2006年「講談社MOOK猫本」
「漫画家と猫」vol.1で読みました。
ネタバレします。
萩尾望都氏がイメージしたのが『長靴をはいた猫』なのが嬉しい。
子供の頃からこの童話の挿絵の猫くんが大好きだった。猫なのにきりりと凛々しくて賢い。ちょうどこの表紙のように自尊心の高さを感じられるのだ。
だが本作の猫氏は南南東電力のブレーカーの点検をしている業者さんである。
中上さんの家を訪れる。
主婦のナオちゃんはどう見ても猫にしか見えないその姿に(猫だ)戸惑う。
点検が終わりハンコを求められるがナオちゃんはどうしても猫が仕事をしていることが納得できず、前に飼っていた「タマキチ」ではないか、小学校5年の時同級生で引っ越していった三ケ島くんではないかと問いただすが猫点検員は否定する。
しかし猫点検員の匂いにくらっとしたナオちゃんは髭に触らせてほしい、しっぽに触りたいと求めだしついには猫と恍惚の世界へ突入してしまう。
興奮も醒め猫点検員は再びはんこを求め去っていった。
あとには猫の毛が散乱している。
掃除をしなければならない。
夕食を準備していると夫が帰ってきた。
食事をしながら夫氏は会社に来た販売の女性が全身黒づくめで猫耳の帽子をかぶっていて「みゃあみゃあ」名古屋弁でおかしかったとスマホで撮った画像を見せる。
それは明らかに黒猫だった。
「猫が思い出を舐めに来るのよ」
この物語は思いもよらなかった。
猫がブレーカーを点検する・・・なんでそんなこと思いつくのか。
『猫本クリニック』
こちらは猫がクリニックの先生をしているお話。「ねこもとクリニック」と読む。
お医者さんだからか、看護師女性を「ピノコちゃん」と呼ぶ。
しかし彼女はピノコではなく鹿の子という名前らしい。
看護師なのにメイド服を着せられ(どういうこと?)患者もまったく来ないと憤慨した鹿の子は「もうやめます」と飛び出そうとして駆け込んできた患者とぶつかってしまう。
この患者がなんとどう見てもあの「エズラ博士」なのだが本人は「アルフレッド・キリギリス」だと名乗る。まあ、あのかた、あちこちで偽名使ってるみたいだったしな。
アルフレッドは「眠れず食欲もない。人が怖い。オレの恐怖はどこからきているんだ」と問う。
猫本先生は「知りません」とバッサリ。
アルフレッドは「こういう時は幼児体験とかトラウマとか聞くだろ」と言い返し、むっとした猫本先生は「わかりましたよ。幼児体験を話してください」
しかしアルフレッドは「思い出そうとすると霧のようにぼやけて、甘い・・香りが・・バラの香りだろうか」と答える。
猫本先生は「気長に治しましょう」と言ってサングラスと様々な薬を処方し「10万円です」という。さすがブラックジャックを踏襲しているだけあってお高い。
アルフレッドは5万円しか持っておらず(意外に貧乏だった)猫本先生は特別にまけてやる。
「治らなかったら金を返してもらう」と罵って去る。
猫本先生はクリニックの戸締りをして買い物をして帰宅。
自宅はマンション30階にあるらしい。
家では妻のメリーと義母が待っている。
彼女たちはまったく外に出ずネットで買い物をしテレビを見ているだけ生活を送っているようだ。
「ぼくは妻とそのハハのカウンセリングひとつできないダメ医者だ」と悩む。
ピノコもとい鹿の子クンは来なくなりあのアルフレッドがやってきた。
症状はますますひどくなったと叫び猫本先生に噛みついた。(比喩でなく)
するとアルフレッドは猫になってしまう。
そこに鹿の子が「お給料ください」と入ってきた。
アルフレッドは鹿の子に噛みつく。「なにすんのよヘンタイ」と蹴って殴る鹿の子。
するとアルフレッドの猫耳が消え今度は女になってしまったのだ。
鏡を見て「キレイ・・・お化粧してみたい」
女性になったアルフレッドは猫本クリニックの看護師となり男性患者さんに人気のようだ。
楽しい。
ほんとに才能のある人って贅沢だなあ。
こんなアイディアをちょっと描いてポイ捨てしてしまう・・・。
アイディアに悩んでいる諸氏はこんな発想できたらこれだけでずっと描いていきそうなのになあ。
しかしアルフレッドがバターンとドアを開けてくるだけで見ごたえあるんだよ。かっこいい。
あまり大きな声で言えないのだが他の漫画家さんの猫マンガを読んでいるとやはり・・・マンガを描くのって難しいんだなと思ってしまう。
萩尾氏作品を見ていると「簡単に描けそう」って思ってしまうのだよな。
そこに大きな違いがある、と再認識する。