ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その10

ネタバレします。

【第43回 盤糸洞に怪虫 群れ集い 千花洞に悟空 難に遭う】

蜢娘が矢に倒れ洞の中では年長の螞娘が一番幼い蜻娘を守ろうとしていた。

蜢娘の周囲には彼女の虫であるウシバエがたかっていた。

百眼道人に従う農民たちは次々と洞の中に入ろうとする。

その頃悟空は突厥と戦っていた。その悟空を守るように蝗が動き悟空は突厥を倒していく。

いつしか悟空は蝗婆婆がいる千花洞に入っていた。

蝗婆婆は毘藍婆菩薩を悟空に見せた。

その後に通臂公も現れた。

蝗婆婆は語りだす。

この世の中はいつも同じで権力者は互いに殺し合い弱い者から搾り取る。

そんな世の中に嫌気がさした私は仙道を修めようと決心した。そして知った。

毘藍婆菩薩はこの世の終わりに大風をおこして汚れたこの世を吹き飛ばしておしまいになるのだ。

この世の醜い者たちが全部吹き飛ばされた後に今度こそ美しく正しい弥勒浄土のような世界が作られるのだよ。

蝗婆婆は平天蝗を作り上げ菩薩さまに力をお貸ししようと決心したというのだ。

「この婆さん狂っている」悟空はつぶやく。

通臂公ですら「わしもこれほどとは」と恐れ入る。

しかし蝗婆婆は「なにを言う。おまえの崇める斉天大聖もそのために遣わされた暴神のひとりではないかえ」と言い返す。

ふたりは言い合いとなった。

悟空は金色のイナゴ平天蝗を打ち殺そうと金箍棒を振り降ろす。しかし蝗は逃げ悟空は追った。

その悟空に網が覆いかぶさり九頭駙馬が襲い掛かる。

 

盤糸洞では残ったふたりの娘と巽二郎が戦い続けていた。

螞娘は蜻娘と逃げながら蝗婆婆が残していった紫金鈴を思い出しそれを取ろうとして村民に矢を射られ背中に受けてしまう。

二郎はその男を殺し続いてくる村民たちに弓矢を向けた。

村人たちは二郎を知っているので「巽二娘、なんのつもりだ」と叫ぶ。

二郎、いや二娘は弓に矢をつがえ「ここの人たちは虫を飼っているだけで悪いことはしていないわ」と言い返した。

村民たちのことばと百眼道人の部下張八足がいたことで二娘は事の次第を察知する。

二娘は矢を射かけ扉をしめて倒れた螞娘を抱き起す。

螞娘は紫金鈴を渡して「おばあさまに」と言い残して死んだ。

二娘は泣き虫の蜻娘に連れられ抜け道を通って外へ出る。

 

駆け付けた蠦娘は盤糸洞のこの惨状を「二郎が手引きしたに違いないわ」と思い込む。

そして襲撃してきた黄花村の村民たちにクロバチを仕掛ける。

 

 

デジタル版第五巻に入ります。双葉社版単行本では巻の七の2話目になります。

 

【第44回 道人 計りて紫金鈴を調い 二娘 空しく紫雲山に走る】

二娘は蜻娘を逃がすため自ら囮となって動き出す。

悟空を呼ぶため紫雲山へ行こうとして百眼道人に遭遇しムカデを使って襲われる。

二娘の父も百眼道人のムカデによって殺されたのだ。

やむなく二娘は螞娘から渡された紫金鈴の綿をすべて抜き取って振ったのである。

しかし百眼道人は二娘から鈴を奪い取って去り二娘はムカデたちに任せた。

 

その頃悟空は網をかけられ九頭駙馬によって殺されそうになっていた。

通臂公は悟空を救おうと駙馬を襲う。その隙に悟空は網から抜け出した。

が、駙馬の槍によって悟空の金箍棒がはじけ飛ぶ。

あわやと言う時に駙馬の胸を刺したのは紅孩児だった。

 

娘はクロバチで村民を殺していく。

蜜娘は蜡娘から盤糸洞の惨状を聞き二郎が女だったということも聞く。

悟空と蝗婆婆も盤糸洞の異変に気付く。

そこへ二郎がかけつけてきた。

 

 

【第45回 毘藍風 紫雲山を砕き 無支奇 千花洞を破る】

二郎は悟空に飛びつきその様子を蜜娘が目撃し悔しさに憤る。

蝗婆婆は蜜娘を抑えようとするが彼女の憤怒は止まらなかった。

悟空は二娘を連れて千花洞へ駆け込む。

そこにいた九頭駙馬は悟空に襲い掛かるが悟空が避けたためその槍は毘藍婆菩薩を打ち砕いてしまった。

毘藍婆菩薩は紫雲山の封印であった。

凄まじい風が起き悟空、二娘、駙馬もろともすべてを吹き飛ばしていく。

蝗婆婆は「毘藍風だ。この世を滅ぼす風だよ、汚れた世が吹き飛ばされ美しい世界が作られる時がきたのでございますね」と大笑いしながら飛ばされていく。

この風は虫もなにもかも吹き飛ばしてしまう。

悟空だけが斉天大聖の声を聞き「この風は世界を滅ぼす風などではない」と知らされた。

そして通臂公は千花洞の奥に斉天大聖の像を見る。

 

助かった悟空と二娘は黄花村へと急ぐ。

娘と蜡娘が復讐に向かったのだ。

 

【第46回 八戒 天尊を騙って欲を充たし 悟空 大いに黄花観を鬧がす】

黄花村にあの褚悟能が逃げてきていたところから始まる。

悟能はすっかり腹がへり農家の豚を奪って食べようとしていた。

見つかって慌てて逃げ出し黄花観という道観に逃げ込む。

そこで若い道士たちを騙し食糧を得てさらにふたりを追い出すことに成功する。

 

さて悟空と二娘だけでなく通臂公、蜜娘、蜻娘の一行そして娘と蜡娘ふたりがそれぞれに黄花村へと向かう。

 

一足先に百眼道人とその部下が村へと戻ってきた。

村民たちはあとからゆっくり帰ってくると嘘を言う。

だが道観では留守番の若い道士たちが悟能に騙されおかしな修行をしているのを見つけ呆れる。

ふたりは元始天尊様から秘法を授けられその修練をしていましたと言い訳する。

百眼道人が中に入ると褚悟能が満腹になって眠っていた。

 

山から生き残った者たちが到着し村人たちも騒ぎ出す。ほとんどの者は死んでしまったのだ。

そこへ悟空と二娘が黄花観に入り込み次々と道士たちを殺していく。

 

百眼道人は紫金鈴を若い道士に「一番奥の部屋に隠しておけ」と命じて悟空と対峙する。

が、道士が入ったのは悟能を押し込んだ部屋だった。

道士は悟能にあっさり倒され悟能は道士が落とした紫金鈴を拾い上げて胸にしまい込む。

がそこへ悟空が暴れまわってくる。

張八足が悟空に毒蜘蛛を仕掛けるのを二娘が射貫く。

さらに娘のクロバチが黄花村を襲った。

 

百眼道人は悟空の前に現れる。

そしてあっという間に百眼脱魂の術で悟空の動きを封じ込める。

道人は動かなくなった悟空の額を弾いてみせた。

その途端、悟空は金箍棒を道人の頭に振り下ろしその頭はぐしゃりとつぶれてしまったのだ。

二娘が話しかけても悟空は意識をうしなったまま暴れ続けた。

 

たどり着いた蜜娘が悟空に近づこうとするのを通臂公が止める。

「悟空は意識がない。内部の大聖さまに突き動かされている。今の悟空には誰の見境もつかん。打ち殺されてしまうぞ」

そして指さして言った。

「悟空の宿命の姿じゃ」