ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その25

ネタバレします。

 

【第92回 通臂 甕を転がして行者を悩まし 妖虫 錦を食いて腹中に入る】

あれほど執拗に悟空を追い詰めていた黄袍があっけなく死んでいた。

加害者である石方相もまた黄袍の毒矢によって苦しみながらも百花羞を捜している。

 

ちゃっかり漁夫の利(かどうかはわからないが)を得た通臂公は金蚕蠱に丘が残した錦を与える。

どうやら金蚕蠱は錦を食するらしい。

そして今金錦蠱は一回目の脱皮をしようとしていた。

しかしその時通臂公は恵岸行者が近づくのを感じる。

金蚕蠱は一度目の脱皮後人の腹中にはいるという。

通臂公は恵岸の腹に金蚕蠱をつけてやれないかと考える。

 

通臂公は恵岸行者に近づき甕に入って襲い掛かっては逃げだす。

恵岸は近くにロバがあるのを見つけその荷物に夥しい錦の布が入っているのを知る。

通臂公はその錦に隠れて近づくが恵岸は戒刀で追い払う。

 

そこへ百花羞を連れ悟空と八戒が通りかかる。

八戒は飛んできた錦を大わらわで集め丘が残したロバと荷物を俺のモンだと騒ぎだす。

恵岸が戻ってきて倒れている百花羞に驚いた。

欲の突っ張った八戒はロバに積まれていた荷物をほどいて中を検分。

そこに脱皮中の金蚕蠱がいて驚いた八戒はそれを投げ飛ばしてしまう。その金蚕蠱は百花羞の胸元に落ちてしまった。

さらに危ぶんだ悟空は金蚕蠱を金箍棒で払いのけようとし却って腹の上に落としてしまう。

これによって金蚕蠱は百花羞の腹の中に入り込んでしまったのだ。

 

「いくら探しても無駄よ」と言ったのは一升金だった。

「その虫は金蚕蠱。時期が来ると脱皮して人間の腹の中に入ってしまう。二度めに脱皮する時は腹を食い破って出てくるのよ」

そうすれば立派な成虫となり莫大な財産を作ってくれるのだという。

一升金は本当は八戒につけてやろうと思っていたのに悪運が強い八戒は土壇場で逃れ百花羞についてしまうことになったのだ。

そう告げると一升金は去ってしまう。

 

悟空は八戒玄奘への言伝を頼み自分は一升金から百花羞を救う手立てを聞き出すと出立した。

その間恵岸は百花羞の見張りを頼まれる。

 

玄奘と石槃陀は瓠蘆河にたどり着いていた。

そして悟空と落ち合う約束の遊牧民の村で待つことにする。

石槃陀は知り合いに会いに行くと言って出て行く。

残された玄奘は小屋を見つけてそこへ入ろうとした。

そこには刀を下げた女がいたのだ。

 

【第93回 金蚕 繭を作りて妖胎を成し 方相 一身をもちて魔虫を移す】

その女は羅刹女であった。

羅刹女玄奘に何のために天竺まで行くのかと問うた「名誉か金かそれとも国にいられなくなった事情でもあるのか」

玄奘の答えは「十七地論を見るためだ」

これに羅刹女は大笑したのだった。

 

石方相は毒にも負けず百花羞を探し求め恵岸の場所にたどり着いた。

そして「お嬢様が糸を吐いてなさる」という。

ついに金蚕蠱が繭を作り出したのだ。

 

一升金を追いかけた悟空はその前に通臂公に出会う。

通臂公は悟空にこれまでの経緯を話す。

悟空は百花羞を救う手立てを問うが通臂公は知らないと答える。

一升金の行方を捜せという悟空に「向こうからやってきそうじゃ」と言った途端大青がとびかかってきた。

「おやめ」という声に蛇が止まる。

一升金だった。

 

今度は恵岸が石に見張らせて手立てを捜しに行く。

通臂公に出会った恵岸は手段を教えられ戻ってきた。

もう一人が繭の中に入り百花羞と腹を合わせたら金蚕がそちらに移ってくるというのだ。

恵岸は自ら服を脱ぎ繭に入ろうとするのを石方相は止め「おれがやる」と言った。

遅れて悟空が戻ってくるがすでに石方相が入った後であった。

 

玄奘のもとに八戒がたどり着く。

ここまで追ってきた八戒玄奘は胸を打たれたのであった。

 

【第94回 悟空 蠱を殺して邪眼を潰し 玄奘 易占に循いて馬を替う】

石方相は繭の中で百花羞と腹を合わせ虫を移させるや飛び出し自らの腹を切り裂き金蚕を取り出した。

それを悟空が金箍棒で叩きつぶす。

あきれた恵岸は石方相が切り裂いた腹の手当てをしてやる。

 

この一部始終を一升金は見ていた。

その怒りは凄まじく一升金はもう悟空を婿にするのはやめたと言い出す。

そして石方相と恵岸を殺すと言い出した。

悟空は大青と戦う。

大青はその邪眼で悟空を見つめる。

恵岸は「目を閉じろ」と叫ぶが悟空は「目を閉じればやられる。かまわん。おまえのその邪眼でおれの中に入ってこい」と念じる。

悟空の中の斉天大聖が蛇を動けなくした。

金箍棒で邪眼を潰しさらに叩き殺そうとしたが一升金が身をもってそれを庇う。

悟空はそれ以上は打てなかった。

 

百花羞は目を覚ましたがすべてを夢だと思い込んでいた。

「おうちに帰りましょう」

石方相は百花羞を抱き上げ歩き出す。

恵岸は止めようとしたが悟空は大丈夫だとそれを止めた。

 

その頃八戒玄奘に悟空の悪口を並べていた。

確かに悟空がなぜまだ来ないのか、不安になる玄奘は暗い顔になる。

そこへ石槃陀が老人を連れて戻ってきた。

老人は胡人でもう何度も伊吾へ行ったという。

しかしそんな少人数でこの砂漠を越えて行こうなんて言うのは死にに行くようなものだという。

せめてわしの馬と玄奘の馬を取り換えてやろうというのであった。

玄奘の馬はもと将軍が乗っていた立派な馬で鞍も上等なものだ。

しかし老人のうまっはよぼよぼの痩せ馬で鞍も剥げて古いものだった。

玄奘長安で易者が言った言葉を思い出す。

「あなたは老いぼれの痩せ馬で行くでしょう」

あれはこの馬のことだったのかと玄奘ははっとして承諾した。

 

悟空はまだ来ない。

しかし長居はできないと石槃陀は言う。

あと一日待って来なければ旅立つしかない。

 

悟空は玄奘に追いつこうと急いでいたが殺気を感じて立ち止まる。

前方には羅刹女がいた。

 

 

玉門関の章

 

【第95回 将軍 両雄間に矢を放ち 悟空 柵に火を放ちて蠱を焼く】

悟空を待ち構えていた羅刹女はたちまち悟空と戦い始める。

だがそこに水を差したのはここまで追ってきた阮馮河だった。

阮は弟の仇をとらずにおれないと羅刹女に立ち向かう。

その様子を見て悟空は待ってはいられないと馬を駆った。

 

だが結局阮馮河は羅刹女の敵ではなかった。

あっけなく羅刹女は阮馮河を殺したのである。

 

先を急ぐ悟空に再び小青が襲い来る。

こちらもあっけなく追い払うが乗ってきた馬が別の毒蛇に咬まれ死んでしまう。

やむなく悟空は積み荷を減らし歩いて進むしかなかった。

 

が悟空が玄奘たちが待つ遊牧民の村に着いた時には日が暮れすでに一行は旅立った後であった。

悟空は暗闇の中で瓠蘆河の前に立ち夜渡るのは無理だと考える。

小屋に戻ろうとして蛇たちに襲われた。その中に巨大な蛇が一匹いたのだ。

一升金の仕業だった。

邪眼を潰された大青がさらに大きくなったのだ。

悟空は置かれていた乾草の中に入り大青を誘い火をつけた。

巨大蛇は数えきれないほどの蛇たちによって形作られた姿だった。

中から大青の正体が現れる。

悟空はさらに柵にも火をつけた。大青は火の中で燃え苦しむ。

それを見た一升金は火に飛び込み大青を抱きしめ遠くへと走り去ったのである。

一升金はそのまま瓠蘆河にはいり流されていった。