稗田礼二郎フィールド・ノートより
下の画像があんまり怖いので一枚上に乗せました。
まあこちらも怖いですが。
ネタバレします。
コワスギル
「川上より来りて」1988年7月号「月刊ベアーズクラブ」
「生命の木」シリーズと呼ぶべきだろうか。
「花咲爺論序説」と「幻の木」が融合していく。
天木薫・美加兄妹が諸星先生のお気に入りになったのか、最初からこのシリーズを描くはずだったのか。
航空機事故で死んでしまうはずからの転生をして妹の美加はいわば超能力を身に着けてしまう。
本作で稗田礼二郎は「幻の木」のその後を追っている。
そして美加は「光る木」を夢見てどうしてもそれを見つけねばならないと兄の薫に訴えたのである。
過疎が進む村で瓜生織江の養父母が白骨死体となっているのを見た稗田はさらに川上へと行く。
そこで稗田は民族学者である橘と天木兄妹が崩れ落ちる一軒家から逃げ延びた場面に出会う。ここでも美加は危険を察知したのだ。
稗田は橘が子供たちを利用していると考え不快を表したが橘は「子どもたちが来たがったのだ」と弁明した。
稗田と橘は反発(主に稗田が橘に対して)しながらも様々な考察をしていく。
天岩戸などの岩や木に興味を持つ稗田に対し橘の興味は生命の種子だ。
生命の種子を手にいれようとする橘に稗田は嫌なものを感じている。
稗田、橘そして天木兄妹の四人が夜の山道を進んでいると不思議な河童祭りの集団と出会う。
怖れる美加と薫を廃家に残し稗田と橘は河童祭りの夜神楽を見学する。
そこに環状列石(ストーンヘンジ)を見つけ驚く。
天木兄妹を置いてきた場所に戻ると薫が「妹がさらわれた」という。
河童の面をつけた者たちに抱えられていったのだ。
後を追う。美加は河童面たちに岩の上に置かれ殺されそうになっていた。
が、それを止めたのが瓜生織江であった。
織江、その内面に天野を含んだ彼女は美加の手を引いて沼の中に入っていく。
織江は自分の内の天野の語らった。
その前に光の木が現れる。
「高木の神だ」
橘は「種子がある」と叫んで光の木へと向かったが激しい光に目をくらませてしまう。
物語は終わり橘は再び種子を求めて去った。
美加と薫は東京へと戻る。
そして稗田は川上で会った老夫婦が前には見なかった乳飲み子を抱いているのを見る。
「天孫降臨」
第一章 大樹伝説 1990年12月号「月刊ベアーズクラブ」
つまり「川上より来りて」から2年経っている。
物語的に良い感じに時間が経った。
稗田は橘に呼び出され駿河国一ノ宮浅間神社のある河口湖で再会する。
稗田は大樹伝説を探していた。
橘から情報を得て枯野村と呼ばれる寒村へと向かう。
枯野村では廃村が決まり町へ移り住むことになっていた。
ここで稗田は奇妙な体験をする。
たった今まで人がいた気配のする廃家で古い鏃を八つ拾い上げ去ろうとするが突如男が現れ「鏃を置いて行け」と怒鳴られる。
戸惑いながら鏃を入れた箱を渡そうとすると「捨てろ」と言われる。
その時雷が鳴り響き男はカアッと叫びその手足が長く伸びた。
と、雷が男に落ち、稗田も倒れ伏した。
はっと気づくと男は死亡していた。
他の村人は行方不明。
稗田の大樹伝説収集のフィールドは意外な結果に終わる。
しかしここから物語は「妖怪ハンター」のタイトル的なアクションミステリー物へと展開していく。
胸躍るサスペンス。
あの天木薫が突然稗田の大学を訪ねてきたのだ。
そして「枯野村で手に入れた鏃を貸してほしい」と言い出す。
「なぜそれを?」と問う稗田に「妹を助けたい」と答えるのだ。
妹・美加は不気味な新興宗教団体”光の木真理教団”に目をつけられていた。
困ったことに兄妹の両親が取り込まれてしまったのだ。
教祖”探女様”は美加を生き神様のようなものとしてその超能力を利用しようとしていた。
稗田がその教団に関するTV番組録画を観ていた時「先生、薫です」というインターホンからの声がする。
ところが録画の中の美加が「先生ドアを開けちゃだめ」と言ったのだ。
「先生どうしたんです。早く開けてください」
ドアスコープから覗くと薫がいた。
稗田はチェーンをかけたままドアをわずかに開いた。
「先生用心深いですね。チェーンを開けてくださいよ」
稗田ははハッとしこの状況は瓜子姫と天邪鬼に似ていると感じる。
薫はなおも「早く開けてください。鏃を受け取りに来たのです」
「おまえはだれだ」と稗田が叫ぶ。
薫の指がドアにかかり手がひゅんと伸びて中に入ってきた。
僅かに開いた隙間から薫の顔が歪みながらこじ入ってきたのである。
と、突然、反対側の窓に美加の姿が現れた。
美加は光を発し兄の姿をしたばけものを追い払い、消えた。
続く。