ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 西域篇』諸星大二郎 その2

ネタバレします。

 

【第6回 流沙を脱して二僧 死を逃れ 死者を倒して行者 水を得る】

窮地に悟空が現れ玄奘は喜びその名を呼ぶ。

悟空と仮面の男の戦いが始まる。

が、仮面の男は流沙の上を歩くことに慣れており悟空はどうしてもうまく動けない。

それでも悟空は金箍棒の鋭い突きで男を脅かす。

男は笑いながら去っていく。

八戒は流沙に呑まれそうになってもどうしても見つけた金貨の壺を手放そうとしない。

呆れながらも悟空は八戒を助け出す。

しかし改めて見てみると金貨と思ったものはすべて古い銅貨にすぎなかったのだ。

 

悟空たちはさっさと立ち去ろうと考える。

馬と荷物は見つかったが水袋の水が抜き取られていてそのまま行くわけにもいかなくなる。

悟空は流沙があるのなら地下水があるはずと考えた。

 

日が暮れ三人は井戸を探し始める。

玄奘から死体のある部屋の話を聞き悟空はひとりでそこへ行く。

男と小競り合いになり悟空がミイラとなっている死体を壊したことで男は怒るが悟空ほどの力はなく姿を消した。

悟空は再びふたりを伴って死体部屋に入る。

その部屋の敷石に動かした形跡を見つけ持ち上げると抜け穴があり下の階へ通じていた。

さらにその部屋にもその下に通じる抜け穴があり降りるとそこには地下水のため池があったのだ。

 

【第7回 猪八戒 ふたたび泉に財を貪り 孫大聖 怒りて竜橋を砕く】

三人その水を飲んで渇きをいやした。

八戒だけはいつまでも飲んでいる。

飲みながらまたも金貨を見つけ今度こそはと集めようとしてふたりに咎められ一旦諦めた。

上で音がした。

どうやら抜け穴の蓋の上に重石を置かれてしまったようだ。

悟空が押しても動かず諦めて別の抜け道をみつけようとした。

不気味な怪物(オオサンショウウオ)がどこからか這い出てきた。

「通路があるようだ」と悟空は八戒に探らせる。

八戒は無事に抜け道を見つける。

 

悟空は水袋に水を汲んで来ようと言うが玄奘は疲れてしまったので一休みしたいという。

八戒は「あにきはお師匠さまについててくれ」とひとりで水くみに行くと言い出す。

八戒はさきほどのため池に戻り(賢くも)水袋に水を入れた後で金貨を探り始めた。

懸命に池を探っていると背後に仮面の男が立ち八戒に剣を突き付けたのだ。

 

戻ってこない八戒の様子を見幾ふたりは仮面の男に捕らえられた奴を見る。

悟空は「そいつは好きにしていいぞ」と呼びかけるが玄奘がとりなして助けることになる。

仮面の男はまだ俺の三つの質問に答えろと言っている。

悟空は問答無用で男を殺しにかかる。

間に挟まれた八戒は身をよじって避けるしかない。

悟空の金箍棒が竜の橋を叩き壊した。

竜の橋が流沙に飲み込まれていく。

仮面の男は龍の橋を渡って玄奘へと近づいた。

 

【第8回 黄婆 名を得て正道に帰し 金木土 揃いて聖僧に従う】

玄奘は逃げ出し、仮面の男は玄奘を追いかけ悟空もまた男を追いかけた。

玄奘は廃墟の奥へと逃げ込み男はにじり寄っていく。

悟空も後を追うがまたも流沙が足元を掬う。

玄奘は抜け道に入り込み男も後を追う。

玄奘は石を持って男を待ち伏せ思いきりその仮面に打ちつけた。

男の仮面が割れて落ちる。

玄奘は仮面の下の素顔を見て驚く。

「おまえは石槃陀」

男は「違う」と叫ぶ。「石槃陀は死体の中の男の名前だ」

仮面の男は確かにこの西域への旅の始まりで玄奘を案内したあの男であった。

男は突然砂漠を前にして同行を拒否したが実はこの砂漠の中にある廃墟に住んでいたのだ。

そしてこれまで多くの商人旅人たちを殺し金品を巻き上げ瓜州へ行っては食べ物などを手に入れていたのだという。

玄奘のことも最初から殺すつもりでいた。

だが気が変わりこの流沙河まで来れるか見届けたくなったというのだ。

あの怖れ方は芝居だった。彼は莫賀延磧など庭のようなものだったのだ。

そして玄奘がここまで到達できるのなら俺がずっと待ち続けていた人かもしれないと賭けたのだという。

仮面の男は西方から来たソグド人だった。母は別の民族だったが知らない。ふたりの息子である彼を連れてこの流沙河に来た。

そして母は流沙に呑まれて死んでしまい父親は毎日母を掘り起こそうとここに住み着き商人や旅人を襲っては奪う強盗となっていった。

幼い子供だった彼は父親にとって厄介者でしかなく名前ですら呼ばれず「穀潰し」と呼ばれていたのである。

しかし母親からは別の幼名で呼ばれていた。

だが覚えていないと彼は言う。

一番懐かしい呼び名を。

父が死んでからは彼がその仕事を引き継いだ。国交が禁じられていないその頃はけっこう獲物があったのである。

彼自身そんな仕事はやめようと伊吾や瓜州に行こうともしたが結局ここへ戻ってきてしまう。

「教えてくれ。俺はいつになったらこの流沙河から永久に出て行けるのだ」

そして地下のため池にはなぜかいつの間にかに装飾品や金貨が現れるのだという。

男はそれが母の装飾品だったと思わずにいられないのだ。

と、突然ため池の水量が増え壁から水が溢れてきたのだ。

竜の橋が崩れ落ち流沙に飲み込まれたため地下水の流れが変わったのだろうか。

 

悟空が抜け穴から飛び降り来て男を襲った。

玄奘は慌てて悟空を抑える。

悟空も男の顔を見て石槃陀だと気づく。

男は「師よ、話を聞いてくれて礼を言う」と言いながら小刀を振り上げた。

だが水が溢れ出し彼らを襲った。

その流れの中に白骨化した女性の姿があった。

「お母さん」

男はその遺体にすがりつき抱きしめた。

悟空は玄奘の手を引いて逃げ出す。

外に出ると縛られたままの八戒が「縄をほどいてくれ」と泣き喚いた。

 

三人は自由となった。

すぐに旅立てるがやはり水は必要だともう一度地下へ降りてみる。

そこにはまだ母を抱きしめたあの男がいた。

水の湧き出し口が変わり神像の足元に泉が湧いていた。

その神像は深沙神というらしい。

この深沙神こそが『西遊記』の沙悟浄のモデルだという。

 

四人は外へ出て母親の遺体を埋めて供養した。

男は「もし許してくださるならこの後伊吾国までご案内しましょう。言葉も話せます」と言う。

玄奘はもう二度と悪いことをしないのならと許した。

そして彼に沙悟浄と言う名を与えたのである。

玄奘はやはり男が待ち望んでいた人であった。名を与え母に会わせ今日永遠に流沙河を後にする。

 

こうして玄奘に悟空、悟能、悟浄の三人が伴う旅が始まったのである。