ネタバレします。
一章「魔に遭った男」2004年1月号「メフィスト」
主導者の赤井高信助教授は遺跡が三世紀は下るまいと判断していた。
記者はドンピシャで発掘場所を当てた赤井に「新たなる神の手と呼ばれているそうですが」と話しかける。
ここに出てきた「神の手」(発掘における)は記憶している人もいるだろう。
2000年に起きた「旧石器捏造事件」だ。
本作の赤井助教授はそんな事件を思いわせるほどの発見を次々に実現していた、と描かれている。
しかし発掘を手伝う人々からは「赤井先生には黒くて大きな影が寄り添っていた」とか「遺跡の上を何か黒いものが這いまわっていた」とかいうオカルト的な噂がささやかれていたのだ。
そこへ稗田礼二郎が訪ねてきたが赤井はなぜか逃げ出してしまう。
代わりに稗田を出迎えたのは黒田と言う赤井の助手であった。
そして記者の予想は「赤井助教授は邪馬台国を発掘したいのだ」ということであった。
赤井助教授の発掘場からは人骨の頭部が発見される。
さらに円紋ー苧環の形が彫られた岩が発掘された。
稗田はやっと赤井を捕まえ問いただす。
「きみはあれになんと名をつけた?」
それは序章「魔障ヶ岳」のラストに登場した「なにものか」につけてほしいと言われた、あれのことだ。
赤井は「覚えていない」と言い張るが稗田は「思い出したまえ、大事なことだ」と詰め寄った。
赤井は「あそこであったことは何一つしゃべってはいけないって、そうでしょう?」と再び逃げてしまう。
稗田が後を追う。が、そこに奇妙なモノが現れ稗田は動けなくなってしまう。
「どうしました?」と問いかけてきたのは黒田だった。
黒田は「あの磐座があの場所に、三輪山の麓近くの山腹にあったのは偶然じゃない。磐座は磐境とも言ってこの世とあの世の境でもある、神域と俗界の境界です。境とか辻とかはこれもまた魔が出やすい場所だ」と言って去っていった。
その後、赤井は黒田によって邪馬台国を探し出すために歩き出しそのまま行方不明となった。
赤井はあの時「モノ」対して「魔」と言う名をつけたのだ。
赤井は止めようとする稗田を嘲笑いながら耳成山をシャベル一本で掘り起こそうと走り出した。
疲れ果てて赤井は死んだ。
虚栄心こそが魔であった。
二章「神を連れた男」2004年5月号「メフィスト」
またまた不思議な話だ。
稗田礼二郎は信田昭一=霊信院といういわゆる修行オタク男の行方を捜している。
彼の妻は善隣信命院という人気の祈祷師で彼は結婚後も職を転々としながら各地の霊場を回って修行を続けていたという。
その彼が御霊山の霊場から神様を連れてきたというのだ。
それからの霊信院の験力は凄まじいものとなったが力が強すぎて霊信院の手に負えなくなってしまったという。
そこで彼は再び修行の道へ戻ったのである。
なんとも不思議な話をおばさんたちが繰り広げる。
しかも妻は心当たりはないけど人探しとして十万円で見てあげると言い出し稗田は辞退するしかなかった。
帰途につく稗田を追いかけてきた若い女性小野寺みゆきは心当たりがあると言い奇妙なことに東京のライブハウスに稗田を連れて行く。
ステージで歌っているのは最近若者に人気の信仰宗教狂天騒神会の岩田狂天だ。
客席から「ゴッタクセン!ゴッタクセン!」という掛け声がかかり狂天が御託宣を始める。
「そら、おまえなにをぬらくらあそんでおるか、これから世のため人のためッ」
ラップで語り歌っていく。
「生きるってことは素晴らしいッ。何も難しいことはないんだぜ、何も悩む必要もないんだぜッ」
その手に握られているのは天狗の宝器であった。
狂天はかつて霊信院を訪ねあの天狗の宝器をもらったという。それ以来霊感を得て自分で教祖になったのだ。
ライブハウス後、稗田は狂天の楽屋を訪ね師匠の行き先を問う。
狂天は天狗の宝器を投げて「北だね」と告げた。
ラップの御託宣。若者に人気の信仰宗教。
現実に存在するのか知らないがありそうな気がする。
その後、、稗田は小野寺みゆきと共に霊信院を探し出す。
道すがらみゆきは自分の父親が病気になり霊信院に会ったところ改善したものの神様がついたといって奇行が増え修行の道に入ってしまったという話をする。
霊信院は羽黒山で山伏になっていたが他の山伏を見下すような言動から嫌われてしまい今はひとりで山に籠っているらしい。
霊信院は空中で浮かび人々に話しかけた。
みゆきの父もその中にいる。
みゆきは持ってきた天狗の宝器を霊信院に投げ返した。
すると彼の前に何者かが現れそれを受け取った。
稗田は自分が持っていた天狗の宝器を違う方向へと投げた。
「おまえは神ではない。魔障ヶ岳の名前もない何かだ。洞窟へ帰れ」
何者かはそれを取ろうとして霊信院から離れ消えた。
あっと言い叫び声とともに霊信院は地面に落ちて死んだ。
狂天はそれを見て「そら、神様なんてそんなものはいると思えばいるし、いないと思えばいやしない」といって「さあ行こうぜ、自分の神様捜しに」と去っていく。
実際にあったことなのだろうか。
と思ってしまうリアルさだ。
稗田氏もなかなか残酷なことをする。