ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その7

【第30回 厩に逃れて弼馬に見え 観を尋ねて 異人に遇う】

玄奘は天竺行きたさに宮城を勝手に歩き回り皇帝に会いたいと願うのだがこれはあまりにも無謀であった。

どういうことか、紅孩児と地湧夫人が悪だくみをしている場面に遭遇し話を聞いてしまう。

物音をたててしまった玄奘は逃げ出すが紅孩児は「殺せ」と叫ぶ。

玄奘が逃げ込んだのは悟空が捕らえられている厩であった。

思わず経を唱えるとその声は幻影に苦しむ悟空を再び救うことになる。

紅孩児と地湧夫人が追ってきた。

悟空が玄奘を匿う。

地湧夫人が悟空に気づき近寄ってくる。

が、紅孩児が「馬丁だ」と呼びかけふたりは逃げていく。

 

悟空は玄奘に声をかけ「城外の落胎観という道観へ行ってそこに目の大きな爺さんがいたらおれがここにいると話してくれ」と頼む。さらに悟空は「どうして天竺へ行くんだ?」と問うた。玄奘は「真実を知るためだよ」と答える。

 

玄奘は悟空の願いを聞き落胎観へと行く。

あばら家にいたのは若い書生風の男だった。

殺気だちながらその男は玄奘を問いただす。

が、いきなりバッタが飛び出しその隙に玄奘は逃げ出した。

その先に爺さん・・・通臂公がいて玄奘に悟空からの伝言を聞く。

 

さらに玄奘は以前自分を追い返した役人に天子暗殺計画を聞いたと訴えた。

そして「もしお役に立てたなら天竺取経の件を」と願い出たのである。

 

【第31回 飛蝗ひとたび興りて 野を埋め 奼女ふたたび来たりて 陽を求む】

イナゴの集団が農村を襲い作物だけでなく人間までも食い尽くしていく。

イナゴは宮中にも害をなした。

紅孩児は地下道の秘密を探り両儀殿へ行く方法を見つけ出す。

 

悟空は玄奘のことを考えていた。

玄奘に会うとなぜか頭の痛みがとまって自分を取り戻せる、なぜなんだろうと。

竜児女は最期に「天竺に行きたかった」と言い玄奘は「真実を知るために天竺へ行く」と言う。

「真実とはなにか」悟空は思う。

易者が言っていた言葉「西に吉。誰かとふたりで」そこには二本の竹がはえていた。

その字は「天竺」となる。

 

その時地湧夫人が厩に入ってきて悟空を誘惑する。

そのうしろには地湧夫人の息子の哪吒太子が立っていた。

「母上と関係する男はみんな殺してやる」

 

【第32回 弼馬温 御馬監を逃れ 孫大聖 大いに宮城を鬧がす】

紅孩児は陰を踏みながら地下道を通り抜ける。

 

地湧夫人は哪吒を抱きしめ怒りを抑え込んだ。

そこへ将軍が入り込んできた。

地湧夫人と哪吒は「無礼者」と怒りの声を上げる。

将軍の後ろには部下らもいたが地湧夫人は慌てることもなく毒薬を撒き苦しめた。

さらにふたりを守るように現れたのは石像の陰道女だった。

悟空を殺そうとすると大量のイナゴが発生した。通臂公の仕業だった。

 

紅孩児李世民の寝室にはいり武器を突き立てようとした、がそこに寝ていたのは魏徴だった。

魏徴は紅孩児の片目を斬りつける。

その背後から李世民が現れたのだ。

 

大量のイナゴの顔はイナゴによって死ぬこととなった人々の怒りの変化だった。

「斉天大聖ならばその鎖を切れ」

悟空は鎖を引きつながる壁岩ごと振り回した。

陰道女は哪吒を加えて運び地湧夫人も逃げ出した。

 

 

四巻に入ります。双葉社版では五巻の半ば。

 

【第33回 意馬 変事に走り 心猿 虎口を脱す】

悟空は通臂公から金箍棒を受け取り裸馬にまたがり逃走した。

甘露殿で窮地に追い込まれていた紅孩児を救い共に馬に乗って逃亡する。

さらにイナゴの大群がふたりを守る。

そこへ追いかけてきたのは李勣だった。

 

【第34回 太宗 仮の鄷都を脱れ 奼女 真の冥府に沈む】

斉天大聖の力を持った悟空は李勣すら脅かし馬の群れに身をひそめ紅孩児と共に地下道へ降りた。

 

ここから先の地下道、冥府森羅殿での攻防はすばらしい。

やはり諸星大二郎はこの世とあの世の端境の物語作家なのだと改めて思う。

淫乱美女地湧夫人とその子哪吒太子。

冥府森羅殿に潜みながら地上の皇帝やがては天上の皇帝にもならんと欲していた哪吒奼三太子が悟空、紅孩児を交えながら唐の皇帝李世民とその家来に迫られながらも冥府の力を借りて戦う。

だが地湧夫人が李世民に言い寄るのを見た哪吒は母をもう別の男にとられたくないという思いのみで夫人を刺してしまう。

地湧夫人はそれを受け入れせめて皆を道連れにせんと冥府の崩壊を引き起こした。

 

森羅殿が崩れ落ちていく。

だが李世民は逃げ、悟空は紅孩児を背負って逃げ出した。

そして哪吒もまた陰道女によって救われる。

 

【第35回 陰母 山中に児の骸を守り 太宗 渭水に夷狄を迎う】

悟空と紅孩児は山中へ逃げる。

突然外界へでた哪吒は眩しさに目が見えなくなるがそれもやがて落ち着き周囲を見渡した。

昼間陰道女は石になったが夜になると再び動き始める。

哪吒は悟空らの姿を見「あやつのせいですべてがおかしくなった」と襲いかかる。

そこに紅孩児の投げた短刀が飛ぶ。

短刀は哪吒の胸を貫く。

陰道女は悟空にとびかかった。

が、倒れた哪吒の上に守るように覆いかぶさるとそのまま動きを止めた。

哪吒の死と共に陰道女は石に戻ったのだった。

 

力尽きたように眠り目を覚ました悟空の周囲には李勣とその兵たちが取り巻いていた。

「ここまでか」

つぶやいた悟空に李勣は兵たちを止め「おれがやる」と言い放つ。

だがそこへ伝令が届く。李勣はただちに悟空を後にして去ってしまったのである。

突厥の大軍が長安のすぐ近くにまで迫ったという報せであった。

李世民が即位してからわずか二十日後のことだった。

李世民は自ら急遽六騎で渭水へ駆けつけた。

 

この混乱に乗じて悟空はまんまと逃げおおせてしまう。

魏徴の部下、黄袍のみが悟空の行方を捜したがなにもわからなかった。

 

【第36回 侍郎 現に身の栄華を求め 三蔵 夢に須弥山に登る】

玄奘から皇帝暗殺計画と地下道を聞いたことで董侍郎はちゃっかり吏部尚書の地位を授けられたが玄奘との約束は無視することにしてしまう。

 

だが紅孩児に襲われ玄奘の名を告げる。

紅孩児の一振りで董侍郎の首は落ちた。

紅孩児は次に玄奘をつけ狙う。

玄奘は董侍郎の死を知り策を弄して天竺行きの許可をもらおうなどという行動を恥じた。御仏の罰だと思った。

紅孩児の尾行を察して易者袁守誠の家にかくまわれた。

そして占いを願ったが袁守誠は「あなたはすでに決心しているではありませんか」と答えた。

 

玄奘は塔にこもって行を行った。

眠ってしまい夢を見た。

激しい波濤の向こうに美しい須弥山が見える。

が蓮を足掛かりに玄奘は海を渡り須弥山にたどり着くとその身体はふわりと浮かび頂上の建物まで昇った。

仏陀か観音か。

と思い見やるとそこにはあの悟空が座っていたのだ。

玄奘はハッと目覚めた。

 

この時の悟空がものすごく美形なのだ。

座り方もまるで誘うような不思議な色気があるのだ。

どういうことなのか。

 

悟空と玄奘がすれ違いながらも次第に近づいていく。