「YOU」2006年第2号~2007年第23号
初読。『あぶな坂』は中島みゆきのファーストアルバムの歌曲からの由来というのが驚きでもありました。
そう言われてみればこの表紙に描かれている本作の主人公というか案内人であり、あぶな坂ホテルのオーナー藤ノ木由良は中島みゆきから造形されている気がします。特にこの表紙は似ています。
ネタバレします。
ところで藤ノ木由良ってなにから来たんだろうと思い検索したら福岡県のJR駅名に藤ノ木から5駅目で由良というのがあったのだけど、まさか福岡県の駅名からとったとか?萩尾氏は福岡生まれなのでありえなくはないが。なぜ???
「ここはあぶな坂HOTEL この世とあの世のあわいに建つホテルです。お帰りになるもゆかれるもお客様方のお心しだい、または運しだい お世話をさせていただきます」
あぶな坂ホテルにはオーナーの藤ノ木由良。長身のマネージャー甘糟(なんでこの名前)可愛いメイド風の丸山美穂。庭師の金森(柴犬付)マフィンが得意なカツ世さん。
あぶな坂を黄泉比良坂として考えた物語になっている。
「グランド・ホテル形式」という物語の手法があるが本作はまさに「あぶな坂HOTEL」に集った人々の物語を見せていく。
他の作品と大きく違うのはここが「あの世とこの世の間」にあるホテルだということだ。
このホテルから元来た道に戻るのかあの世の道へ進むのかは運しだい、なのである。
第一話目は働きづめだった中年男、嘘ばかりつく童顔の青年、ロックスター、介護疲れの中年女性といった面々。
そこにホテルのスタッフの人生も加わっていく。
第二話目「女の一生」は銀乃というひとりの女性の物語となる。
裕福な家庭に生まれたらしい彼女は少女時代はわがまま一杯に育ったらしい。
しかしやがて太平洋戦争となり空襲で恐ろしい体験をする。
夫の浮気で苦しんだ彼女が80歳になって右半分が麻痺するとその夫が甲斐甲斐しく世話をしてくれるようになったという。
ケンカしていた息子と娘ももどってきてくれた。禍が転じて一家の団結を呼び戻したと言いリハビリで日舞をはじめ今ではひ孫もいる。
老後にこんな幸福な日々があるとは思ってもいなかった。
そして彼女は幼い姿に変わり早くに死に別れた母が迎えに来てくれるのだ。
第三話「3人のホスト」
40歳だが若作りしたクララ姫と三人のホストそしてクララ姫の母と前の夫の物語。本作の見どころは3人のホストとよりも相性の悪かった母親を救おうとする娘の変化にちがいない。
第四話「ー雪山へー」
この話を読んで思い出したのが横山光輝『超絶レアコレクション』の中の一作品「怪物(モンスター)」だ。
『怪物』に出てくるのはホテルではないのだが、仲のいい兄弟が登山していて濃霧に巻き込まれやむなく一軒家(このホテルなみに立派な西洋館なのだ)に逃げ込むと、という話だ。その中のストーリーは本作とはまったく違うのだが「仲のいい兄弟が山の中で」という点で思い出してしまった。
『あぶな坂HOTEL』では仲直りもしくは仲良しの家族の話が多い。これは以前の萩尾望都作品を知っている者には驚くべき変化に思える。
『残酷な神が支配する』で破壊的な家族を描いて以降、ふっきれるものがあったのか、『バルバラ異界』で息子を思い続ける父親、娘を愛し続けた母親を描き本作でも家族の在り方が描かれていく。
さてここで『あぶな坂HOTEL』シリーズは終わっている。
設定がもったいない。いつまでも続けられる魅力があるのに。
他の作家だったらこのアイディアでだらだらと何十巻と続けていきそうなんだがなあ。