ネタバレします。
「人間の巻」
スサノオの命は八俣の大蛇を退治し、その尾からひとふりの剣を発見する。
竹内老人は武に「聖痕もあとふたつ。この先はわしが案内しよう」と告げる。
この後本作で名場面のひとつが描写される。弟橘姫(おとたちばなひめ)の登場である。
このあたりでは丸石の信仰があるという。
この丸石を本作では卵としてその中から人が生まれた物語があり、かぐや姫も元来は竹ではなく卵から生まれた話だったらしい、と語る。
老人はとある洞に祀られていた丸石=卵を杖で叩き割る。
中には保護液に浸った白骨が入っていた。
「失敗じゃ」
老人はこの「卵」がタイムカプセルによる人口冬眠だと説明し次々と丸石=卵のカプセルを叩き割るがどれも中身は液につかった白骨もしくはばらばらになった遺体であった。
「完全なカプセルはわしのだけじゃったか」
老人は飛鳥の岩船にあるカプセルで冬眠を繰り返し長い歴史の証人となってきた。
ある時は武内宿禰、ある時は蘇我馬子、安倍晴明と名乗り神の言葉を伝え続けてきたという。
今から十年前にも一度目覚め武が聖痕を受けたと知って彼が成長するのを待った。
しかし自分以外のカプセルはすべて失敗だったのだ。
この時、武は特に大きなカプセルを指さし「あれは何か?」と問う。
老人は「これはヤマトタケルの妃である弟橘姫のものだ。おまえに会わせたかった」と言いながらもそれを割るのを躊躇う。
武は自ら剣を取り出し「ぼくがあけてみる」と言ってその丸石を叩き割った。
そこには若く美しい女性が入っていて目を開けた。
「タケル様。わたしです。弟橘です」
女性は立ち上がり手を差し出した。
だが次の瞬間弟橘姫の身体はズルッと崩れ落ち液体の中にその身体は溶け合ってしまう。
美しい顔だけが残り「タケル様。わたしは・・・」とささやく。
稲光が走った。
武の持つ剣に雷が落ちた。
またひとつ聖痕が肩に刻まれる。
武は弟橘姫が差し出す鏡を受け取った。
左肩に第七の聖痕が印され草薙剣と鏡がそろった。
あと一つの聖痕と玉があれば三種の神器がそろう。
それは武と母が住む武蔵野の家にあるのだと老人は告げる。
東京、武蔵野は小雨になっていた。
武の母は菊池彦からの電話を受けていた。
実は武の母は菊池彦の姉だったのだ。
菊池彦は頼む。
「ねえさん、井の頭公園に例の物を持ってきてくれ」
武が家に戻ると母の姿はなく二階ホールに菊池一族の緒形二郎が立っていた。
彼はもう菊池彦の手先にはならないと言い手に勾玉を持っていた。
そして彼は十年前武の父を殺したのは菊池彦だと語る。
悠久の昔、邪悪な暗黒神を祭る民族が古代日本にいた。その後、その神の怒りで彼らは殆どが死に絶えたがほんの一握りの者が生き残った。
その一族はやがて選ばれた者が現れるという家伝をそれぞれ伝えていった。
武蔵の山門家、九州の菊池家、特に菊池家で顕著だった。
そして十年前武の父は諏訪の洞窟で暗黒神の使いタケミナカタを発見する。
当時15歳だった菊池彦、3歳だった武。
菊池彦の自負と野心は人一倍強かった。アートマンの資格は自分にあると信じ切っていたがタケミナカタは武に聖痕を与えたのだ。
菊池彦は武を抱えて逃げた武の父を刺し殺したのだ。
「その時、お前のおふくろも一枚かんで・・・」と語りかけた緒形二郎を二階ホールから武の母が突き落とし自らも転落死した。
緒形が持っていた勾玉がはじけ飛び武の額を傷つける。
第八の聖痕だった。
武は父の仇敵菊池彦を殺しに外へ出る。
菊池彦は姉を待っていた。
遅い。
その間にヤマトタケルのクマソ征伐ルートと武が進んだルートを確認しながら「もしやヤマトタケルもアートマンで・・・」と思考していた。
背後に人影を感じた。姉のレインコートだった。
「ねえさん?」
しかし発せられたのは「菊池彦!」という言葉だった。
菊池彦は刺された。
女性のレインコートの帽子がはだけるとそこには武の顔があった。
ヤマトタケルは女装してクマソを討ったのだ。
武は三種の神器を身に着け八つの聖痕を受けていた。
隼人が駆け付けた時、菊池彦は息絶えていた。
「天の巻」
武は呼びかけ天の声が答える。
隼人の前に竹内老人が現れた、
隼人はすべてを知りたいと願う。
老人は語る「武の進んだルートはオリオン座の形に似ている。「参」とは古代オリオンの三ツ星を指す言葉だ。そして馬の首暗黒星雲はオリオン座の三ツ星の東端にあるのだ」
武はその馬の首暗黒星雲の側に浮遊していた。
天の声は武に問い続ける。
決断を下す時だ。おまえと共にこの暗黒星雲は宇宙のどこへでも行くだろう。地球というちっぽけな星の支配者に収まるか。宇宙の秘密を覗いてみるか。さもなくばさらに偉大でさらに恐ろしい運命に赴くことになる。おまえの意志ひとつだ。
しかし武は「地球に帰りたい」とだけ望んだ。
武が目を覚ましたのは真っ赤な巨大な太陽を見る荒れ果てた大地の上だった。
誰もいない・・・馬の首の形をした岩の上に餓鬼どもがいるのみだった。
「ここは・・・地球の未来なのか」
東の空から何かが昇ってくる。
それは馬の首暗黒星雲だった。
飛鳥ー岩船。
隼人の目の前で竹内老人は再び卵型のタイムカプセルに入る。
「次は百年後くらいか」
誰もかもがいなくなってしまった。
隼人はひとり岩の上で日が昇るのを見る。
武は弥勒になったのかもしれない。
何度も手に取った本ですが今回初めてきちっと読み終えたかもしれません。
難しくてついつい目が滑ってしまうのです。
こういう風にノートを取りながら読むのが一番入り込める形式に思えます。
『百億の昼千億の夜』の阿修羅も悲しかったですが同じ人間体だけに武くんの悲壮感はより強く感じられます。
この時代(1960年~70年代)のSFは壮絶な終末を感じさせます。