルミがバレンタインにだけは特別に心を開くのはこの物語の中で彼女が最も苦しみの中にいるからなんだろう。
ほんとうはこの物語はバレンタインの物語であるべきだったのかもしれない。
でも萩尾望都にとって彼女の苦しみは自分の苦しみではない。
やはり萩尾望都が描くのは父母との戦いの物語なのだ。
それでもバレンタインの物語はこの作品の中でジェルミの心を開かせる重要な鍵になっている。
ジェルミは確実に成長していく。
身体も大きくなり困っている人に的確な助言を与えるようになる。
それを見たイアンは自分が取り残されたような気持ちになる。
自分自身はナディアと別れたのにジェルミはバレンタインという美しい女性と親しくなっていく。
ジェルミを失うのかと恐れるイアンはまたもリンドンに相談する。
が、リンドンの答えは「距離をとることです」というものだった。
落ち着いた態度で学校へ行くことを選択し家事をこなしマージョリーの為にセラミックの像を焼く、ジェルミがすっかり改善したかと思えたのだがグレッグの亡霊は離れてはいなかった。
ひとりきりでいるジェルミには今もグレッグが話しかけてくる。
そしてイアンから「背中の傷」について話された時、ジェルミはグレッグの鞭を受けた。
イアンの父親殺しが始まる。
ジェルミを助けるためにはジェルミの夢の中の父親グレッグを殺すしかない。
イアンは銃で父親グレッグを撃ち殺す。
また現れてくる父グレッグをまた撃ち殺す。
そして「今度はおまえの番だ」とジェルミに銃を渡す。「今度はおまえがサンドラに話すんだ。すべてを」
しかしジェルミにはできない。サンドラに話すなんてできない、とジェルミは怯える。
「ごめんなさい、ジェルミ」というサンドラをジェルミは撃つ。そしてその銃でイアンを撃つ。
イアンにキスをしてジェルミは崖から落ちそうになる。
またも出てくるグレッグは「母親殺しの彼の最後の願いをきいてやるんだ」と言ってジェルミの首を絞めようとする。
イアンはそれを留めて「あんたには渡さない」と自らジェルミの首を絞めようとする。
イアンを見つめるジェルミ。
そのとたんイアンはガッと血を吐く。
「救急車を呼んでくれ」と彼は言った。
病院から出たイアンはリン・フォレストへと向かう。
ジェルミから離れイアンは休息をとる。
ナターシャとの関係が改善される。
イアンはロンドンへ戻り展示会でジェルミと出会う。
ジェルミと食事をして近況を話す。
そして別れる時、イアンは身体の半分を失うような感覚を知る。
12月の計画を立てている時にナディアと再会したイアンは彼女との復縁の機会を得る。
希望に満ちた予感を覚えた時、突然ジェルミが帰宅して何も言わないまま寝込んでしまう。
イアンは再びナディアとの約束を反古にする羽目になる。
ジェルミを放っては置けない。
クリスマスだった。
去年のクリスマスには朝から警察がきたのだ。
(一年間の物語だったのだ)
シャロンが来てふたりの様子に赤面した。
サベージが来て食糧を届けてくれ「ふたりで遭難でもしてるみたいだな」という。
「ま、がんばって帰還するように」
イアンとジェルミはふたりきりで遭難した。
「お前を愛している
おまえが人殺しだから
グレッグを殺したから」
カウンセラーのペン先生から電話がくるがイアンは「もう・・・いいんです」と答えた。
ついにジェルミが治癒できたかと思ったらまたも悪化する。
寛解、という言葉があるがそれのようなものか。一時的に良くなるがまた燃えてしまうのだ。
何度も書くが他の作品で「なんとなく良い方向へ向かっていくだろう」という終わり方がよくあるが本作はそこから先が長い。
そしてこの作品は描くのに9年もかかっているのだがその内容はほぼ一年の間のことなのだなと改めて驚く。
なお、この本の最後に津原泰水氏がエッセイを書かれている。