「フラワーズ」2008年2月号~2012年6月号
なんといっても表紙が良い。
レオくんと赤い表紙がとても良い。
ネタバレします。
レオくんは実際に萩尾先生が飼われている猫らしい。
幾匹かいる飼い猫の中でも特にお気に入りの猫らしい。
目の上の部分が一直線になるという特徴を持つ。上の画像でもそのように描いてある。
萩尾先生の描く猫は他のマンガ家が描くのと違いどっしりと重さが感じられる。
今回読み返すまで猫のレオくんが学校もお仕事もみんなと同じようにうまくやれなくてなんとなく障害を持つ子どもの置き換えのように感じて「これはいかがなものか」と拒否感を持っていた。
しかし今読んでみるとレオくんはむしろ我々そのものではないかと気づいたのだ。
すべてを完璧にこなせる特殊な方は別として我々の多くはレオくんと同じではないんだろうか。
給食を楽しみにしていたり遊びを楽しみしていたりする。
上手くやれず失敗したり優しく諭してくれる先生に赤面してしまったりする。
仕事もなかなか上達しない。
お見合いに興味をもってもなかなか気に入ってもらえない(それはしかたない)
他の人から「あの人は(猫だから)仕方ないね」と見下され笑われている。
しかしこれまでレオくんを見下していたのは自分自身ではなかったか。
自分自身がレオくんではなかったか。
しかもレオくんのようにかわいくはない。
そう気づいて本作の読み方がわかったように思えた。
むしろレオくんは欲望がはっきりとわかっていて偉い。
嫌な仕事が続くとちゃんと嫌だと体が反応してできなくなる。
人間(特に日本人)もこのように明確に反応できれば鬱にもならずにすむかもしれない。ブラック企業に勤め続けたりもしない。むろんそれで自殺したりもしなくて済む。
美味しいものを食べママに甘えお外で楽しく遊ぶ。
猫(いや人間でも)求めるべきものをきちんと求めているのがレオくんなのである。
人間(特に日本人)もレオくんのようになれたらと思う。
萩尾先生はレオくんを見ていて「このようにありたい」と思われたのかもしれない。
そう思いながら読み返すとこれまで以上にレオくんが可愛く思えてきた。自己愛だ。
レオくんは自分がこうしたいと思えばぴゅーっとものすごい勢いで走る。
興味を持つと真剣に取り組む。
しかししょせん猫(私)だ。
その力は乏しい。
第一作目「レオくんの小学一年生」はとてもつらい。
国語の時間にボール遊びをしてしまう。
美人で優しい女先生に笑顔で「レオくんはいいこかな?」と訊かれる。
いいこは国語の時間にボール遊びをしてはいけないのだ。
あくびをしてはダメ、お顔を洗ってはダメ、しっぽをぱたんぱたんしてはいけないのだ。
先生はやさしく「いけません」と言ってくれるのだがそれもまたとてもつらい。
おはじきの「青いおさかなをならべてね」と言われ、赤いおさかなをならべてしまう。そういうことをしてしまうのではないだろうか。
おともだちが体育の授業でサッカーをしていたので自分もやってしまうのだが自分のクラスは音楽の時間だった。
レオくんはこそこそと教室に入るがみんなから「ちこくだ、ちこくだ」とはやしたてられる。
レオくんは泣きながら歌を歌う。
先生に「おうちに帰る?」と訊かれたがレオくんは我慢する。
なぜならこの授業が終われば待ち望んだ給食の時間だからだ。
ところが今日は「給食のない日」だったのだ。
レオくんは今まで頑張って来た甲斐が失われた。
レオくんは学校へ行くのをやめる。
向いてなかったのだ。
「ま、いいか、ネコだものね」ママは言う。
こう言ってもらえるのならどんなにいいだろうか。
しかし人間社会(特に日本)は忍耐を常とする。
第二話「お外に出して」
ハインライン『夏への扉』を知っている者はにやりとする作品だ。
本作では冬を嫌うのではなく雨を嫌う話になっている。
猫を飼った者はお外に行きたがる猫に翻弄された経験があるだろう。
第三話「レオくんのお見合い」
ママのお友達のおばさんがお見合い教室を始めたらしい。
お菓子を食べながら奇麗なお姉さんとお話をすると聞きレオくんはお見合いに行きたくてしょうがない。
ネクタイをして出かけるレオくん。
お見合い相手は猫ではなく人間の女性なのだが当たり前だ。
レオくんは私たちなのでお見合い相手も人間なのだ。
一人目の女性に「平等にしたい」と言われ一人で食べていたお饅頭を差し出すのがおかしくて笑った。
むろん「平等にしたい」は家事のことでレオくんに「ご飯作れますか」と訊いたのだがレオくんが用意するのは猫用缶詰をぱっかんして皿に出すもので女性は爆発する。
愉快だ。
ふたりめ。
「こどもを何人つくりますか」の問いに「あ、ぼく去勢しています」はいかんだろ。笑う。
しかしこれからあるかもしれないなあ。
三人目の女性に「男は仕事をしてなきゃ」と言われ働きだすがストレスでおなかをこわしてしまう。
最後の四人めは相手から求められたのだが十五階に住んでいるとわかりお外でトイレができない生活は無理とレオくんから断った。
お見合いは難しい。
やはりレオくんは普通の我々なんである。
第4話「ヤマトちゃんの恋」
この話は以前レオくんと同クラスになった女の子がレオくんへの思いを描いたもの。
人間の子の生活の大変さを描いたものである。
そんな生活の中にレオくんがいたらどんなに癒されるだろうという思いが描かれている。
第5話「レオくんのアシスタント」
レオくんがマンガ家一本先生のアシスタントの代行を頼まれる。
もちろんうまくいかない。
猫の手も借りたいという時だったのでやむなく頼まれるがはっきりいって却って邪魔をしている。
うう、つらい。
コーヒーを入れる場面もつらい。
そして自動車を描く・・・つらい。
でもアシスタント料二千円をもらいママにドーナツを買って帰る。
以下端折るがこのようにレオくんは自分自身なのだ。
いや自分はレオくんよりスゴイと言える人は本作を面白く読めないのかもしれない。
手持ちの『レオくん』本にはこのほか、「レオくんのグルメ日記」「レオくんの映画スター」「マルちゃんのスキヤキ」と「レオくんの写真日記だよ」(実際の写真)が収録されている。
wikiには「レオくんの狩りーヤモリ編ー」「マイのカタログ生活」「レオとまいごの子猫」「マイちゃんの木登り」が記載されているのだがデジタル版でもそれらは収録されていないようだ。
いつかどこかでお目にかかりたい。
ところでレオくんは「大森レオ」というのが本名なのだけどこれは「森本レオ」からきてるのだろうか。