【第6回 処刑場に鬼哭啾啾 黄河上に悟空大いに怒る】
断頭坡で野ざらしになっていた白骨たちは恨みの声を上げた。
「大聖、おれたちの怨みを晴らしてくれ」
しかし悟空には自分がなにものかすらよくわからなくなっていたのだ。
そこに通りかかったのが旅の僧、玄奘だった。荊州から来て長安へ帰るところであった。
玄奘は白骨たちにお経を唱えさらに檻の中で横たわっている悟空が心を取り戻せるよう祈ったのだった。
すると今までどうしても思い出せなかった悟空が自分の名前を思い出したのだ。
悟空は別の道へ進んでいく玄奘を見送った。
やがて一行は黄河をさかのぼる船に乗り込んだ。
すでに別の一行がいたが彼らは劉黒闥の一味、紅孩児を護送していた。都へ送られ斬首されるのだ。
船は三門峡の難所にかかり岸で人足を集めて引っ張ることとなる。
ここで校尉が弱き者たちに横暴を繰り返すのを見た悟空は怒りで戒めを壊し檻を破り護衛の者たちを川へ投げ捨てていく。
そこへ斉天大聖が現れた。
【第7回 怪童 波浪を逃れ 猛児 兇刃を振るう】
紅孩児は悟空に助けを求め悟空は彼の檻を叩き壊した。
すでに誰もいなくなっていた船は波に砕けふたりはそこから脱出した。
一軒家を見つけた紅孩児は悟空に目配せし中に入って一家を惨殺してしまう。
悟空は驚き苦言を呈したが紅孩児はなにも思っておらず早く服を探せと言ったのみだった。
飯を食べながら紅孩児は行く末を案じる。
紅孩児は劉黒闥の一味で劉軍は唐に抵抗する最後の集団だった。悟空に仲間に入れと言うのである。
悟空は紅孩児の話を聞くうち唐の李淵の三男が李元吉と知り、生まれ故郷の村を皆殺しにして焼き打ちした仇だと話す。
悟空は紅孩児についていくことにした。
しかし河北までの道は遠くしかも飢饉で人々は飢えていた。
途中で奇妙な老人に物乞いをされる。
その老人は通臂公であった。通臂公はあっさり紅孩児を倒して去っていった。
悟空は彼を思い出せない。
ふたりは先を急いだ。
その様子を高みから見ているひとりの美しい女性がいた。
紅孩児、悟空はようやく劉黒闥の勢力圏である相州に辿りついたのである。
【第8回 ニ雄 雪原に唐兵と戦い 侠女 慈悲にて姉を救う】
ところが紅孩児たのみの相州城はすでに唐軍が占拠していた。
仲間を助けようとして紅孩児そして悟空も唐軍によって殺害されんばかりとなった。
が、そこに現れたのがあの時ふたりを見ていた謎の美女だった。
不思議な呪文を唱えると吹雪となって唐軍を惑わせた。
おかげでふたりは逃げおおせたが今は頼る味方もなく取っ組み合いを始めてしまう。
しかしなにも食べずにきたふたりは力尽きやむなく洞で眠りこんだ。
人声に目が覚める。
どうやら姉が妹を売り飛ばし、男がその女を連れて行こうとしているのだ。
紅孩児は「あの女は食用として買われていったんだ」と言う。
悟空は怒りで男を斬り殺し続いて妹を売りとばした老女を追いかけた。
そこへ登場したのがあの女だった。
紅孩児は「竜児女じゃねえか」と声をかける。
竜児女は「このふたりはあたしの姉さんよ」と言い姉たちに米を渡すと姉たちは慌てて米を受け取り去っていった。
竜児女はふたりをつれて平頂山へと向かう。
【第9回 平頂山に児女 夥を頼み 聚義庁に英雄 棒を振るう】
竜児女から「出兵してきたのは李建成。劉軍は東へ敗走した」と聞いた紅孩児はひとり館陶へ旅立つ。
竜児女は紅孩児には武器と馬を与え悟空には自分についてきてと命じた。
竜児女は「ここの山賊の頭領はふたりの兄弟で金角銀角と名乗っている。油断のならないやつらだがこの平頂山はたてこもるには絶好の場所だ」という。
彼女は悟空を連れ真っ向から山賊の棲み処に入り込んだ。
金角は留守で銀角と話すことになったが竜児女は挑みかかってきた大男を軽々と投げ飛ばしてしまう。
銀角は竜児女を騙し穴蔵に落としてしまうが竜児女は弱った素振りもなかった。
ふたりを救い出したのはあの通臂公。ふたりは穴蔵から出るや山賊たちを殺していった。
金角が大した獲物もなく戻ってきたのを労っていた銀角は竜児女たちが抜け出したと知って竜児女に躍りかかる。
が、竜児女の力の前に銀角はなす術もなく打ち殺されそうになる。
兄の金角は弟を庇い竜児女に命乞いをした。
銀角そして部下たちもそろって竜児女にひれ伏したのである。
「今日からこの山はあたしが取り仕切るよ。劉黒闥の残党を集め唐軍と戦うための拠点とする」
【第10回 竜女 単にて平頂山を制し 悟空、双して五行山に入る】
竜児女は悟空を連れて平頂山の山頂へ登り続く山々を見渡した。
竜児女は五行山を指さし「最初から山賊なんかどうでもいい。あんたを連れて行きたいのはあの五行山よ」と言い出す。
険しい断崖絶壁を竜児女はすたすたと歩いていく。
悟空はおそるおそるついていくしかない。
やがて凍った細い渡り道を竜児女は簡単にわたっていく。
悟空は足を滑らせた。
竜児女は「下を見ずこっちを見てゆっくり来なさい」と言いながら頭巾を外した。
その頭には悟空と同じような輪をはめていたのだ。
竜児女の側にたどり着き「あんたは一体何者だ」と問う悟空に竜児女は向かいの崖を指さした。「今渡ってきたところをごらん」
なんとこちら側から見ると向こうの崖は斉天大聖の胸像となっていたのだ。
白雲洞というその洞窟に竜児女は入っていった。
竜児女が小さな壺の中を覗かせるとそこに金角銀角兄弟が悪だくみをしている様子が見えたのだ。
悟空はかつて水簾洞で同じように壺を覗いて見たことを思い出す。
さらに竜児女には鎮元大仙という師匠がいて口減らしのため捨てられた竜児女を拾い育ててくれたこと、その大仙が壁に彫られた古代文字を訳して書かれた文字がありそれは民衆を率いて乱をおこした歴代の人物の名前だということを話して聞かせた。
そして天罡三十六星とは違う地煞七十二星のほうに竜児女と悟空の名が刻まれていたのである。
地煞とは「星占いで最も凶相とされる星、または悪魔、邪神、あるいは凶悪な人や勢力を指す言葉」とある。
ここでまたも通臂公が現れ悟空が孫該の子であって斉天大聖の子でもあると話し
「おまえはその遺志を受け継がねばならぬ」と説いた。
悟空は「負けると判って戦うなどいやなこった」と出て行こうとするが竜児女の言葉で引き返してきた。
留まった悟空は真夜中ひとりきりで水浴びをする竜児女を見る。
谷底で服を脱ぎ滝の水を浴びた竜児女は斉天大聖の姿を見あげた。
「わたしに斉天玄女の力をおかしください。竜児女はあなたに呼びかける者のために戦います」
孫悟空に出会ったと告げ本当にあなたの称号を受け継いだ斉天大聖たる者なのか、ここにいればそれはおのずからはっきりするでしょう、と語る。
竜児女は頭にはまっていた輪を取り外し棒を持ってしばらく無言で祈る。
そして悟空の視線に気づいたらしくきっと睨みつけた。
悟空が岩に身体を隠し再び覗くとその姿はなくなっていた。
このあたりいろいろと改変が行われている。
印象としては改変前では竜児女が悟空にかなり接近するのに改変後はそうした接触が無くなっている。
ここの触れ合いが好きだったひとは残念かもしれない。