2005年11月「KCデラックス」
1974年から始まったこのシリーズが30年の時を経て描かれます。
他の作者作品の多くが最初は緻密でアクティブなのに段々と投げやりになっていく感がありますが本シリーズはクオリティが落ちないどころかより複雑に活動的になっていくようです。
ネタバレします。
序章「魔障ヶ岳」2003年5月号「メフィスト」
稗田礼二郎は美しい和服女性と話をする。
年かさの上品な佇まいだ。
その女性が言う「この子に良い名前をつけてあげたい」と。
その女性は前作『六福神』「淵の女」で登場している。
本作では稗田が赤井と共に御霊山山系の入り口姥ヶ峠で見かけたとなっている。
(どういうことなのかは不明)
魔障ヶ岳に向かった稗田と赤井は山路に迷いながらも女性から教えられた山伏の籠り堂にたどり着く。
電灯もないお堂の中は暗くひとりの女性の返事がした。
それはふたりの知り合いである岩淵翔子であった。
そこへ五人の山伏たちが到着する。
その後、なんとも場違いな女の子がふたり「はいっていいですかァ」とやってくるのだ。
あっけらかんとしたこの二人組によって場がかき回されていく。
稗田・赤井は山伏たちに岩淵家に伝わると言う”天狗の宝器”の写真を見せ「天狗の秘所」を探しに行きたい旨を伝えて同行を願うがその答えは芳しいものではなかった。
その夜は寝苦しいものだった。突然大きな音で目が覚める。
なにかが外からお堂の戸にぶつかっているのだ。お堂が壊れそうになるのを男たちは内側から抑えこもうとした。
が、突然別の壁が破壊され岩淵翔子の荷物が奪われそうになるのを翔子が抑えようとして身体ごと吸い込まれるように空中へ飛ばされてしまう。
驚く男たちもまた抑えていた戸が壊れ飛ばされていった。
岩淵翔子は稗田が山伏に写真で見せた”天狗の宝器”の実物をもってきていたのだ。
お堂は破壊されただけでなくなぜか腐ってもいた。女の子たちは怯え何もわからないという。
翌朝早く山伏たちは出発した。
稗田、赤井、翔子の三人も後を追う。
女の子ふたりはなぜか姿がもうなかった。
三人が進むと山伏のひとりが立ち止まっていて「ひざを痛めたので下山します」と言う。
がしばらく話をするうちに「わたしが案内しましょう」と先に立って歩き出す。
稗田は不思議に思った。
険しい山道を行くとあの女の子たちがからかうように声をかけてきた。
さらになぜか山伏たちの一行の前にも彼女たちは現れ一緒に水浴びをしましょうと裸で誘いかけてきたのだ。
慌てて逃げ出したものの山伏たちは自分たちより先に彼女たちがきたことに驚きを隠せない。
山伏は上を目指したがまたも裸の少女がその上に現れ「天狗の宝器ってなあに?」と尋ねられる。
先頭の山伏はわあっと叫んで落ちけがをしてしまった。
山伏一行は修行をあきらめ下山していく。
その時なぜか稗田一行を案内していた山伏が隠れるように姿を消した。
が、再び現れた彼はなにもなかったかのように稗田一行に加わる。
稗田もまた全裸の少女たちを見て異様なものを感じる。
「何かいる。ただの幻覚だ」と叫ぶが少女は「幻覚かしら?」と言ってひらりと稗田の側に寄ってきた。
石が降り始め進めずにいる一行。稗田は敵意のないより大きくて強い気配を感じた。
和服姿のあの女性だった。
険しい山の上に品良く立つその女性は稗田に話しかけた。
「ほらあそこにいます。あなたたちの見たいものが」
「なにがいるんです?」と問い返す稗田に視線を送りながら彼女は言った。
「だからそれを、あなたたちに名前をつけてほしいの。良い名前を。そうすれば」
そこにその”モノ”がいたのだった・・・
海の怪の後の山の怪。
どちらも怖い。
「海と山とどちらが好きか?」という問いかけがあるがこれからその問を見かけたら「どっちの怪が好きか?」と言う意味になりそうだ。