といっても前回「シリーズここではない★どこか」2-2でかなり書いてしまったけど。
ネタバレします。
「花嫁 メッセージⅤ」
「月刊フラワーズ」2010年11月号
メッセージシリーズもⅤとなった。
黒い男の正体は相変わらずよくわからない。
歴史の案内者というところなのだろうか。
そして本作も両親に愛されずいいように利用されていく子供の物語である。
1420年フランスの王女カトリーヌ(キャサリン)とイギリスのヘンリー5世は結婚するがその前夜のお話。
アジャンクールの戦いでイギリスがフランスに大勝しヘンリー5世はフランスの王女カトリーヌ=英語名キャサリンに明日は求婚するということになっていた。
19歳の王女カトリーヌは占い師=黒い男を召し出しこの結婚から始まる未来を予測させようとする。
黒い男は右手に手袋をしているのであの右手がどうなっているのかはわからない。しかし手袋をしているのだから今も青いのかもしれない。
黒い男は占う。
カトリーヌ王女は自分の未来を怖れていた。
だが男はカトリーヌ王女とヘンリー5世の間に生まれるただひとりの王子がヘンリー6世となりイギリスとフランス二国の王となることを申し上げる。
王女はさらにさらに未来を知りたくなり果てしがない。
王女は際限のない欲望を抑え込み占い師に礼を言い明日からフランスとイギリスのために尽くすと誓う。
黒い男はひとりきりになった後、王女の祈りが遠い未来にかなうことを思うのだ。
この作品も長い歴史を短いページで表現してしまう技術が発揮されている。
占いという手段でそれらを語ってしまうのだ。
なんという能力だろう。
ヘンリー5世の姿が勝利を手にした王の輝きを思わせる。
カトリーヌはヘンリー5世とは次世代の王を産み夫の死後再婚したオウエン・テューダーとの間に生まれたエドマンドの子供がヘンリー7世となる。
つまりカトリーヌ王女は王の母であり曾祖母にもなるのだ。
少女時代を僧院で送り後にも幽閉されてしまう彼女は華やかな人生とは言い難いが歴史に名を刻まれる存在である。
「海と真珠」
「月刊フラワーズ」2010年412月号
舞と夜羽根シリーズ。
このシリーズの中では一番面白かった。
舞は人魚姫という設定なので王子の為にはなんでもする。
なにしろ原作では王子の愛を得るために声を失い歩くたびに剣で突き刺される痛みを我慢するほどなのだから。
舞も周りから「男の言いなりになっちゃだめ」と言われながらもついつい夜羽根に従ってしまう。
夜羽根がアホに描かれているからまだ読めるけど。
親友のごっつい川寺さんが実はバレエ歴長いというのが愉快ではないか。
しかし長身美形の夜羽根が全部持って行ってしまうという。
まあ目立つ男というのでいいか。
「春の小川」「月刊フラワーズ」2011年3月号
生方氏の弟雄二くんが登場する。
このお話もなんだか奇妙な話だ。
主人公の光一が母の死を割り切れずに苦しむ物語なのだが。
光一の母は厳しいところもあるがとてもきれいで優しい。
萩尾マンガで主人公の少年が母が好きな場合、その人は早く死んでしまう。
しかも父親の方は母の生前から別の女性と付き合っている。
もちろんその人物に同情できるのだが父親が母親に対して愛情を示す場面がなにもないのはちょっと怖い。
光一の感情は極端であまりにも母を求めるところからすべて捨ててしまおうとするところへと変わってしまう。
萩尾望都はこのシリーズで家族愛を描き続けていくのだが壊れている話には共感しやすいが愛している話のほうはなにか不穏なものが感じられる。
この作品は「柳の木」に続くと思われるがこの不穏な感覚はなんなのだろう。
「夜の河を渡る」
「月刊フラワーズ」2011年5月号
萩尾望都先生自身の体験談なのだろうか。
女性小説家宇佐美は自分自身が生み出したキャラクターとその物語がどの道を進んでも行き止まりになったしまい苦しんでいる。
戻るべきか、別の道を進むべきか。
違った方向へ行こうとする作者をキャラたちが止めようとする。
目の前に河が広がり宇佐美はその河を渡る。
翌日宇佐美は新人賞の選考に参加する。
彼らも迷いながら河を渡るのだろうと思う。