ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その1

いつも単行本の横に発表および発行年月日などを記しているのですがこの作品に関してはかなり複雑で修正加筆さらに中断そして掲載誌も様々に移り変わるなど煩雑すぎるので省略することにします。

本作は双葉社『月刊スーパーアクション」にて1983年から始まった作品であります。

私は画像右上の双葉社発行の第一巻1984年第2刷から数冊持っているのですがこれが中断されているうえに「大唐篇」として大幅な加筆修正が成されているとされていて頭を抱えました。これでは今不足している巻を買い足しても意味がない・・・。

しょうがないのでもうやむなく『大唐篇』デジタル版を購入し手持ちの双葉社版と読み比べながら進めることにします。

とはいえ全部そろっているわけでもないので中途半端にはなりますが。

 

 

ネタバレします。

 

 

序 花果山の章

 

【第1回 群雄中原に鹿を逐い 嬰児深山に野女を求む】

 

時は隋末の大乱の頃、河南地方の小さな村。

戦乱によって村の若い男は兵役を課せられある女性の夫も連れていかれた。しかもその女性は朱厭という大猿にさらわれた後こっそりと産み落とした子供を村の女の前に置きざりにし再び逃げ去ったのだ。

その女の家に引き取られ赤ん坊は育ったが飢饉が続き村人は苦しんでいた。

悟空と名付けられたその子の後をつける野女がいた。

悟空が養父に訊くとその野女こそが自分の母親なのだと知る。

そして悟空は養母に「食べ物を見つけてこい」とどやされた。

 

道に迷い空腹で倒れた悟空を助けてくれたのが申陽仙人と名乗る老人だった。

老人に諭され家に戻ろうとした悟空は途中で斉王の李元吉と会い部下に殺されそうになるのを逃げだす。(この箇所が加筆)

福地村は李元吉のいち軍に皆殺しにされていた。

 

孫悟空は天涯孤独の身となってしまったのだ。

 

冒頭はほぼ同じく進んでいくが第1回目の終わりころでもう加筆されている。

 

【第2回 花果山に申仙理を諭し 水簾洞に妖魔 威を顕す】

 

村に戻った悟空は生き残る者とてなく焼かれつくした惨状を見る。

どこからか呼び声が聞こえその方向へ進むと野人となった母の姿があった。

追いかけていくとそこには流民らが惨殺され食われていた。

食っていたのは数人の野人だった。

悟空に気づいた野人は追いかけてきた、が、射かけられた矢で倒れてしまう。

悟空を助けたのが李冰だった。

李冰と別れ悟空は申陽仙に会いに行く。

が、辿りついた場所は野人=玃猨の住み家である谷だった。

そこに申陽仙はいた。

滝=水簾洞に近づこうとした悟空を止める。

が、夜中に眠っていた悟空は不思議な大猿によって起こされひとり水簾洞へと足を運んだ。

そこには鎖につながれた巨大な一つ目の猿がいた。

「わしは斉天大聖だ」

 

【第3回 悟空壺中に天地を見 李冰渓谷に野人を狩る】

 

斉天大聖。本当の名は無支奇という。

李冰はこの怪物を退治しようと考えていた。

その怪物は悟空に対しわしの称号を受けわしに忠誠を誓えばこの鎖が解けるのだ、と告げる。

彼は悟空に壺を覗かせ様々な人々の惨状を見せた。

「そのようになりたくなければわしの称号を受けるのだ」

躊躇う悟空に斉天大聖は「おまえには資格がある。おまえはわしの息子なのだ」と言う。

そしてかつてその力を授かったという男の遺体が纏う帽子と衣装をつけその矛を取るがいいというのだった。

衣装を着けた時騒ぎが聞こえ行くと野人となった母が矢を受け殺されたのを見る。

悟空は激しい怒りを覚え矛を取って戦おうとした。

「悟空、帽子を忘れているぞ」斉天大聖はその帽子を悟空にかぶせたいのだった。

やむなく帽子をかぶった悟空は激しい頭痛に苦しむ。

その途端斉天大聖を縛る鎖が解け出した。

李冰は今こそとばかり怪物に突撃したが鎖は解け斉天大聖は唸り声と共に立ち上がる。

 

岩が崩れ人々は逃げ惑った。

斉天大聖の手には気を失った悟空があった。

李冰はひるむことなく無支奇を狙う。

が、大猿の力はすさまじく岩を崩し濁流が流れ出した。

李冰もそして悟空もその流れに呑まれていった。

 

斉天大聖が悟空をつかむ場面で白土三平カムイ伝』の大男に抱えられたカムイを思い出す。あちらの方が微笑ましかったが。

 

【第4回 李冰再び大聖と相対し 真君神鎖にいて妖猿を縛す】

 

斉天大聖は見境なく暴れ出した。

李冰は顕聖二郎真君に祈り大きな鎖を身にまとう。

申陽仙は悟空と李冰を探し回ったが見つからない。その姿に声をかけた奇妙な老人がいた。老人は「人の力では大聖様をどうすることもできぬ」と言いながら天鼓を聞いて「どうやらこたびは天は大聖さまに味方しておられぬ」とつぶやいた。

鎖を纏った李冰は無支奇に挑み自ら食われることによって斉天大聖を縛り上げた。

その様子を見ていた奇妙な老人は「大聖さまは滅ぶのではない・・・伏龍となって隠れただけじゃ」と言い逃げ去っていった。

「通臂!」と申陽仙が叫ぶ。

 

鎖を吞み込んだ斉天大聖は「悟空、わしの称号を受けたことを忘れるな」と叫びながら水の中に沈んでいった。

 

悟空は頭の痛みに苦しみながら彷徨っていった。

 

ここで李世民が登場するが双葉社版は「天機は我にあり」と威勢がいいがデジタル版では「援軍に駆け付けたこの李世民の立場がないわ」と愚痴を言っているw

 

 

 

大唐篇 五行山の章

 

【第5回 双叉嶺に怪童 虎を打ち 断頭坡に校尉 車を停む】

 

月日は流れ花果山から二百里余り離れた李家村

あの帽子の金冠を付けたままの悟空は気が触れたごとくになりあてどなく山から山へとさすらいついにこの双叉嶺にたどり着いた。

悟空は民家の豚を盗み、虎を殴り殺して食べることで生きぬいていた。

あの通臂が話しかけても聞く耳がなかった。

そしてとうとう民家の罠にかかり捕まってしまう。

 

折しも都へ帰る県令が訪れ珍しい者がお好きな李世民様に見せたいから連れて帰りたいと言い出した。

悟空の護送は趙校尉が担うこととなった。

が、しばらく行くうちに悟空を乗せた馬車が壊れやむなく野営することとなる。

部下たちは「ここは断頭坡、二年前に百人もの賊を処刑した場所です」と気味悪がった。

校尉は𠮟りつけたが、真夜中野ざらしとなった白骨が「そこにいるのは斉天大聖。おれたちの恨みをはらしてくれ」と呻きだしたのだ。

 

もちろんあの『西遊記』とはまったく違う物語である。

しかし実力はあれど名声は低かった諸星大二郎が有名になったのはこの作品だったと知る。

皆、冒険譚が大好きなんだなあ。

わたしも久しぶりに読みどう思うかなとやや心配もあったのだがとんでもなくおもしろい。

なにこれなにこれ。なぜこんなにおもしろいのか。まだなにも活躍と言うほどもしてないのに。

李冰さんに涙。