ガエル記

散策

『AWAYーアウェイー』萩尾望都 原案:小松左京『お召し』 その2



ep3から「3月21日」世界が分かれた日です。

 

 

ネタバレします。

 

 

つまりep2から時間が戻ってAWAY世界では大人たちがどこかに行ってしまったと子どもたちが途方に暮れている。

ここで登場するのが大介が所属するバスケ部の後輩、河津克巳である。

ちょっと昨今のマンガではあまり出てこない個性的容貌の持ち主といえる。

しかも彼はとんでもない活躍を見せる。

それに関わってくるのが次に登場する不思議な笛少女ネネちゃんだ。

場面緘黙症だという説明がされる。

リコーダーを首から下げてピーッと吹くことでなんらかの意思表示をしているようだ。

AWAYでは子どもたちがどうしたらいいのかわからず不安の中で試行錯誤している。

 

そんな中で河津は免許が要る除雪車を操縦してコンビニから弁当を集めてきた。大人はもういないのだ。

自分の家の赤ん坊にミルクを飲ませ暖かな抱っこ紐で連れてきている。河津の登場を「大人がいた」と勘違いする者がいる。

 

さて本作では2023年2月に東京震災が起きた、という設定になっている。

この震災で安全教育がなされたため本作の子供たちは「自分の身を守る」という学習をしている、のである。

しかし実際はたぶんそういう教育は成されていないだろう。

『お召し』では12歳以下の子供しかいないのだがそれでも「田舎の子供」たちが「都会の子供たち」に食糧の栽培方法を教えていくためだれも「いなかっぺ」などと馬鹿にする者はなくなった、という描写がある。

現在で都会と田舎でどのくらいそうした知識差があるのか知らないがなんにせよ生活能力が高い者が優位に立つはずだ。

 

そして恐ろしい事態が起きる。

ジャガジャガマンと言われる高山リストの登場だ。天才ピアニストだったリストは数年ひきこもりとなって祖母と暮らしていた。

大人がいなくなり外へ出てきたリストは突然ネネちゃんの家を訪れ出てきた別の子供たちを殴り殺してしまうのだ。

さらにネネちゃんを誘拐し自宅に監禁してしまう。

ネネちゃんの家はピアノ教室だった。

小さい頃一緒にピアノを習った仲である一紀はリストの家を知っていた。

一紀は勇敢にもネネちゃんを助けるために人殺しであるリストの家のベルを鳴らす。

リストは狂っていた。

「大人はもういない。好きな子はさらってきていいんだ」とリストは言う。

河津は家から猟銃を持ってきてリストを撃ち殺した。

大介は「殺すことはなかった。こんなことは警察に」と言った。

「警察なんていないよ」一紀はそう答えた。

 

萩尾望都は何故「河津」というファニーフェイスの持ち主ややもすると「ブサ面」と言われる男子に大人びたクールな役を与えたのだろうか。

他のマンガならこの役は知的眼鏡ハンサムでバスケ部先輩の大介がすべきものだろう。

大介はかなり落ち着いていてしっかり行動してはいるがそれはやはり高校生の範囲内なのだ。

河津はそれを超えた能力を見せる。

除雪車を操縦し食糧を集め赤ん坊の世話をする。

そしてこういう事態に最も恐ろしい小さな子に加害する男に制裁を与える。

最も「かっこいい男」の役を大介にせず河津にさせてしまう。

そこが萩尾望都マンガなのだなと思うのだ。

 

 

二巻に入る。

ここで不思議な少年「雪の王子」が現れる。

一紀たちは小さな子供たちを懸命に世話していた。

そんな中でひとりの子供が迷子になってしまう。

GPSがあるため居場所はわかるが探しに行くと誰かわからない奇妙な少年に助けられていたのだ。

 

18歳未満の少年少女たちは必死で「大人のいない世界」で助け合い生きて行こうとするが中には自己的な行動をする者も出始める。

そして医院では突如空中から赤ん坊が出現するのだ。

 

赤ん坊のおくるみにはあちらの世界「HOME」からの手紙が入っていた。大介をはじめ18歳になった者たちがAWAYからHOMEへ移動してきたこと。無事なこと。そして近々移動する予定の者の名前が記されていた。

その様子を「雪の王子」が眺めている。

 

「HOME」と「AWAY」が存在することが明確になる。

「HOME」に帰還する者に大量の手紙そして赤ん坊を抱かせて一緒に移動できるか、という実験をするが本人と手紙は一緒に移動したが赤ん坊は残された。

 

一巻で登場した仏子沼議員の孫娘が「HOME」に帰還した。

帰還した者は必ずしも喜びだけが与えられるわけではない。

仏子沼えりかもまた帰還した苦しみを味わう。

大人たちはなかなか理解してくれないのだ。

 

AWAYではHOMEからの赤ん坊移動が少なくなった代わりに出産が増えていく。

が、子供たちだけの世界ではどうしても出産で死ぬ確率が高くなってしまうのだ。

そんななかで一紀が飛比夫との子供を妊娠するのだ。

 

 

時代は一気に2051年になる。

もうAWAYには一紀も飛比夫もいない。

ふたりの息子である羽生がふたりの映像データを見る。

そこには世界が二つに分かれた理由が語られていた。

世界を二つに分けたのは「雪の王子」だった。

彼は地球がカウントダウンを始めたと語ったのだという。

彼はさらに未来から破滅のメッセージを受け取ったのだ。

それを防ぐために多くの人に話したが誰もそんな話を聞かなかったという。

「正しいと思う意見を伝えることがどんなに難しいことか」

これが本作のテーマであろう。

しかし「雪の王子」はその解決方法は自分たちで探せという。

 

解決方法は誰も教えてはくれない。

自分で考えるしかないのだ。

 

ところで羽生君が飛比夫の髪の黒さと一紀の天然くせ毛を受け継いだのはわかるがイクちゃんが同じ髪質なのはなぜなんだろう。

まったく同じふたりの髪型。

何か深い意味があるのか。

ううむ?