ネタバレします。
〔その21:バルバラ崩壊〕
皆が去っていく。キリヤは一足先に東京へ戻った。
渡会は週末には東京へ戻ってキリヤに会いに行くと約束したがパリスは「必ずですよ」と青羽の人形を渡会に預けた。
パリスはキリヤからチップを渡されヨハネの遺言を聞いたので心穏やかではない。
かつてグリーンホームにいた子どもたち、そして老いた三姉妹も皆ヨハネを父とする兄弟だと知ったのだ。
残った渡会と大黒先生はふたりきりで話をした。
大黒先生は渡会に「キリヤはきみの実の子ではない」ということを伝えようとしていた。
だがキリヤが赤ん坊の時明美さんが遺伝子を調べてキリヤが本当に渡会の子供だったことを証明した事実がある。
つまりその後にふたりーキリヤとタカが入れ替わってしまったことを大黒先生は伝えなけTればならない。
しかし今「キリヤの良い父親になりたい」と切望している渡会をどう説得できるのか。
思案しながらももぐもぐと月餅を食べている大黒先生がかわいい。
大黒先生は説明した。
かつて渡会と明美がフランクフルトにいた頃、ヨハネは教会のボランティアをしていて女性に人気があった。
彼はその顔の裏で病で苦しんでいる人を救うための尊い実験だと称して自分に集まってくる女性たちから”卵”を集めていたのだ。その中に明美さんもいた。
その後、きみたちは離婚して明美さんはキリヤと東京へ戻る。
そしてキリヤは花小金井の保育園で食べた海老でアレルギー症状を起こし入院。仮死状態でニューヨークの聖メアリ病院へ搬送されたのだ。
渡会はこの事実を知らなかった。
そして一週間後に明美さんはキリヤと日本へ戻ってきた。
「ああ、よかった」とほっとする渡会。しかし大黒先生は続ける。
しかし同じ頃、聖メアリ病院の隣にある「グリーンホーム」のタカという少年が急性免疫不全で緊急入院し聖メアリ病院で死亡しているのだ。
渡会はこの話を聞いて怒りだす。
「あんたの前世療法なんてペテンだ」
が、キリヤが本当はタカだったからこそ明美さんが入院した時ヨハネは自分の息子を見にやってきたのだ。
渡会は焦る。
あれほど「今度こそは良い父親になるよ」と伝えたキリヤが自分の子ではない。本当の息子は”タカ”として葬られた。そして今は青羽の未来の夢の中で生きている?
渡会は無理やり青羽の夢の中バルバラに入っていく。
だが今度のバルバラで渡会はいきなり武装した男たちに撃たれてしまう。
もしものためにつけていた防御シールドでかろうじて助かる。そしてその男たちから守ってくれたのは目白秀吉にそっくりな子孫だった。
彼によるとバルバラの町は政府によって「完全消滅が決定」されたのだという。
慎重派の彼らはバルバラ人を救おうと来たが町にはもう生体反応はないというのだ。
渡会は狂ったように燃え盛るバルバラの町に突っ込んでいった。
だがそこらには死体が転がっている。
マーちゃんもダイヤも雷ジジも千里すらも死んでいた。
はやくバルバラを完成させないと恐ろしいことがおきるのよ、現世の青羽の言葉が聞こえる。
渡会は目白たちに海岸へと導かれる。
そこには象のメリージェーンも死んでいた。
だがその先に小さな青羽とそのそばにタカとパインが倒れていた。
渡会はタカを抱きしめるが動かない。
小さな青羽は「世界の中心が消えるの」と言った。
そして青羽が目を閉じるとバルバラの世界が消えていったのだ。
〔その22:花小金井ヒコバエ保育園〕
現実の研究所では渡会の周りに煙が充満した。
スタッフは渡会を救出する。
が、ベッドの青羽にはなんの変化もなかった。
「青羽は目覚めなかったのか?」
バルバラで小さな青羽が死ぬとバルバラ世界が消えていったと渡会は話した。
バルバラ人は火星人の遺伝子を持っているため不老長寿なのだ。
だが火星人は敵である、と議会の強硬派が皆殺しを決めた。
そして渡会は慎重派に助けられたのだ、と伝える。
「一体あの世界はなんですか。あれはーただの青羽の夢でしょう。夢だから2歳で死んだタカや青羽やエズラ博士がパインという子どもになって出てくるんでしょう?」
大黒先生は「おそらく青羽は未来に干渉しているんだ」と説く。「夢が現実になる」
百田氏は「夢は夢であって現実ではない」と言い返す。
渡会もそう思っているのだがそれならばなぜこんなにもタカが死んだことが悲しいのだろう。
キリヤは一足先に東京に戻り母親の明美に会う。
明美は痩せていた。
キリヤはそれとなく「ヨハネは死んだかも」と伝える。
明美さんはヨハネがキリヤとタカを交換したことを知っているはずだが、彼女も嘘の記憶を信じているのかもしれない。
彼女の中でそれは交換ではなく、渡会との間の子供であるキリヤがヨハネの子供であるキリヤとして戻ってきたのだと、都合よく信じている。明美さんもヨハネの子キリヤと過ごした時間がもうすでに倍以上にもなっているのだから。
遠軽ではカーラーが青博士が残したはずのチップの入った奥歯を探し続けていた。
キリヤは青羽の人形を抱え東京へ戻ろうとしている。
話しかけようとする大黒先生を制し渡会は「キリヤはぼくの息子だ」と言い切った。
その時青羽人形の口から奥歯がぺっと吐き出された。
キリヤの部屋にパリスが訪ねてくる。
キリヤはヨハネの心臓を食ったのか?と尋ねる。
パリスは「ぼくにはその気はない。ぼくの記憶だけで充分だ」と答える。
このパリスはとてもまっすぐで良い人格をしている。
彼こそ「一族の呪いに勝った人物」なのかもしれない。
キリヤはパリスをつれて自分が通った花小金井ヒコバエ保育園に行ってみる。
保育園の先生たちは大きくなったキリヤを歓迎し懐かしがった。「エビのキリヤ」と呼ばれていたという。
でも治療して無事でほんとうによかった。
園を出てキリヤはパリスに話しかける。
「きみが2歳のタカを探し回っていた頃、ぼくはキリヤと呼ばれ浜松にいたんだよ」
キリヤはもう完全に自分はキリヤではなくタカなのだと判ったのだ。
人を間違えることなどない、といった最初のパリスの言葉は間違っていなかった。
ふたりはそのままお祭り会場へと行く。
ライカと光介がふたりを出迎えた。
「キリヤ、踊ろう。きみが何者でもきみの手足をコントロールするのはきみだよ」
パリスのまっすぐさが心を救う。
そして次回はとうとう最終回となる。