ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 大唐篇』諸星大二郎 その26 完結

ネタバレします。

 

【第96回 玄奘 玉門を望みて河を渡り 通臂 革袋に入りて讐を報う】

玄奘、石槃陀、八戒の一行は玉門関を遠くに望みながら気取られぬように瓠蘆河に切った木を渡しゆっくりと馬を引いて渡った。

ついに玄奘は密出国を犯したのである。

 

羅刹女は退屈していた。

阮馮河だけでは満足できなかったのだ。

そこに通りかかったのは恵岸行者であった。

恵岸は物思いにふけっていた。

玄奘そして悟空が気にかかってはいたものの国境まで追いかけるとは思ってもいなかったのだ。

ふと落ちている革袋が奇妙に膨れているのが気になり錫杖を突き刺した。

空気がはいっているだけだ、と恵岸は自分を安心させる。

そして未練がましく歩き続ける自分に「さすがに国境を越えていくには中途半端な気持ちではできない」と引き揚げることを考えた。

河を何かが流れてくる。

子供だった。

一升金であった。

その手には化け物の蛇が抱えられていた。

まだ生きているのに気づいた恵岸はその蛇の頭に錫杖を突き立てた。

一升金は目を開け「大青を。私の大青を殺したわね」と叫ぶや恵岸の刀を抜き取った。

「よせ」と恵岸が手を払うと一升金はあっけなく再び河に落ち込み流れていった。

恵岸が走って追いかけると先ほどの膨らんだ革袋が見えた。

これを浮袋にと恵岸が手を伸ばした途端、中から通臂公が飛び出し鋭い爪で恵岸の胸を思いきり裂いたのである。

一升金に気を取られた恵岸の隙だった。

恵岸は錫杖を取り構えようとしたが血が激しく流れ出す。

そこへ羅刹女が通りかかる。

通臂公は邪魔が入ったと苛立ち恵岸から離れ羅刹女に近づいて「邪魔をするな」と言い捨てる。

「消えるのはおまえの方だよ」と羅刹女もまた言い返す。

通臂公がかっとなって羅刹女に手を伸ばした途端羅刹女は通臂公の長い腕を斬り落としたのだ。

通臂公はぎゃあっと叫ぶと逃げて行った。

恵岸が礼を言いさらに言葉をかけようとすると羅刹女は傷の手当なんかはしないよと去ろうとした。

恵岸は「ついさっきケガをした少女が流されていったのだ。その子だけでも助けてやってくれ」という。

羅刹女は「知ったこっちゃないね」とその場を離れていった。

 

羅刹女が進んだ先に一升金は倒れていた。

羅刹女は先ほど拾った蛇を一升金の上に落とす。

「おまえと気の合いそうな蛇だ。育ててごらん」

 

【第97回 玉門関に悟空 道を失い 沙州城に恵岸 妖を待つ】

先を行く玄奘はやはり悟空が来ないことに胸を痛める。

八戒はこれを良い機会だとして悟空の様子を見てくると引き返す。

出国に使った橋をわたり唐の国へと気楽に戻る。

ところが今回は見張りの兵たちが異状を捜索していたのだった。

兵たちをやり過ごすと今度は悟空がやってきた。(この時の悟空がすごく良い顔)

宝を横取りされ(たと思い込んでいる)八戒は悟空が許せず先ほどの兵士たちに逮捕させようと思い立つ。

うまく兵士たちを悟空に誘導したものの悟空は兵士たちをあっという間に叩き潰してしまう。

八戒は悟空の荷物をほどいてみると中には衣類と携帯食しか入っていない。

「後でお宝は返すと言ったじゃねえか」と八戒は泣き叫ぶ。

悟空はそれより玄奘はどこだと聞き返す。

八戒が強情を張るので悟空は奴を縛り上げ「逃げた兵士が仲間を集めて戻ってくるだろうよ」と言い捨てた。

慌てた八戒は案内するから助けてくれと泣きだす。

 

さて一方、腹に深い傷を負った恵岸行者は親切な旅人の駱駝で沙州(敦煌)まで運ばれていた。

そこに道整がいて恵岸を見つけ寺に連れて帰って手当てをした。

しかし恵岸は「どうしても莫高窟に行かねばなりません」と痛む腹を押さえながら出かけたのだ。

道整に一番西はずれの洞窟を案内してもらった恵岸行者は三日分の食糧と水を置いてもらい一人きりにしてほしいと頼む。

恵岸は古い洞窟の奥に進みそこに毘藍婆菩薩の像を見た。

かつて紫雲山の千花洞にあったのと同じものだ。

通臂公がまだ恵岸を狙っているのなら必ずここに来ると踏んだのだ。

果たして通臂公はやってきた。

 

【第98回 鳴砂山に行者 魔を斬り 莫高窟に妖人 砂に消ゆ】

恵岸行者と通臂公の戦いが始まる。

通臂公は次々と目くらましの妖術をかけ恵岸行者を翻弄していく。

とはいえ通臂公は片腕しかなく、恵岸行者は腹の傷が痛み互いに力が出し切れない。

 

如来の顔の下には無支奇の顔がそしてまたそのしたから如来の顔が浮かび出る。

妖魔か仏か。

通臂公の妖術は恵岸がこれまで出会ってきた人々の姿を浮かび上がらせた。

悟空と百花羞とさらに自分自身が。

恵岸は戒刀で自分自身の像を斬る。

通臂公もまた像が無支奇か仏か正体を危ぶんでいた。

と、その像が割れ洞窟が崩れ落ちていく。

通臂公は岩の下敷きとなった。

 

息も絶え絶えに通臂公はこれまでの自分の人生を語りだす。

そして恵岸と語ることで通臂公は自分の間違いに気づく。

通臂公が倒すべきは恵岸行者ではなく悟空がついていこうとしている玄奘だったのだ。

しかしそれに気づいた時すでに通臂公の息は途絶えていた。

 

三日たち約束通り道整は恵岸行者を助けにきた。つぶれていた廃窟の上に穴をあけて恵岸を引きあげた。その時死んでしまった通臂公の姿が見えた。

そして数日後恵岸に頼まれ道整は人夫をつれて廃窟を埋めてしまうべくやってきたのだが通臂公の死体はなく着ていた服が落ちていただけだった。

後にいくつかの怪しい噂が流れたのだが、そのひとつは「敦煌付近の砂漠を猿のような黒い影がよろよろと歩いていった」というものだった。

 

【第99回 死地に悟れば 魔中に仏あり 客疑心せば 仏中に魔あり】

悟空は八戒玄奘の居場所まで案内させようとしていた。

一方、玄奘は先を行く石槃陀に「悟空たちを待とう」と言うがなぜか槃陀は「ふたりとももう戻らない」と言って進んでいくのだった。

夜になりふたりは休む。玄奘は横になりながらも槃陀の心が読めないことに不安を覚えていた。

そしてしばらくすると背後から槃陀が剣を持って近づいてくるのを感じた。

苦しい息遣いをして槃陀は剣を玄奘に向けたのだ。

玄奘は動くことはせずわざと寝息をたててみた。

すると槃陀はあきらめたように元の場所に戻ったのだ。

玄奘はそこで体をたててすわり読経を始めた。

 

悟空と八戒もまた休んでいた。

が、八戒は薪を集めるふりをしながらこっそりと悟空から離れていった。

入れ替わりに悟空に近づいてきたのは羅刹女だった。

羅刹女は悟空の中にあるものを見たいと言い出す。

「見た時にはおまえは死ぬぞ」と答える悟空に羅刹女は笑った。

 

八戒は瓠蘆河までたどり着くがあるはずの橋が無くなっているのに気づきもう唐国に戻れないと尻もちをつく。

 

夜が明け、玄奘は槃陀に声をかけるが槃陀はこれ以上進むのは危険だと言い出した。

「この旅は中止しましょう」

玄奘に中止する気持ちはなかった。

 

【第100回 西天の地に 成果を求め 莫賀延磧 道茫々たり】

 

悟空と羅刹女との戦いが始まる。

この「戦い」という場面はそのまま暗喩としての「SEX」に置き換えられるものだがこの場面はまさにそうだろう。

悟空と紅孩児の戦いも無論男色としての性戯であった。

ただ紅孩児は悟空と愛しあうにはまだ力が不足していたのだろうと思う。悟空にとって紅孩児はやや物足りなかったのだ。

ところが羅刹女は悟空をしてもその剣さばきにたじろぐものがある。

何故彼女はこうも強いのだろう。

修行を積み山の霊気の力を借りていた竜児女もここまで強くはなかった。

戦いの中でキスをする無茶苦茶な羅刹女の気まぐれさにおいて悟空はあっけなく力を失ってしまう。

紅孩児にはこうした奔放さがなかったのだ。

が、羅刹女もまた悟空を上回る力を持ちながら自分を抑えるために自らを刺して耐えるのだ。

羅刹女は悟空を行かせるために兵士たちを殺し「待っているよ」と言って去っていく。

 

八戒はやむなく天竺行きを決意する。

そして悟空と共に玄奘を追いかける。

 

玄奘と共に進んでいた槃陀はついに大砂漠を前にして怖気を振るう。

そして玄奘に「あなたはきっと伊吾に達しないでしょう」と告げる。

それでも決意を変えない玄奘に「勝手に行くがいい。砂漠をひとりで越えられるものか」とつぶやくのだ。

 

玄奘はひとり老馬にまたがり莫賀延磧を見る。

悟空と八戒玄奘に会えないまま後を追う。

 

かくして洛陽の一沙門玄奘は大唐国の国境を越え天竺への旅に踏み出した。

 

西遊妖猿伝 大唐篇』完結。

 

つまりほんとうの天竺への旅はここから始まる。

いわゆる『西遊記』における三蔵法師と悟空八戒沙悟浄の三人のお供ではなくたったひとりで玄奘は莫賀延磧を進むのだ。

 

そのあたりのイメージは鳥人間さんのYouTubeに詳しい。


www.youtube.com

非常におもしろくためになる。

 

諸星大二郎氏はこのリアルな玄奘の物語と『西遊記』の化け物世界をみごとに融合させて創作していく。

しかも他の作品では軽はずみな猿として描かれるのが当たり前の孫悟空が本作ではやや血の気が多いとはしても無口で沈着な美少年になっているのも諸星氏の好みが映し出されている。

美形孫悟空は貴重ではないか。

 

わたしはなにしろアニメ『悟空の大冒険』で西遊記を知った勢なので玄奘もあれでは大騒ぎなのだが体格のいい男前の玄奘もまた良い。

なんといっても恵岸行者の活躍は圧倒的だった。

 

そして大唐篇の最初から最期まで活躍する通臂公。

斉天大聖の野望をかなえたい爺様の苦労は実を結ばない。

一番悲しいキャラクターである。

 

そして数々の女性キャラ。

素晴らしい力を持ちながら女性ゆえの運命で挫折する竜児女を経てお婆と四姉妹の楽しい虫虫生活。

ラストを飾る羅刹女と一升金姉妹。

後に行くほど女性の力がすごくなっていく。

今のところ最強なのは悟空ではなく羅刹女ということでいいでしょうか。