ネタバレします。
『天孫降臨』
第二章 樹海にて 1990年12月号「月刊ベアーズクラブ」
”光の木”真理教団の信者全員が教祖もろとも行方不明となる。
富士の裾野の青木ヶ原に入り集団自殺を行っているのではないかと報道される。
ここを訪れたのが天木薫と橘であった。
稗田もまたひとりで向かったがその前に美加に電話したところ呼び出し音の中に
「来ないで・・・せめて三本目の矢に気を付けて」という声が混じって聞こえた。
その矢とは稗田が枯野村で見つけた古い鏃で作ったもので橘が持ってきた天の鹿児弓につがえて薫が射るのである。
稗田は駆け付け三本目の矢にカバンを投げつけ惨事を防ぐ。
その間に”光の木”真理教団の教祖は美加を連れて逃げ去った。
薫、稗田、橘が後を追って地下道へ入るとそこは溶岩樹形と呼ばれる洞窟となっている。
さらに進むと巨大な洞窟が三人を待ち受ける。
ここで稗田と橘は「古事記」に登場する高木の神が日本における世界樹の信仰の名残だという稗田の説について語り合う。
そして橘はその種子が目的であった。
土蜘蛛が現れ三人を襲う。
薫が羽羽矢を射ると土蜘蛛は岩壁をつかんで死に絶えたがそのはずみに岩壁が崩れ中から天の岩船が現れた。
三人はその船に乗ってさらに奥へと行く。
薫は妹美加がいる方向を察した。
そこには非時(ときじく)の花が咲き乱れていた。
土蜘蛛が二匹。その向こうに美加が探女につかまっている。
そしてそのそばで大きな種子が発芽しそうになっていた。
薫はその種子めがけ最後の天の羽羽矢を射かけた。
凄まじい光が発せられる。
薫は稗田に「美加を連れて逃げて」と頼む。
橘は種子をめがけて進む。
稗田は天の岩船に美加を乗せてこの場から逃げ去る。
薫と橘を乗せることはできなかった。
ふたりを乗せた船は上昇し地表を抜けて空中に跳びあがった。
稗田は美加をしばらくの間、匿うことにした。
美加は巨大な洞窟への道は塞がれ見つけることはできないという。
そしてまた「お兄ちゃんは生きている。もうすぐ帰ってくる」と告げたのだ。
第三章 若彦復活 1991年夏の号「YJベアーズ」
美加は薫が戻ってきたと稗田に告げる。
その場所はあの「枯野村」であった。ふたりは枯野村を訪れる。
しかしその場所にはなにもかもがなくなっていたのだ。
地面推したがぼうっと光り、ところどころに異様な植物が生えていた。
が、稗田がそれに触れようとすると消えてしまう。地底でみた花と同じであった。
やがてストーンサークルのような石組が見えると美加は「あそこよ」と叫んで走った。
追いかけようとする稗田の脚をつかんだ者がいた。
それは地面から這い出てきた橘であった。
橘の身体は崩れ元に戻らないと嘆き稗田に助けを求めてきた。
稗田は橘を制して美加の側に走る。
しかしここでも探女が崩れた形で登場しふたりの邪魔をする。
薫はすぐそばに来ていたが体がない為その名を呼ばなければならないと美加は言う。
稗田は天の若彦が高彦となって復活するという神話を思い出し薫を新しい名で呼ばなければならないと美加に告げる。
薫は種子からもらった力を全部返してしまうけどいいね?と呼びかけ美加は承諾した。
光の中から薫の姿が現れる。
稗田は橘にも「思念を集中し自分の元の身体をイメージするんだ」と叫ぶ。
探女は激しい落雷を受けて絶命した。
橘の身体は戻りそうになるが最後で「種子」に対する欲望を抱いてしまいそのまま固まってしまった。
枯野村を去っていく三人。
稗田の前を行く美加は「内緒だけど少しだけ残しておいたの、力」とささやいた。
「天神様」1990年7月ー8月号「月刊ベアーズクラブ」
山間の町鞍土市、鞍土高等学校で郷土史研究会に所属する川島は10年前に体験した事件が忘れられずにいた。
それは天神様の境内の裏で遊んだ時のことだった。姉と近所の小さな女の子と何かわらべ歌を歌うと突然地響きがして強い風が起こりバタンとお堂が閉まる音がした。
気がつくとその女の子ーちいちゃんの姿が消えていたのだ。
お堂に隠れたのかと見たが誰もいない。
そのままちいちゃんは行方不明になってしまったのだ。
やがてちいちゃんの父母が天神堂の前で死んでいるのが見つかった。
川島はまだ幼かったからよく覚えていないのだが年長だった姉は責任を感じて高校から東京へ行ってしまいあまり地元に帰ってこないのである。
この姉が東京で稗田礼二郎のゼミにも関係し相談に乗ってやってきたという経緯になる。
稗田は川島少年の話を聞きますます興味を持っていく。
「通りゃんせ」というわらべ歌と重ねて異世界への通り道を探っていく物語だ。
日本人は宗教心が薄いというがこうした古い信仰への恐怖はかなり強烈に持っているのではなかろうか。
信仰心がないのならどんどん話していいはずだがどこか「あまり触れない方がいいよね」的なタブーを感じている。
わらべ歌遊びなどどれもなにかしらのタブーを思わせるものだ。
今現在の子供たちがどのくらいそれで遊んでいるか知らないが本作に描かれているように「もう触れない方がいい」と禁じてしまっているのかもしれない。
私もとても怖いので容易く触れない方が良いと思っている。
本作はかなり「妖怪ハンター」らしい話になっている。
ハントするのは稗田氏よりも川島姉弟になるが。