1993年2月「ヤングジャンプ・コミックス」
稗田礼二郎のフィールド・ノートより
ネタバレします。
『闇の客人(まろうど)」1990年1月号「YJベアーズクラブ阿蘇
本作最高に爆笑、と言いたいけれどかなり人が死んでてその表現はサイコパスだが面白すぎるのだ。
某県大鳥町。大小五十ほどの集落からなる過疎地域である。
そんな場所を活性化しようという「町おこし」が流行った時期があるが大鳥町もその一つであった。
そしてその「町おこし」のために「百年近く前に断絶した古い祭りを復活させること」が行われる。
我らが稗田礼二郎はそんな「古い祭り」について相談を受けたらしい。彼は以前文献などから「大鳥村の神迎え神事」を調査していたのだ。
相談したのは郷土史家で祭りの執行委員でもある河村だった。
そして祭りの日を迎え招待されたのだ。
が、それは「祭りを復活したもの」ではなく「都合よく作り上げた祭り」だったのだ。
まずは旧暦十一月に行われるものが観光客が来やすい夏休みに変更される。(12月ごろになる、年によって変わる)
町おこしのために高さ23メートルの大鳥居が作られた。
だが「駅から来た観光客からの見映え」を優先された鳥居は本来と向きが変えられていた。何のための鳥居かを無視したのだ。
礼二郎が招かれ歩いていると鬼の面をかぶった一群が通る。
「鬼面の記録はなかったのでは」と問う礼二郎に担当の山下は「皆で話し合ってアピールするのではとなったのです」と答える。呆れる礼次郎に河村は「いや、まれに鬼踊りもあったらしいのですよ」と口添えした。
これは後に事実だと判る。
やがて神主が祝詞を唱える儀式となる。この祝詞は稗田礼二郎の調査から判明したものだった。
しかしその祝詞ゆえか。突然大きく風が吹き鳥居を通り抜けていく。
さらに巫女が登場する。ミス大鳥コンテストで優勝した少女だという。これを機に若い娘の町離れが減ればいいという思惑らしい。
ところがこの巫女が悲鳴を上げて突然死する。首が切られ血しぶきが飛ぶ。
「作られた祭り」の間違いがここで明確になる。
礼二郎は「あの娘は人身御供だったのでは」と考える。
その後祭りのために新しく建てられた「鳳ホテル」でおぞましい事件が次々と起きる。
食事の皿がひっくり返り中に虫が湧いていた。
テーブルが壊れシャンデリアが落ち廊下に点々と虫の湧いた足跡のようなものが浮き出たのだ。
無理矢理作り上げた祭りはあちこちで間違いを犯しそのために恐ろしい状況へ進んでいく。
しかしここでもうひとり祭り復活に熱心な青年が「大鳥村出身の年寄」大谷徳三が東京に住んでいると知り訪問しこの祭りについて聞き招待しようとしていた。
この行動が祭りを救うことになる。
作り上げた祭りは完全に崩壊のほうへ導かれる。
神ではなく鬼が来たのだ。
訪れた大谷老人は大鳥居が鬼門を向いているという。やがて鳳ホテルの壁が壊れそこから「恐ろしいなにか」が出てきた。
礼二郎と河村はそれを追いかけた。
神事が凶と出た場合、依り代の神柱を大鳥居の外で燃やさねばならない。
しかしその神柱はすでに燃やされていた。
鬼の面をかぶり(テキトーに)踊っていた人々が次々と鬼神に倒されていく。
そこに大谷老人が来て落ちていた鬼の面をかぶり逃げ惑う人々の群れと別方向に歩き出したのだ。
それはなんだか物悲しい踊りだった。
老人は踊りながら大鳥居を潜り抜けていく。
そしてその後を追うように大きな足音が続きやがて鳥居を大きな風が通り抜けていった。
稗田礼二郎もまたその後を追いかけ老人が踊りながら異界の者を導いていくのを見た。
大隊異界から来るものを人間が選ぶことなどできるだろうか。
幸をもたらしてくれる神を望んでも災いをもたらす神が来る時もある。そんな時のために生贄を用意してまでこの貧しい山村は危険な祭りを止めることができなかったのだ。
そして中には貧しさのために祭りの時に神の国へ行ってしまう者もあったのだろう。
その時大鳥居が崩れ落ちた。
祭りは終わったのだ。永遠に。
最初に爆笑だと書いてしまったけどこうして書き終わってみると笑っているどころではなかった。
これは新興宗教にも似たものを感じる。
祭りも宗教も長い時の間に何度も間違いとそれ故の犠牲を繰り返しながら少しずつ洗練されていくものだろう。
祭りや宗教を作ることはそれだけの犠牲と覚悟が必要なのだろう。
それはなんにでも言えることだろうけど。
そしてそうした犠牲をどのくらい少なくできるのか。
例えば「マンガ」という業界にも多くの犠牲者が必要だったのだと思う。悲しい。
「花咲爺論序説」と「幻の木」事件ー概要ー
前回この二つの作品が奇妙な形で描写されていたのをここで解説されている。
航空機墜落事故で助かった兄妹はストーンサークルの中で不思議な花に包まれ再生したのだった。
一年後、稗田礼二郎が出会った同じ山村出身の瓜生織江という未亡人、そして天野という浮浪者風の男の物語。
ふたりの話は微妙に食い違ってはいたがひとつの木に対して何か異常な執着があった。
ふたりの関係は民話の瓜子姫と天邪鬼に重なり合うものだった。
この二つの話は”生命の木”信仰という形で重なるものだった。
瓜子姫はその木を祭る巫女であり、天邪鬼は人間が生命の木を手に入れようとする時に妨害する者である。
そして稗田礼二郎は瓜生織江と天野が一つになったことを感じたのである。
これ自体奇妙な話だ。