ネタバレします。
【第27回 女怪 箱より出でて毒爪を振るい 悟空 薩宝邸を大いに鬧がす(承前)】
ヴァンダカ率いる射手の列はサソリ女に向かい一斉に矢を射るがサソリ女はまっすぐに突っ込んできた。
矢の方向に直線になることで被害を最小限にしたのだ。
無事に矢を避けた女は毒針で射手を次々とさしていく。
が、ヴァンダカは自らのケープを脱ぎ目の前に広げることによって防御し剣を抜いた。
手ごたえを感じたがサソリ女は姿をくらます。
悟空たちもまた厩に入ったはいいが外に出る方法でためらっていた。
悟空は長安でやった手を使うことにする。
屋敷に火をつけ厩の馬を解き放つ。悟空たちは各自馬に乗って屋上へ向かう。
そして悟空悟浄と飛び降りたが玄奘の馬は脚の骨を折ってしまった。
やむなく玄奘は悟浄の馬に二人乗り逃げだした。
【第28回 女怪の爪を逃れて 一馬を失い 空邸に身を潜めて二児に遭う】
それでもサソリ女は悟空たちを追っていた。
悟空はすぐに伊吾を立つと宣言する。
だがサソリ女の蹴りが馬を駆る悟空を襲う。金箍棒でかろうじて防ぐ。
落馬した悟空をなおも女は狙っている。
が、ヴァンダカから受けた傷が女の動きを遅くした。
悟空の一撃が女の毒針靴を弾き飛ばしたのだ。
女はそのまま逃げてしまった。
困ったことに一頭の馬が女の毒針で死んでしまう。
そこへソグド兵隊が追ってきた。
悟空は落ち合う場所を決めて一人ソグド兵らに立ち向かう。
彼らが向かった建物はサソリだらけの場所だった。
そこにはあの姉弟がいたのだ。
姉は「サソリ女さん、お願いです弟を食べないで。食べるならあたしを」と言う。
玄奘は驚いたがその視線の先には確かにサソリ女の姿があった。
そしてその後から今度は悟空が現れた。
女は悟空に打たれ再び逃げ去った。
双子の姉はチェイリー、弟はシュムといった。
ここでおさらい的に今回の物語はメーウザーイの毒薬から始まったわけではなくもともと伊吾城での鄯善人とソグド人との確執があったことが説明される。
鄯善というのは西域にあった大国らしい。ゼンゼンという読みの響きが不思議な感じだが『百億の昼と千億の夜』のゼンゼンシティを思い出してしまう。
さて、心配は尽きないがすべて明日考えようと言って悟空は眠りにつく。
【第29回 石万年 伊吾を制圧し 僧一行 城市を脱出す】
伊吾はソグド軍と鄯善軍の全面対決となる。
石万年の屋敷が包囲される。
この機に乗じて悟空たちはいったん寺へ戻る。荷物と悟空の馬を捨ててはいけない。
対決の様子を図りながら悟空は出て行く機会を伺う。
チェイリーは連れて行ってほしいと願い出た。
母親に会いたいのだ。
天竺を目指す玄奘はこの願いに困惑する。
躊躇している間に子供たちの姿は見えなくなった。
安堵して玄奘一行は旅立つ。
ソグド軍が包囲せずにいる城門から悟空は脱出を試みる。すでに逃げ出そうとする人々が集まっていた。
城門のひとつは包囲せずにいて城内から逃げ出そうとする者はかまわず逃げさせるのは兵法の常識だという。
悟空は八戒と悟浄に「ソグド兵が来たぞ」と叫ばせた。
人々はやっきになって門番を押しのけ城門を開いて飛び出していく。
玄奘一行はついに城門から出ることができた。
チェイリーとシュム姉弟はこっそりこの後についていったのである。
傷を負ったサソリ女の居場所を訪れたのはアマルカの祖父だった。
彼は薬と食糧を彼女に与え「斉天大聖は出て行ったよ」と伝えた。
「大慈恩寺三蔵法師伝」によると玄奘は莫賀延磧を越えて伊吾に短期間逗留した。そこは石万年という人物が支配していた。
が、玄奘が去った数年後、伊吾は「西伊州」として唐に併呑されてしまうのだという。
石人原の章
【第30回 僧玄奘 天山を目指し 妖童女 大聖に見えんとす】
さて玄奘法師、孫悟空、猪八戒、沙悟浄の四人は西域の最初のオアシス国家・伊吾を去り草原を西へ向かっていた。
ここで悟浄は二つのルートを示す。
ひとつはまっすぐ西を目指すものでもうひとつはまず北へ行くものだ。
これは行く手に何千里もわたって東西に連なる山脈があるからなのだがその北を通るのが「天山北路」南を通るのが「天山南路」になる。
北路は遊牧民の住む広大な草原でありわかりやすい。
西へまっすぐ行けば七日で高昌国へ行く。そこは仏教徒も多いという。
しかし玄奘はこれから非常に暑くなるという高昌国ではなく北回りで可汗浮図への道を選ぶ。悟浄もこれを同意する。
アマルカは玄奘一行が北を目指すと虫の知らせを受ける。
アマルカは祖父から「悟空の斉天大聖はアエーシュマさまに近い」と聞き興奮する。
アエーシュマは「狂暴」を司る悪魔で人間に役立つ動物を苦しめるらしい。
祖父が止めるのも聞かずアマルカは悟空の斉天大聖をみたいと言って飛び出した。
アマルカは玄奘一行から遅れてついていく姉弟に気づきこれを利用しようと考えた。
玄奘一行は悟浄の口利きで突厥の一部族である遊牧民の家に泊めてもらう。
が、夜中悟空はカマルトゥブの霊を見る。
それを追おうとするとアマルカの虫たちがアマルカの顔になって問いかける。
「迷子の子羊はこっちにもいるわよ」
そこにはドゥルジ・ナスによって捕獲されている姉弟がいた。
アマルカは「斉天大聖を見たいわあ」とふざける。
悟空は怒り望み通り斉天大聖を現してドゥルジ・ナスに向かった。
斉天大聖は一撃でドゥルジ・ナスを倒し姉弟を救い出す。
悟浄が駆け付け悟空はそれぞれ姉弟を抱き上げて帰る。
羊力大仙はこの様子を見て斉天大聖はアエーシュマの属性だけではないと感じた。
アフラ・マズダー側のスラオシャ(ゾロアスターの善神)の属性も感じたのである。
【第31回 僧に同行して二児 母を索め 悟空を狙いて一箭 空を裂く】
遊牧民たちは連れられてきた姉弟を気味悪がり天幕(ユルト)から出せと言い出す。
悟浄の頼みでなんとか朝までは許してもらえたが彼らは別のユルトへと移ってしまった。
悟空は昨夜見たカマルトゥブが気にかかりひとりで探しに行く。
遊牧民たちは昨日とはうってかわって態度が硬化していた。
玄奘は連れて行ってほしいと願う姉弟をどうしようもなく預け先を見つけるまで連れて行くことにする。
子供たちを馬に乗せて一行は出立した。
悟空はカマルトゥブを捜すがなにも見つからない。
その時鋭く一矢が悟空をかすめ飛んできた。
あの謎の射手であった。
射手はいったん逃げるかと見せて止まり矢をつがえた。
「おもしろい」
悟空は一気に射手に向かって突撃した。
あわや、と言う寸前で別方向から矢が飛んできて悟空の馬の頭にあたったのだ。
その射手はかつて出会ったブルグゥ・シャドの息子イリクだった。
玄奘一行を集団で追いかけてきた者があった。
トルークシュだった。粟特城で会った安吐窟である。
なんと彼は高昌国王に仕えていて国王に玄奘の話をしたところ是非会いたいと言われ玄奘を待っていたのに北路を目指したと知って慌てて追いかけてきたのだという。
トルークシュは是非南路を行ってほしいと願い出たのである。
さて悟空の方は再会したイリクと謎の射手の間でもめていた。
謎の射手は女でイリーシュカといい、イリクの許婚だったのだがキルク族だったために今は敵対する間柄になってしまったというのだ。
しかし心変わりはしていないイリクと突厥は敵だというイリーシュカの仲はこじれていた。
しかも悟空に対しても意地を張るイリーシュカに悟空自身も怒りを覚える。
金箍棒を突き付ける悟空にイリーシュカは矢を向けた。