2002年9月号~2005年8月号「フラワーズ」
この『バルバラ異界』は以前も書いたことがあるのでより細かく書いてみたいと思います。
私にとって萩尾望都作品で最も好きな作品です。
ネタバレします。
これが中表紙。なんと平和な幸福な場面だろう。
年齢のせいでこういうので涙が溜まる。ダメすぎる。
[その1:世界の中心であるわたし]
冒頭は右下の女の子、青羽のおばちゃんマーちゃんの呼び声から始まる。
そして青羽のモノローグ
「あたしはバルバラが世界の中心だと思っていた」
ヤギ小屋で昼寝する三人の子どもたちが示すようにのどかでやさしい世界が描かれる。
朝はマーちゃんが焼くパンケーキをヤギの乳で食べ、青羽は仲良しのタカとパインが迎えに来るのを待つ。
ところがここで不思議がさっそく現れる。
タカとパインは空が飛べるのだ。
だがどうやら青羽は飛べないらしい。
千里さんがあげる凧を見て「飛べそうな気がする」と言って階段から飛び出すがタカとパインがその両手を握って叱る。
子供だけが飛べるという世界なのだろうか。
しかし小さな女の子の青羽は何故か飛べない。(この理由を萩尾氏は後で描くはずだったがなぜだかぽしゃってしまったらしい。知りたいよお)
なので大人の千里さんが飛んでいるのは「みっともない」のだろう。タカとパインと青羽は千里さんが好きなようだ。
千里さんは「夢はね、遠い未来か遠い過去からのメッセージなんだ」と言う。
千里さんは良い人だがそのおじいさんは青葉を指さし「よそ者だ」と罵る。
タカの母親はダイヤ。若作り(?)の派手めな美女である。パインも一緒に育てている。
マーちゃんは太っているが身軽に働いている。
パンケーキを届けに行くとヒナコさんが弱弱しく出てきて「駄目だったの、うちの子」と言う。看取ったらしいドクターが「ここじゃなかなか子供が育たんからなァ」と言う。
ヒナコさんはラジオで「バルバラ人は子育てできない。子どもを食っちまうんだ」と言う話を聞いたといって泣く。
ダイヤはテレビショッピングの仕事をしている共演者は子役30年のベテランタレント秋葉原コスモス。
そこかしこで不思議設定が見え隠れする。
ここでも島の端っこに住む連中は変わり者だとウワサされる。
青葉がタカの本をヤギと一緒に食べたことでタカは怒って青羽の頬を叩く。
ダイヤはそれを聞いてタカをぶちのめし青羽が代わりに「ごめんなさい」と泣きだす。
青羽は熱を出して寝込んでしまった。
目を覚ました青羽は自分はよそ者なの?と泣く。
マーちゃんは「小さな女の子がほしかったんだよ。そうしたら夢がかなったんだ」
青羽は月のお姫様と海の王子様の間に生まれたこどもだったけどどちらの食べ物も食べられなくてそれでバルバラのマーちゃんに託されたのだと言う。
秋葉原コスモスのところへ届いた人形はヒナコさんが作ったものだった。髪の毛は千里の髪だった。
20年前に火星に住む宇宙人からの攻撃があったのだという。
生まれて一年目だった千里を庇って母は死んだのだ。
親指海岸で凧あげをしながら青羽はタカとパインに教えられ飛ぶ練習をする。
が、全然飛べない。
それでも懸命に飛ぼうとする青羽は見知らぬ男の上に落ちてしまう。
男は青羽に「シーッ」と口止めした。
親指海岸で遊ぶ三人だが崖下の砂浜に降りてはいけない。
そこにはまだらゾウがいて人を襲うらしい。しかしまだらゾウはバルバラができた時からいる守り神でもある。
青羽は再びタカとパインと一緒に飛ぶ練習をする。
[その2:眠り姫は眠る血とバラの中]
ここから渡会時夫に語り手が移る。
渡会は日本へ戻る飛行機内で息子キリヤを産む夢を見る。
そのキリヤの母親明美とはすでに離婚しており渡会は息子とほとんど会っていないし育てていない。
この設定は驚天動地である。
これまで常に毒父親を憎む子供視点で描いてきた萩尾望都が初めて(毒親であるのは変わらないが)父親視点で描くのだ。
(先日の『午後の日差し』母親視点はこのための練習だったのか)
しかし毒親なのは同じと言うのが笑える。
ていうか親視点になった途端良い親になったら噴飯ものだが。
日本に着いた渡会を待っていたのはその「息子キリヤ」だった。
渡会は驚く。彼を呼んだ大黒先生は笑顔で父子を引き合わせる。
3年ぶりの対面だという。
そして大黒先生は香港から帰ったばかりの渡会に北海道遠軽の仕事を持ってきた。
封筒を渡すと「チェックインしてくる」と席を外す。
封筒には一枚だけ女の子の写真が入っていた。
遠軽に向かうこととなった渡会は息子キリヤに「こんどゆっくり食事でもしよう」と誘うがキリヤは無感動だった。
遠軽につき百田太郎とスタッフに歓迎される。
連れていかれた「北海道東中原人間科学研究所」では主に脳神経障害やアルツハイマーリハビリ部門と心理研究部門があり百田氏は心理部門の「パラサイコ症例」を扱っているという。
写真の患者は9歳の時から現在まで7年間眠り続けているのだ。
13℃の室温、患者の体温は31度から2度。特に脳に損傷はない。
渡会はラベンダーの香りがすると感じた。
レム睡眠に移行している少女は目を開ける。夢を見ているのだ。
百田は渡会に「あなたは眠る人の夢を覗き見できるんでしょう」と問いかける。
ここで渡会の仕事がわかる。
渡会は夢を覗き見できるが治療できるわけではないと話す。
そして最新式のドキュメント社の脳内イメージングスキャナーを使えばいいと言うが百田は彼女の夢はノイズが多くディスプレイが空白になってうまくアクセスできないのだという。
そこで渡会に声がかかったのだ。
渡会は彼女の名前が十条青羽だと聞いてから一気に夢の中へ入り込む。渡会も眠りに落ちる。
その渡会の脳内イメージを外部で撮るのだ。
ディスプレイには島が映る。
そして世界は[その1]で描かれたバルバラに移る。
そこにはバルバラに住んでいる小さな女の子青羽がいた。
現実の青羽は16歳だが、夢の中の青羽は6・7歳に見える。つまり彼女が眠り始める以前の年齢なのだ。
9歳の青羽は渡会の幻影を見て「お化けがいる」とマーちゃんに訴える。『バルバラにはお化けはいないよ」とマーちゃんは答える。
そしてあの親指海岸に移動。
飛ぶ練習をしている青羽が渡会の腕の中に落ちてくる。
ディスプレイに青羽の夢と渡会の夢がシンクロした。
渡会と共に青羽の姿が映りだされる。
ふたりが会話する。
渡会は夢から覚める。
「大成功ですよ」と百田は興奮する。
72分だった。
スタッフの美川は「次はなんでもいいから夢から何か持ってきてください」と言うのであった。
渡会は自分の脳内を映したモニターを見る。
夢の中でははっきり見えていた世界がモニターでは不明瞭だ。
渡会は百田に「この世界にはバルバラと言う名前がついていました」と話した。
疲れた渡会は食事に行く皆と離れひとり宿舎で休む。
青羽が9歳時のメディア情報が入ったカードを渡され見てくれと頼まれる。
一息ついた渡会が見る。
2045年、12月30日。渋谷区高級住宅地で十条勝一(45歳)と妻茶菜(41歳)が死亡していた。
十条勝一氏は心臓を切り取られていた。
台所にディスポーザーから心臓の断片が発見された。
一人娘のAさん(9歳)は地下のピアノ室で発見され意識不明。
警察は妻・茶菜さんが勝一さんを殺して自殺したと発表。茶菜さんはノイローゼだったとも薬物中毒だったとも言われている。
青羽の父親は十条製薬の社長で祖母はそこの会長だった。
青羽は眠り続けていても何も困らない環境にいる。
百田氏はさらにポルターガイスト現象を渡会に見せる。
ある時はバラの花びらがある時は赤い水そして血が降りそそぐのだという。
そしてバルバラの島は瀬戸内海で撮影された幻の島なのだという。
実際にはないのだが現れては消える影のような島なのである。
そして渡会は百田に問うた。
「十条氏の心臓は彼女が食べた?」
「ええ」と百田は答える。
「ぼく。スプラッターダメなんです」