ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その4

ネタバレします。

 

【第16回 竜女 環を投げて少年を援け 悟空 賊を殺して学僧を救う】

 

竜児女はもう斉天玄女の力をすっかり失っていた。

銀角に追い込まれ逃げる術もない。

ついに投げ網によって捕獲されてしまう。

 

平頂山では唐軍と山賊の戦いが始まっている。

金角大王が立ちはだかっていた。

 

銀角によって手籠めにされそうになった竜児女だが唐軍の襲撃で危うくも助かる。竜児女は捕らわれながらも悟空を救おうとしていた。

悟空の目の前に竜児女の銀箍棒が現れ悟空はそれを武器として山賊相手に戦う。

そして捕らわれていた玄奘を救った。

 

【第17回 竜児女 心迷いて魔を忘れ 孫大聖 新珍鉄を得る】

力を失ったとはいえ金角銀角が出払った山賊砦の手下ども相手ならさすがに竜児女にはかなわない。竜児女は逃げおおせた。

天竺から来た迦菩提師によってかくまわれさらに白雲洞へ戻る。

迦菩提師は一緒に来ないかと誘うが竜児女は覚悟を決めていた。

が、ここで迦菩提師は通臂公に殺されてしまうのだ。

悟空は五行山へと戻る途中奇妙な猿たちに出会う。今まで出会った人間の顔をした猿たちが「おれたちの仇を討ってくれ」と言うのだ。

 

悟空は白雲洞に戻ってきた。

竜児女が無事に水を浴びているのを見てほっとする。

竜児女は裸のまま悟空を抱きしめた。

「悟空、いいのよ。もういいの」

ふたりは結ばれたのだ。

そして竜児女は斉天玄女の力をほんとうに失ってしまう。

 

それを知った通臂公はこれを利用して悟空が金箍棒を引き抜くきっかけを作る。

悟空に壺を覗かせ銀角が竜児女を襲う場面を見させたのだ。

竜児女と結ばれた悟空にとってそれは憎悪となり今までの躊躇がなくなり悟空はついに金箍棒を抜いたのである。

「銀角、待っていろ」

 

【第18回 聚義庁に悟空 火を併ち 平頂山に将軍 屍を見る】

銀角が竜児女を犯したと思い込み(まあそう思っても間違いじゃないが)怒りが沸点に達した悟空は金箍棒を持ち山賊砦に殴り込みをかける。

容赦なく手下どもを殴り殺し銀角の頭を金箍棒で潰してしまう。

勢いづく悟空は手下どもごと柱をも切り倒してしまい建物がきしみだす。

 

唐軍が山賊砦に入り込んできた時はすでに生きている者は誰一人いない惨状と化していた。

そして岩の上に悟空もまた倒れた。

 

【第19回 斉天竜女 玄門を遮り 九天の秘文 灰燼に帰す】

金角は弟銀角の死を知らされる。さらに山寨はすでに唐軍の手に渡ったとも知る。

銀角を討った悟空を殺さんと金角は怒涛の如く走り抜ける。

 

白雲洞では竜児女が目覚め悟空が金箍棒を抜いていなくなったと知る。

今や白雲洞には霊気のかけらすらなく覆っていた霧が晴れ守るものすらなかった。

そして唐軍が五行山を登ってくるのを見た竜児女は岩壁の文字を見せるわけにはいかないと最期の戦いを待つ。

 

白雲洞へ渡る細い道の半ばに彼女は立ち唐軍を迎える。

先頭に来た将軍の槍を胸に受けながら竜児女は銀箍棒を対面壁の斉天大聖の胸像めがけて投げた。

銀箍棒は大聖の一つ目を直撃しそこからひび割れ断崖が崩れ落ちていく。

落岩が落下し細い橋道は簡単に割れ落ちた。

ともに竜児女、将軍ら唐軍の兵士たちもいっせいに落ちていく。

 

目を覚ました悟空は地鳴りを聞き急ぎ白雲洞へ走る。

竜児女は落ちた岩の間にいた。

悟空はその身体を抱き上げた。

「悟空・・・天竺へ行きたかった・・・」

 

 

竜児女・・・初めて読んだ時そのかっこよさに見入ったものの女性としてどうしても悟空のようになれなかったことに失望もした。

でも今思えば女性の強さとはやはり男性とは違うのだと思う。

とはいえ時代的にやむないことではあった。男性的な戦いを選ぶしかなかった彼女を憐れむ。

彼女がもう少し長く生きれたら女性としてのほんとうの強さを理解できていたかもしれない。

 

また記しそこねていたが、デジタル版では竜児女に与えられたのが銀箍棒で悟空が受け取ることになったのが金箍棒というようにふたつの箍棒が用意されているが双葉社版では竜児女が持っていた金箍棒を悟空が受け継ぐことになる。

 

更に付記

wikiを見ると「竜児女の最後の描写は掲載誌によって異なっている」となっている。

最初読んだ時はそう思っていたはずだが、双葉社版単行本で読むと確かに竜児女は銀角によって「処女を奪われている描写」となっているのだが諸星氏の描き方が控えめで小さいのでうっかりしていた。双葉社版単行本では竜児女は銀角にレイプされているのだ。

デジタル版では明確に銀角の暴行に邪魔がはいって取り残された後脱走して「処女を悟空に捧げた」と描写されているのである。それを通臂公によって見届けさせ「これを利用して」と画策させている。

諸星氏はここまで自分を律して修行していた竜児女が銀角如きに破滅させられてしまうのはあまりに哀れとなったのだろう、と思われる。

せめて竜児女自身の覚悟で可愛い悟空によって神通力を失くさせるという救済をせずにおられなかったというべきか。

 

が、手持ちの単行本(第一刷)には「竜児女の首がさらされた」と言う箇所はなかった(はずだ)(見落としたのかなあ)

悟空を助けた少女や姉の首は確かに斬り落とされているので竜児女の首と言う描写は初出の漫画雑誌掲載時のみということなのだろうか。

 

 

 

玄武門の章

 

デジタル版では2巻三分の二。双葉社版では三巻の半ば。

【第20回 黒松林に大王 棒を奪い 白泥崗に村民 奇を見る】

ここで竜児女のふたりの姉は紅孩児にあっさり殺されてしまう。

紅孩児は竜児女も悟空も殺されたのだと思い込む。

 

悟空は竜児女の墓を作りそこに墓標として自分の金箍棒を突き立てた。

悟空を捜していた通臂公は竜児女の霊の声に導かれこの墓にたどり着く。

竜児女の霊は通臂公にこの棒を託す。

が、通臂公はうっかり金角に奪い取られてしまうという不覚をいたす。

 

悟空はすべてを失い希望も生甲斐もなくしていた。

行き倒れになっているところを心優しい娘に救われる。

しかしこのことを娘の父親が密告し悟空は逃げ延びる。

 

道すがら金箍棒が松の枝にぶら下げられているのを見る。

それは金角の罠であった。

 

【第21回 金角 大いに村裏を閙がし 悟空 水沢に舟を押す】

金角は現れた悟空に「弟の仇」と襲いかかる。

金角と悟空の戦いは長く続きなかなか決着を見せない。

村人、役人そして通臂公も巻き込んでの争いとなる。

通臂公は金角から離すために悟空を呼びよせた。

金角は矢を浴び役人らに取り押さえられた。

 

通臂公はこの先に舟があると告げる。

悟空は通臂公が様々な策略を仕掛けたと気づくがそれを蒸し返す気持ちはもうない。

捨てたかった金箍棒はまた手元に戻ってきた。

それをつかんだまま悟空は舟に乗ろとした。

その時再び金角が現れたのだ。

 

第三巻に入る。双葉社版は三巻の終わりころ。

 

【第22回 讐を復せずして落命し 三蔵 志を得られずして出立す】

金角と悟空の戦いは唐軍によってまたも阻まれる。

悟空は舟で逃げようとするが唐軍によって傷を負い続けながらも悟空の名を呼ぶ金角の執念に呼応して悟空は陸地に戻り金角に引導を渡す。

が、その隙に唐兵から矢を射られ足に傷を負い倒れた。

悟空は唐軍の李世勣によって捕らえられてしまった。

 

その頃、玄奘は船に乗り長安へ向かっていた。その横には以前悟空を占った占い師が乗っていた。

また紅孩児は親父とも思う劉黒闥が翌朝処刑されるという噂を聞き馬を駆った。