ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その11

観音院の章

ネタバレします。

【第47回 衆を欺いて八戒 閨房に忍び 盗を追って悟空 三蔵に遇う】

盤糸嶺では黄袍が枯れた樹木に突き刺しになり顔を烏に啄まれていた九頭駙馬を見届けていた。

また黄袍は笠を深くかぶった行者を見る。

不意にその笠を奪ったが見知らぬ男であった。

 

二娘は乾草を積んだ車をロバに引かせていた。

乾草の中には悟空が眠っている。

道中で検問をしている男たちがいた。男たちが乾草に槍を突き刺し調べようとするとどこからか蜜蜂が飛んできて男たちを襲った。

二娘は大急ぎで逃げ出し、蜜娘にお礼をつぶやく。

 

蜜娘はもう悟空のことは諦めていた。

蜻娘と共に去っていく。

一方、娘に置き去りにされた蜡娘はめそめそと泣いていたが蜜娘・蜻娘に拾われ南の方へ旅立つ。

 

やがて悟空は目覚める。大暴れした記憶はない。

紫金鈴は太った坊主が持って逃げたことを知りふたりはその後を追う。

「色の黒い太った坊主」ということしかわからないのに悟能の後を追いかけるのはたやすかった。

行く先々で悪いことをしていてすぐにわかるのだ。

 

褚悟能は蘭州に到着。

踏み倒すつもりで旅籠に泊まる。

ところが隣の部屋に玄奘が泊まっていたのだった。

折しも涼州都督に任じられた李大亮一行が泊まっており、その奥方が玄奘の姿を見て微笑みかける。

これを悟能は自分に微笑んだと思い込み夜這いをかけたのであった。

奥方は暗闇ですっかり玄奘と思い込んで寝床にまでいれたものの相手がまったく違う坊主だと判って騒ぎ立てる。

「ブタ坊主!くそ坊主!」

旅籠に入り込んでいた悟空と二娘は大声に顔を合わせる。

が、悟能はすばやく塀に登って喚く。

「この褚悟能は仏寺に入門したその日に八つの戒めすべてを破ったんで八戒と呼ばれているんだ。おまえらなんかに捕まってたまるかい」

二娘は旅籠にいる馬にまたがると悟空をも乗せて後を追う。

悟空は旅籠客の中に玄奘がいたのを見つけなにか心残りを感じる。

 

千花洞の前に以前現れた行者が到着し禍々しい陰の気を感じていた。行者は千花洞の奥に妖魔の像が祭られていたと思い出す。それを封じ込め毘藍婆菩薩が鎮護となったのだが、と考えながら中に入る。

と、そこいたのは通臂公だった。そしてその妖魔の像に拝礼していたのである。

行者は一喝したが通臂公もまた斉天大聖の聖地を荒らす者と挑みかかる。

行者は妖魔の気の強さに踵を返す。

それを見た通臂公は行者の背負子をつかもうとして火傷する。

それは経巻でできていたのだ。

行者が去ると通臂公は再び斉天大聖の前に戻る。すると大聖は話しかけてきた。

悟空は遠からずこの国を出る。わしは常に悟空の中にい。いつか悟空は強盛なるわしをみつけるだろう。

わしの覚醒を防げそうな者を殺すのだ。特に仏家の者に気を付けるがいい。

 

同じ頃悟空は玄奘を思い出していた。

彼が行くと言っていた天竺のことをも。

 

【第48回 烏巣 樹上より禅心を伝え 恵岸 法難を排して道を浄む】

千花洞を訪れた行者の名は恵岸といった。

恵岸行者は師匠の烏巣禅師に会いに行く。

烏巣禅師は松の樹上で四十年間座禅を組んでいた。

烏巣禅師はしばらく語らった後、恵岸に「もうすぐここに衆生の救いとなる仏教千里の駒が通る。少し戻って露払いをしてくれないか」と頼む。

恵岸が戻るとそこに追いはぎがおりあっというまに倒してしまう。

しかも倒れた場所に褚悟能がおり追いはぎから財布を奪い取る。

恵岸がもう少し戻っていくとそこへ馬に乗った玄奘が現れた。

「この人が千里の駒か?」と思いながら恵岸はさらにもう少し戻ってみる。

そこに来たのは悟空と二娘だった。

恵岸は悟空とすれ違いざま打ち合いとなる。

互いにいがみ合うが恵岸は謝罪し二娘に引かれて悟空も離れた。

 

その悟空は樹上にいる烏巣禅師に「先に行ってはならぬ」と言われ怒り松の木を叩きだす。

しかし禅師に経を読まれ金輪が締め付けられて悟空は苦しむ。

先ほどの恵岸が走り寄ってきて悟空はやむなく道を外れて進んでいく。

烏巣禅師はどうも気になる、と恵岸行者に玄奘の保護を頼むのだった。

 

こうして天竺を目指す玄奘八戒を追って蘭州へ向かう悟空と二娘。そして恵岸行者がそれぞれの思いで歩き続ける。

 

【第49回 怪虫を焼きて二雄 袂を分かち 塵界を離れて 七娘 成仙す】

さてこの回、非常に重要な回である。

その後、悟能が進んでいくと甕を乗せたロバ車の娘に出会い誘われて小屋に行き甕を中に運ぶのだがこの娘はあのクロバチの娘だったのだ。

悟能は捕らわれこの後悟空たちが通りかかり小屋の中に入ると娘が戸を閉め、悟空と二娘に仇討ちだと言ってクロバチをあやつって二人を襲わせようとする。

するといきなり油甕が落ちてきて火がつけられる。

それは小屋の中で寝ていた紅孩児の仕業だった。

ここからが問題なのだ。

双葉社版単行本(巻の八前半)では燃え上がった火に娘が「わたしのハチ」と言って飛び込み絶叫と共に燃え死んでしまうのだ。

悟能は逃げ出すが悟空は娘を殺されたことで怒り紅孩児に襲い掛かる。

悟空を助けたつもりの紅孩児は驚くが悟空はすぐに人を殺してしまう紅孩児のやり方に憤る。

紅孩児は今もなお唐を倒すことに執念を持っておりそのためには悟空の力が必要だと説得する。

しかし悟空は「おれたちふたりだけで唐が揺らぐとでもいうのか」紅孩児のしつこさにうんざりだと言い放ち二娘を連れてその場を離れていく。

それでも紅孩児は「おまえが必要なんだ」とつぶやく。

しかしデジタル版では(潮版では、ということらしい)燃え盛る火の中のクロバチを救おうとした娘めがけ大量の虫たちが集まり娘のからだを包んで飛んで行ってしまうのだ。

この騒ぎで悟能が逃げ出すのは同じ。

そしてその後、紅孩児が悟空にまた手を組んで唐への怨みを晴らそうと言い出す。

双葉社版を読んでなければそうでもないかもしれないがなんとなく展開がガタガタしている巻は否めない。

しかしそうなっても諸星氏はこの回を改変したかったのだろう。

悟空が紅孩児に別れを告げ紅孩児が「おまえが必要なんだ」とつぶやく場面は同じだがその後に加筆部分がある。

虫にさらわれた娘はどこかわからない山奥に運ばれる。

そこには蝗婆婆をはじめ死んだと思っていた三人、螞娘斑娘蜢娘が生きていたのだ。

すべては蝗婆婆の術だったのだ。

もう欲深い人間たちに狙われないようにこれからはこの深山で暮らすのよ、いつか蜜娘たちも呼び寄せるわ、ということになる。

あまりにも簡単に死ぬことになった娘たちを救いたくなったのだろう、と思う。

しかしこの感じ「生きていた」というより思いきり「あの世」感がしてしまう、と言ってはいけないのだろうか。(無数の虫で体になるのだから・・・どうなのだろう)

いやいや私も七仙姑が死んでしまうより山深い場所で暮らしてほしいと思うのである。