ネタバレします。
本作で萩尾望都は子供を愛しているのに愛してはもらえないといういつもと逆転した父親を描くというチャレンジをしているが他にもちょこちょこ「いつもと違うテスト」をやっているようだ。
例えば30代の十条菜々美が10歳も若いエズラと恋をして結婚するというような設定は今では驚くほどのことではないが萩尾マンガではこれまでなかったことに思える。
そもそも萩尾キャラクターはわりに老けていてやや未来の話とは言え80代女性をあそこまで若く描くのも珍しい。
だが一番の「これまでにない」感は主人公の渡会時夫の「おたおた感」だ。
30代男性の主人公がいつもおたおたしながら不安げに進んでいくのが面白い。
エドガーをはじめこれまでの堂々とした主人公からの落差が楽しい。
といってもキリヤはいかにもこれまでの萩尾マンガの少年像なので人間は年を取るとおたおたするのかもしれない。
さて、続き。
渡会は明美さんの父つまり渡会の(元)義父に会いに行く。
おじいさんはキリヤに御神楽を仕込んだ師匠でもあるのだが破門してしまったことが惜しくて泣いてしまうのだ。
キリヤの叔父も彼を心配しているのを知って渡会は自分が恥ずかしくなる。
眠っているキリヤのもとに青羽が、この世界の眠っている青羽が訪れる。
むろんそれは青羽の魂とも生霊ともいうものだろうか。
青羽はキリヤに「渡会さんに言って。私の夢に入ってこないで、干渉しないで放っておいて」と。「でなければ彼を殺して」と。
その会話の間、なぜか空から人形が落ちてくる。それは地面(というか屋上の床面)にあたったとたん破裂して水となってキリヤを濡らす。
と、キリヤは目覚めた。
夢だったのだ。
だが彼の服は濡れていた。
渡会は3年ぶりに明美さんに会う。
明美さんはいつも皮肉に話す。
キリヤはわたしひとりで苦労して育てたのに手がかからなくなってから現れるなんて、と言う。
そして渡会の夢見の仕事を毛嫌いしあなたも世羅ヨハネのような美しい仕事をしたら、と言うのだった。
ここで渡会は昨日会ったばかりの目白氏が竜巻に巻き込まれて死亡したという知らせを受ける。
続けてキリヤから「話があるんだけど」と電話がかかってくるのだった。
〔その6:六本木で会いましょう]
キリヤは渡会が行く目白氏の葬式の後で会う約束をする。
ここでキリヤに絡んでくるライカがすごく可愛いのである。
相変わらずキリヤからはウザがられるがそれにもめげずライカは絡み続ける。
秋葉原へ行って夢で見た人形を探したいというキリヤを案内していく。頼もしい。
渡会は百田氏と会い青羽のポルターガイストが目白氏を襲った竜巻を起こしたのではないかと伝える。
十条菜々実は子宝に恵まれた姪を羨ましく思う。
菜々実は娘の茶菜を愛していた。
しかし孫の青羽が希望をすべて奪ってしまったと思っている。
青羽が生まれたことで菜々実は人生を失くしてしまったのだ。
菜々実はひとり人間ドックに入る。年に一度のボランティアでアレルギーテストを受けるのだ。
担当するのはカーラー・シルスバーグ。
専用のボディスーツを着て過ごすのだ。
菜々実は娘茶菜と過ごした幸福な日々を思い返す。
エズラと別れて20年間幸せだった。
川が好きな茶菜をつれて(どうして川が好きだったんだろう)世界中の川を巡ったのだ。(裕福な話だ)
しかし今はすべて失った。
エズラ、茶菜、青羽・・・私の人生ってなんだったの?と菜々実は打ちのめされる。
ライカは目白秀吉も知っている。物知りだ。ほんとに頼もしい。
キリヤはライカから今度は六本木を案内される。ライカは地下道の南北も察知できるのだ。方向音痴から見ると神。
目白氏の葬儀場には大黒先生がいてキリヤたちは中に入れた。
届いた花を運びながらキリヤはモニターの映像に目が留まる。
そこには小さな青羽と父・渡会が映っていたのだ。
それは昨夜目白氏が死ぬ前に見ていたものだと告げたのは彼の息子の目白マシロだった。
一方、十条菜々実はなぜかアレルギーテスト中に若々しくなっている自分に気づく。
ここで第一巻終わり。
謎が謎を呼ぶ。
しつこく繰り返すが登場するキャラクターのひとりひとりが味わい深く魅力的である。
たいていは主役は面白くても例えばライカなんかがウザクて嫌になってしまうものだがそういう嫌さがないのが楽しい。
ワクワクを貯め込んで二巻へ行こう。