ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その20

【第74回 真の聖僧 水滸に宿を借り 仮の玄奘 甘州に言をもて弄す】

 

冒頭、玄奘と悟空が言い争いをする。

珍しいなと思っていたらこれは布石であった。だろうて。

しかしこの後さらに珍しいとは言えないほどの怖ろしい事件が起こる。

一見普通の農民に思えた通りすがりの男女からいきなり襲われてしまうのだ。

突然小刀で斬りつけてきた男を悟空は叩きのめす。

が恐ろしいのはその直後鎌を振り上げた女の姿だった。

悟空は迷うことなく女を叩き殺す。

玄奘は「なにも殺さずとも」と小言をいう。

これに悟空も言い返した。

 

やむなくふたりが歩を進めようとすると前方に女児が牛に乗っているのに出会う。

女児は悟空が人を殺したのを見ていたが「大丈夫、人に言わないから」というのだった。

玄奘と悟空は女児の家に泊まることになる女児の名は一升金。

一家は夫婦とふたりの姉、ひとりの兄がいた。

目的の甘州はもうすぐだと知る。

一升金はここですぐ悟空が康夫婦を殺したのだと皆にばらしてしまう。

奇妙なのは一家がそれを知っても動揺することもなく却って玄奘たちの心配をして泊めることにしたことだった。

 

さて八戒と道整は一足先に甘州に到着し恵岸と合流した。

恵岸はすでに甘州に通牒がきており「玄奘という僧が禁を犯して出国しようとしているから捕らえて長安へ送還せよ」となっているのを案じ玄奘に早く知らせようとしていた。

これを聞いた八戒は好都合だとして自分自身が玄奘だと名乗り捕らえられて長安へ送還してもらおうと画策する。

はじめはなかなか逮捕されずにいたが女性の尻を触って逮捕されそこで自ら玄奘と名乗り「天竺行きを志したが大唐国の法律から逃れることはできずもはや観念して長安に送還されるのもやむを得ない」と進言する。

役人はこれを聞いて感服しとりあえず甘州の万寿寺にお預けして旅の疲れを落としてください、ということになる。

 

悟空は一升金にみそめられてしまう。

一家が悪人だということはすぐにわかる。その中でも末娘の一升金は特別に可愛がられている。

実は一升金は夫婦の娘ではなく実の母親から養育費をもらっているため甘やかされているのだった。

 

玄奘の方は夜中に起こされ一家の主人に「すぐに甘州に向かったほうが良い」と言われて出立する。

しかし連れてこられたのは奇妙な岩穴だった。

 

【第75回 故城に玄奘 帰路を失い 甘州に八戒 心経を講ず】

悟空は一升金につれられひとり甘州へ入る。

 

玄奘は家の主人・陳に誘われながら不気味な岩場を進んでいく。

陳は途中で姿を消し玄奘はひとりきりになって彷徨う。

陳は岩穴の中にいる”誰か”に話しかける「獲物をつれてきたよ」

お礼の腕輪を受け取って陳は帰っていく。

残された玄奘は突然地面が斜めになり岩穴に落ちこんでしまう。

玄奘の足首を掴んだのは白骨夫人だった。

 

甘州の万寿寺では八戒がまたも珍騒動を繰り広げていた。

たどり着いた悟空と恵岸も巻き込まれていく。

ここでの騒動の中でどうやら一升金の母親は死んで葬儀が行われたらしいとわかる。

白骨夫人はその怨霊なのだろう。

 

場面は玄奘の方へ移りその白骨夫人は玄奘を捕まえ生気を吸おうとしてたじろぐ。

玄奘の気に混じって普通の人間のものではない強い気を感じたのだ。

その気を吸えば自分も生き返ることができるかもしれない、と言って玄奘の気を吸うのをやめる。

 

悟空は一升金を甘州城内に残しひとり陳家に戻る。

悟空は玄奘の居場所に案内させた。

 

【第76回 屍魔 三たび大聖に戯れ 児女 故城に死母を訪ぬ】

白骨夫人は悟空が近づいてくるのを感じた。

羊飼いの女に化けて悟空と接触する。

だが悟空は女の腕が人間の感触ではないと気づき金箍棒で打ちのめす。

逃げた女の後を追って玄奘を救おうと岩穴に入り込む。

白骨夫人は悟空を待ちかまえていた。その場所はかつて役場の拷問部屋だったらしい。拷問具で悟空を動けぬようにしてその気を吸おうと試みる。

 

さて陳家には恵岸行者が訪れ一升金の姉たちに声をかけた。

だがふたりの姉は恵岸を殺そうとして誤って長姉が次姉を殺してしまう。(いったいなんなのこの一家)

恵岸がたじろいでいると今度は別の女がいきなり部屋に入り込んできて長姉の首をすぱりと斬り落としてしまう。

女は盗賊の首領だったらしい。

盗賊たちは陳家を家探ししたが何もなかったらしい。

そして恵岸行者に気づき女首領にどうするかと問う。

女首領は恵岸の顔を見て「イイ男じゃないか。殺すのはやめだ」と言い放つ。

女首領は恵岸に陳家の話をする。

そしてあの白骨夫人は甘州から瓜州にかけて恐れられていた女盗賊だったという。その女が死んだあと生まれてきたのが一升金だったのだ。

 

【第77回 童女 養家を捨て 凶女 故城に走る】

白骨夫人は悟空から斉天大聖の気を吸おうとしてできず苦しむ。

悟空自身はまったく気を吸われたようにも感じなかった。

またたくまに白骨夫人の腕を叩き落とす。

そうして玄奘の手を引いた。

白骨夫人は陳の気を吸った。

 

さてさてここにも紅孩児登場。

紅孩児は女盗賊と知り合いだった。

恵岸は紅孩児を見つけるやさっさと脱走してしまう。

女盗賊は財宝が隠されていると見た觻得城に向かう。

 

一升金は死母に会って財産分けをしてほしいと告げる。

 

女盗賊は白骨夫人を見つけ嘲笑う。

白骨夫人はかつて河西回廊の羅刹女と恐れられていたのだ。

女盗賊は力を失った白骨夫人を足で踏みにじり「これからはあたしが羅刹女さ」と叫ぶ。

羅刹女は気まぐれに小さな村を皆殺しにして焼いた。紅孩児羅刹女の仕事ぶりに惚れ惚れとなる

 

八戒はまだ玄奘と間違われながら旅を続行していた。

恵岸行者もまた玄奘をおいかけていた。

玄奘と旅する悟空は空気に何かを感じていた。