ガエル記

散策

『バルバラ異界』萩尾望都 その4

二巻へと参ります。

本作は実写映画化やりやすいと思うのに何故やらないのだ?

 

ネタバレします。

 

〔その7:きみに肩車してあげた]

渡会と百田氏は「胡蝶の夢」(我が蝶か、蝶が我か)と言う論議をする。

渡会は話さないがキリヤがイメージしただけのバルバラが現実に瀬戸内海に出没していることが現実となってしまったら、と問う。

「そうなれば我々の方が非現実となってしまう」

「ぼくたちのこの世界が夢になる、誰かの夢に」

 

「もしも青羽が目覚めてしまったら?」と渡会は問う。

両親の死とその心臓を自分が食べてしまったという事実を知ることになる。

しかし味方になってくれる者はいない。十条菜々美は最大の敵となる。

・・・いやキリヤがいる。と渡会は気づく。

そしてエズラ・・・彼はどこにいるのか。

 

目白氏の遺体を見て逃げ出すキリヤを追いかける渡会。

これからは良い父親になりたいと言い出す渡会を嫌うキリヤはライカとともに去っていく。

失望の渡会を呼び止めたのはあの「若返った菜々実」だった。

菜々実は「去年マリエンバートでお会いしませんでした?」と問いかけ渡会は戸惑う。

「誰もがもう取り戻せないいろんなことを後悔している。でも後悔なんか役に立たない。ほしいのは愛だけ」

マリエンバート菜々実は渡会の手を引いていく。

 

キリヤは人生に倦んでいる。

特別に興味を持つことができない。

好きな人がいない。

母親からうどんや野菜が届いてうんざりする。

母親になぜ時夫と結婚したんだと問いかけ「あんたができてしまったから仕方なかった」と答えられ「じゃあ殺せばよかったじゃないか」と苛立つ。

キリヤが逃げ込むのはバルバラ異界だった。

そこに寝ころびやっとほっとする。

しかしそこになぜか時夫が現れ小さい自分を肩車した。

「きみはいつも肩車が好きだった。もっときみとかかわりあっていればよかった」

キリヤはそんな時夫の父親ヅラに憎しみを持つ。

 

〔その8:冷蔵庫の中の私を食べて]

菜々実はマリエンバートになって渡会と一夜を共にする。

迎えに来たカーラーに「渡会さんと結婚する。可愛い子どもを産むの」と告げる。

しかしカーラーは「あなたは薬で一時的に若返っているだけで卵細胞はもうないのです」と答える。

菜々実は泣き崩れる。

 

遠軽の研究所突如湧き出した海水に浸ってしまったという報せが入る。

急ぎ帰る百田と渡会。

渡会は二日酔いだったが百田は青羽の夢の中に入ってくれと頼み込む。

 

バルバラで渡会はマリエンバートが来ていたコートを着ている。現実を引きずっているのだ。

渡会は海岸に降り立っていた。

向こうからマダラゾウが駆けてくる。逃げだす渡会を救ったのは飛んできたタカとパインだった。

 

今回のバルバラで渡会は青羽が少し成長していると感じる。タカとパインは前のままなのに?

渡会はタカから「英語の本」を見せられる。「個体発生と系統発生。難しい進化の本だ」と伝える。

雷じじは言う「わしらはここに閉じ込められている。外の奴らがバルバラ人の血から不老不死の薬を作るために」

バルバラは9歳で眠り込んだ青羽が創ったものなのにこれほどの世界観が創れるものだろうかと渡会は訝しむ。

この考え方もおもしろい。

世界観はその人間の知識で作られる。

 

渡会はダイヤに誘われヒナコの工房に入る。

そこでダイヤに抱きつかれるのだがそのはずみで部屋にあった冷蔵庫のドアが開いてしまう。

その中にあったのはヒナコ自身だった。

 

キリヤは2045年の十条家心中事件を調べようとするがロックされていて深く調べることができない。

そこに青羽が現れる。

「そう。ママが私にくれたの。あなたが渡会さんを止めてくれないから、ほら、くる」

人形が歩いてきた。

 

ここで止めたら怖い~~~。

 

この作品はかつて日本社会を震撼させた「狂牛病問題」をヒントにしたとされている。

あれからどうやったらこれになるのかよくわからないが確かに怖かったのだけは覚えている。

狂牛病 原因」で検索すると「狂牛病牛海綿状脳症BSE)の原因は、牛に異常プリオンが汚染された肉骨粉を食べさせたことだと考えられています」と出てくる。

これだとよくわからず「ふーんそうなんだあ」とだけで終わってしまうのではないだろうか。

だが、あの時報道されていたのは「牛のくず肉を餌に混ぜて与えた」ことからこの病気が発生した、ということなのだ。

つまり人間が牛に「共食い」を強要していたのである。

ゾッとする話ではないか。

牛の飼料に同じ牛の骨肉を混ぜることでその牛の成長は著しいものとなるのだ。

その代わり脳がスポンジ状となってしまい歩行さえ困難となる、というのだ。

そうなった牛の乳や肉を人間が食べたり飲んだりしたらどんな影響があるのか。

「共食い」は最大のタブーの一つである。

「共食い」に関して人は大きな恐怖と憎悪を持つはずだ。

なのにそのタブーを破って家畜に「共食い」を強要していた。

神の罰が下ったということだろうか。

しかし「狂牛病」と検索するだけではその事実がわかりにくい。

 

萩尾望都は『バルバラ異界』で「共食い」の恐怖を描いている。

とはいえ「狂牛病問題」を直接知った世代でないと何が描かれているのか、わかりにくいかもしれない。

特定のサイコパス人間がやった事件ではなく牧畜という大きな世界で行われていたこの問題はどのくらい作品化されているんだろう。