最後の巻になってしまいました。
ネタバレします。
年末年始をずっとベッドで過ごすジェルミとイアン。
気づくと1月4日になっていてやっとふたりはベッドから出て動き出す。
早く日常に戻って勉強を始めようとするイアンの前にまたジェルミが現れて彼の心を振り回す。
かつてこの記事で「萩尾マンガでは美しい少女が男子を振り回すのが定番」と書いたが美少年も同じであった。
そうした関係性が好きなのだろう。
しかもジェルミはそれを気づかず「ぼくはいつもイアンの言う通りにしてきたのに一度くらい言うことを聞いてくれたっていいじゃないか」と涙しイアンは途方に暮れるのだ。仕方ない。惚れた弱みというやつだ。
ジェルミはペン先生のカウンセリングでも彼女を翻弄する。
プロである先生がジェルミにのまれ早く終わりたいと切望してしまう。
ジェルミはイアンの胸像を作る。喜ぶイアン。しかしジェルミは目の前でそれを壊してしまうのだ。
またも亡霊に襲われるジェルミ。しかしその亡霊はグレッグではなく自分自身だった。
何度も進退を繰り返しながら少しずつ馴染んでいくふたりなのだ。
それは恋人でもなく友人でもなく兄弟でもなく。
ナディアがからまりマージョリーがからまり他のいろいろな人とからまりながらもふたりは少しずつ離れられない関係性を持っていく。
イアンとジェルミはふたりきりで自転車旅行をする。
暑さでイアンは裸になって海に飛び込む。
ジェルミと一緒に全裸で砂浜に寝ころびキスをする。
ジェルミはその時激しく射精してしまうのだ。
グレッグからレイプされ続けジェルミは快感というものを感じられなくなっていた。イアンとのセックスでもオーガズムを感じることがなかったジェルミがこの時突然感じたのだ。
が、その夜イアンからそのことに言及され嫌悪を示す。
イアンはひとり外へ出て夜空を見上げる。
天上の星々がイアンの身体の中に入り込んでくる感覚を覚えた。
そしてまた一つずつ夜空へと戻っていった。
イアンとジェルミはリン・フォレストの家に戻った。
しかしジェルミは家を前にして恐怖を感じて入れない。
やむなくふたりはボート小屋に寝泊まりすることにした。
ふたりはその夜、愛と暴力について話し合う。
「親は子供にとって人間じゃなく神だ」というジェルミ。
「その神が教えるんだ。愛も暴力も。苦痛も」
イアンは教会に行き父・グレッグがかつてここで誓う姿を見る。
「世界一美しい家庭を作ろう。私はそれを私に誓う」その誓いは悲鳴のようだ、とイアンは思う。
「世界一美しい」という言葉は狂気をはらむ。普通で良いんだよ、普通で、と思えばいいじゃないか。
ジェルミはひとり怖い思いを抑えながら母サンドラの墓へと行く。
そして今までどうしてもサンドラに対して言えなかった言葉を伝えるのだ。
ジェルミはナターシャへ手紙を書く。
それもまた今までのジェルミにはできなかったことだった。
ジェルミはこのクリスマスで19歳になる。
ふたりは今は一緒には暮らさず離れている。
ジェルミは以前ほどあのことを思い出すのは辛くないという。普段は忘れているともいう。
そして12月にまとめて思い出すのだ。
それは冬の祭典なのだ。愛はいくたびも成都市のはざまを行きつ戻りつする。
だけど次は夏に来いよ、とイアンは言う。
ケム河をボートで行ってシューベルトを歌おう。
完。
ふたりは互いの親を許し決別する。
苦しみは少しずつ遠ざかり薄れていく。
萩尾氏はどうだったのだろうか。
イアンとジェルミの苦しみは10代の頃に終わったが萩尾氏の場合は大人になってからもずっと続いたのだからそう簡単に終りそうもない。
愛と暴力は常に表裏だ。
激しく強く愛せば暴力もまた酷いものとなる。
私としては長い間苦手としていた本作が今回の読書によってすっかり変わり「ほんとうに素晴らしい作品だ」と素直に思えるようになったのが一番の収穫です。
今回読まなければまだ「この作品だけは嫌いなんだよねえ」と言い続けていた気がします。
私的には本作にちばてつや的なものを感じていて「主人公(や他の人物も)が嫌なキャラクターなのになぜか面白く先が気になる」という手腕を感じています。
「良い人」でなくてもその人のことが気になってしまう、という状況こそ恋なのです。