ガエル記

散策

『六福神』〈妖怪ハンター〉諸星大二郎

 

1998年12月「ヤングジャンプ・コミックスウルトラ」 

稗田礼二郎のフィールド・ノートより

 

 

ネタバレします。

 

「産女の来る夜」1994年8月号「月刊ベアーズクラブ」

産女ー難産で死んだ女の霊が化けた妖怪。なんという悲しい話だろうか。

妖怪自体が怖いのではなく女性の妊娠と出産に対する家父長制が恐怖なのだ。家の繁栄のために女性の性と生が犠牲になるシステムを嫌悪するのは当然だろう。

こんな場所に住んではいけない。

そう思わせるほど悲しい産女を諸星氏は描いている。

 

 

「海より来るもの」1994年2月号。

大島&渚コンビの物語の舞台はやはり海辺の町、粟木。

こんなに「ドザエモン」が大量に出てくるマンガがあっただろうか。

しかしそのドザエモンたちは姫様=エビス様を取り返しにくるのである。

とはいえドザエモンなので体は腐ってて動くことも出来ず寝ころんでいるだけで「返せかえせ」と叫ぶのだ。

 

ここに海で息子を失い悲しんでいる父親が登場する。父は息子の七回忌だと言って海を眺めここにいつか漂着するのではとあきらめきれないのだ。

が、その息子は神主に拾い上げられ七年間「エビス様」としてまつられていた。

役目が終わって息子は海に漂っていたいと父親に訴える。

そして他のドザエモンたちも姫を取り戻して海を漂う生活をする、というなんとも摩訶不思議な作品なのだ。

絵的に決して華麗ではないがこれはこれで・・・幸福なのだろうか。

 

「鏡島」1995年6号「ウルトラジャンプ

1995年、というのは阪神淡路大震災地下鉄サリン事件という大きな事象がありアニメ「エヴァンゲリオン」がヒットしたという凄まじい年なのだが諸星大二郎はこのようなマンガ作品を描いている。

 

本作も大島&渚コンビによる物語である。

粟木の沖に左右ほとんど同じ大きさの二つの島があり東島・西島というのだが二つ合わせて鏡島と呼ばれている。

そして大島&渚はお盆の時期にこの二つに分かれた鏡島に渡ることでもう一つの大島&渚が現れ実世界と異世界の体験をする。

実世界と異世界の狭間が描かれる。

 

「六福神」1995年1号「ウルトラジャンプ

表題作の「六福神」だ。

大島&渚コンビ作品である。

 

ある日渚は海岸にあげられていた船の影にいた奇妙な小柄な男に出会う。

渚は大島にその話をして連れ立ちその男におにぎりを持っていく。

男は五郎と名乗り大島に「追われている。おまえの家に置いてくれ」と言い出す。

大島が困惑してる間に渚が海からきた「なにものか」に襲われてしまう。

止めようとした大島はなぜか気を失ってしまった。

気づくと渚もまた気を失い倒れていた。

慌てる大島に五郎は「六福神が連れて行ってしまった」と言うのだ。

大島は気絶したままの渚を背負い彼女の家へと運んだ。

 

この物語は「七福神」の神の存在が明確ではないことから作られているのだろう。

七人の神様のうち寿老人と福禄寿は同一人物だとされることもありそれだと六人になってしまう。

本作ではこの六福神が「縁起が悪い」と嫌われているのに大晦日を過ぎ正月になった途端「七福神」となってめでたい福の神になる。

この時増えた一人はその年によってまちまちだというのだ。

 

大島のおばあちゃんは孫が話している五郎を見て「福助五郎」のようだねと言い「六福神除けのお守り」だと言って獏が描かれた御札を渡してくれる。

 

渚を連れ去った六福神はまさに大晦日前の不気味な神である。

五郎が逃げ出すのも頷ける。

そして彼らは五郎の代わりに渚を新しい一員にしようとしていた。

五郎からそれを聞いた大島は勇敢に渚を取り戻しに行く。

実際の身体は家に寝ているが六福神に連れ去られた魂を救い出したのだ。

その時大島は六福神に襲われるがおばあちゃんからもらった「獏の御札が彼を守ってくれたのだ。

 

しばらく福助五郎がいたせいか大島家で一等の福引があたる。

そして神社でもらった宝船絵にポニーテールの女の子が描かれていた。

 

「帰還」1995年2号「ウルトラジャンプ

「女犯」の恐怖を描いたもの、といえようか。

またも大島&渚コンビ作品。

 

九世紀から十八世紀にかけて海のかなたのフダラクを目指し単身小さな船に乗り込み死を覚悟して海へ乗り出していった修行僧たちがいた。

その渡海上人のなかに智涯という僧がおり三年の間厳しい修行をしさらに断食と精進潔斎を重ね渡海の日を迎えた。

ところがいよいよと言う時に彼は信徒たちの中に美しい娘を診て欲情の心を起こしたのだ。

智涯は浄土への熱烈な思いも消え失せ突然渡海を止めると言い出した。

しかし同門の僧たちは嫌がる智涯を無理矢理船に乗せ外から釘を打ちつけて沖へ流してしまったのだ。

智涯はフダラクにはたどり着けずその魂は今も娘を求めて海の上を漂っているという。

 

ここでまたまた渚は魂魄となり戻ってきた智涯の怨霊を追い返した。

彼の船に乗ろうと集まっていた魔道に堕ちた悪僧たちは消え失せた。

 

なんだろうなあ。無理に色欲を断ち切ろうとするとこのような魔道に堕ちてしまうのか。

あまり無理をしてはいけない。

 

「淵の女」1995年10号「ウルトラジャンプ

美しい年増女性が表紙を飾る。

稗田礼二郎も久々に登場。

 

礼二郎先生は河童伝説を調査しにメドチ沢の集落を訪れた。

河童に化かされると言うのか礼二郎は散々に弄ばれてしまうのだがそこに現れた美しい女性によって河童たちは元の人形の姿に戻らされてしまう。

その中に一組の男女の諍いが絡められていく。

男は死に、女は悠然と生きていくのかそれとも河童だったのだろうか。

夏の夜の匂いがするこれもまた良作だ。