ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 西域篇』諸星大二郎 その10

ネタバレします。

 

【第34回 一雄 往きて突厥に独り挑み 三騎 並びて胡兵を迎え撃つ】

イリーシュカは悟空に会うなり「なぜ私の邪魔をした」と咎める。トルークシュを殺す邪魔をしたからだ。

悟空は「キルク族が落ち着ける場所を作るよう西突厥に交渉をさせるためだ」と答えた。

イリーシュカは「うまくいかなければ次は邪魔するな」とくぎを刺す。

悟空もまたイリーシュカに「叔父を殺したな」と問いかけた。

「それがどうした」と答えるイリーシュカ。

悟空はイリクに「一度でも浮気をしたら・・・いや、したと思われただけで殺されるぞ」と案じたのだった。

 

さてついに本篇のクライマックスとなる。

悟空、イリク、イリーシュカの三人で二百騎の突厥と戦うのだ。

 

三人は石人原を見る。

キルク族のミルザエフに対し悟空は「鷲の岩までたどり着け。それまで俺が奴らを食い止める」とイリクを通じて伝える。

ミルザエフは驚きイリーシュカは「おもしろそうなアホだ」とつぶやく。

逃げていくキルク族にふたりの突厥の斥候が近づく。

イリーシュカは確実にふたりとも射殺した。

 

悟空は石人原を利用することを考える。

キルク族がそこを通り抜け突厥が接近した時この石人を盾にして戦うのだ。イリーシュカは「本気なら援護してやろう」と言いイリクもこれに続く。

突厥は二百騎。イリーシュカは百騎は引き受けると言う。手持ちの矢は七十。イリクは三十持ってると言い「五本に一本外したとしても」と言いかけるとイリーシュカは「外す矢はない」と言い切った。

 

悟空は殺された石膏の兜と服を脱がせて着こむ。

その姿で突厥の騎馬隊に近づき射かけられた矢にあたったとみせかけやり過ごし最後尾が通ったところで再び騎馬して背後から近寄った。

次々と金箍棒で打ち倒していく。

集団で走っているのを利用しながら悟空は突厥を混乱させていく。

やっと異変に気付き散開するが敵が悟空一人だとは気づいておらずどこに誰がいるのかがわからない突厥の混乱は続く。

それを利用して悟空は金箍棒を打つ。

「そろそろ行くよ」イリーシュカが声を上げる。

 

【第35回 三英雄 突厥を急襲し 石人原に悟空 大いに戦う】

突厥の中では悟空が暴れまわり石人原からはイリーシュカ・イリクのふたりが次々と矢を射かけた。

やむなく突厥は退却する。

が、キルク族の移動距離はわずかだった。

 

突厥は石人原を包囲してきた。

悟空は騎馬して敵を打ちはらいふたりはそれぞれに矢を射る。

しかし突厥の接近でイリクは刀を抜くことになる。

「むこうの石人列まで退け」と三人は動く。

攻撃しては奥へと退いた。

突厥の攻撃がやむ。

日が暮れてきた。

突厥の一部が山側に回り完全に包囲する様子だ。

悟空はさらに隠れ場所の多い山に近寄り話をする。

「朝までにはキルク族も鷲の岩まで行けるだろう」

しかしイリクは答えた。

「羊を夜通し歩かせるのは無理だ。夜は休む」

これに悟空は驚く。「この状況でか。羊を捨てて逃げる選択肢はないのか」

「ないな。遊牧民には」

これは朝まで突厥を引き付けておかねばならない、ということだった。

 

夜の闇が濃くなりはじめ、悟空は石に寄りかかりながら思案した。

寄りかかった石には鹿の絵が刻まれている。

「鹿か」

 

【第36回 三雄 闇中に突厥と戦い 鹿力 妖術にて悟空を惑わす】

夜襲は俺にとっては都合がいい、という。

イリーシュカは闇でも気配で矢を撃てるという。「ただ敵味方の区別がつかん。紛らわしい場所に移動するな」

イリクは「オレは弓だけじゃない。白兵戦でもいける」と答えた。

 

闇の中突厥が動き出した。

小さな物音でイリーシュカは矢を放ち射止めた。

突撃してきた敵を悟空とイリクが応戦する。

イリーシュカは「声を出せ。でないと一緒に射殺すぞ」と叫ぶ。

悟空とイリクは声を上げながら戦い続ける。

と、敵からの一本の矢がイリクの肩に当たる。

イリーシュカはその射手を射殺した。

悟空に援護されながらイリクの矢を抜く。

突厥は火矢を使いだし丸見えとなる。

悟空は場所を変えた。

 

が、そこにも待ち伏せ突厥が潜んでいた。

悟空は二人を置いて突っ込んでいく。

「斉」「天」「大」「聖」と区切りながら声を出す。

「孫」「悟」「空」

と発した途端「斉天大聖孫悟空」と呼ばわる者がいた。

それは石に刻まれた鹿だった。

「斉天大聖。生贄になってもらうぞ」

「おもしろい。できるものならやってみろ」

次々と鹿の絵が形となって現れた。

「斉天大聖。お前は確かに生贄になると約束した。それを果たしてもらうぞ」

が悟空はたじろぐことはなくその石を叩き壊した。

イリーシュカの目には悟空がいきなり石塔を叩き壊し始めたと見える。

悟空は今突厥と戦いながら鹿力大仙とも戦っていた。

鹿力大仙は悟空が「斉天大聖を生贄にしてみせろ」と言った言葉をあげつらう。

悟空は斉天大聖の出現を待ったが反応がない。

悟空は鹿力大仙の言葉に翻弄されないだけでなく自ら言葉で鹿力大仙を操ろうとしていた。

「あのアマルカもきさまも直接俺の前にやってはこれまい」

この言葉に怒った鹿力大仙は「きさまごときこの手で息の根を止めてやる」と口を滑らす。

しかし突厥の攻撃はやまずイリーシュカとイリクは危機に瀕していた。

残った矢も数少ない。

この時、突如突厥たちが騒ぎ始めた。

そこには羊に乗ったカマルトゥブの亡霊が近づいてきたのだ。

カマルトゥブは叫んでいた。

斉天大聖の名を。

「これを外して、この化け物を」

鹿力大仙は嘲笑した「今の大聖に何ができるものか」

悟空は叫ぶ。「カマルトゥブ、大聖を呼べ」

「無駄だ。大聖はわしの生贄だ。出てくることなどできぬ」

「いいやできる。なぜなら俺が今そう言ったからだ」

 

突厥バズミル部族のオズネル・イルキンが登場した。

イリーシュカには絶好の獲物だが矢がない。

イルキンは部下たちにイリーシュカ・イリクの殺害を命じ、自らは悟空を倒すという。

 

悟空はカマルトゥブの呼び声で斉天大聖の出現を感じていた。

カマルトゥブの身体に入り込んでいるドゥルジ・ナスを叩きのめすがカマルトゥブはすでにドゥルジ・ナスの一部となっていて再び元に戻ってしまう。

イリクとイリーシュカの危機に悟空は飛び出し二人を救う。

そしてまたもドゥルジ・ナスを打つがやはりカマルトゥブと切り離すことはできない。

イリーシュカは弟カマルトゥブに話しかけた。

「カマルトゥブ、どうしてほしい」

「楽にして」

イリーシュカはイリクから受け取った魔よけの矢を弟へ放った。

カマルトゥブの身体がドゥルジ・ナスから落ちる。

悟空は素早くドゥルジ・ナスを破壊した。

鹿力大仙は恨み言を残して消える。

 

朝が来た。

イリクの部族の者たちが心配してやってきた。

そしてトルークシュの部下ドヴォルクが伝令にきた。

「西突厥との交渉はうまくいった。ただしキルク族の家畜は取り上げオアシスで農耕に従事させる」と。

キルク族は無事鷲の岩までたどり着いたようだった。

 

だがキルク族は戻ってきた。

ミルザエフは悟空に告げる。

「農耕民にはなれない。元の場所に戻る」と。

 

【第37回 悟空 鹿を逐いて祭場に臨み 胡娘 箭を射て結界を破る】

イリーシュカはイリクから離れ悟空についていく。

弟をドゥルジ・ナスにした羊力大仙と鹿力大仙をそのままにはしておけなかったのだ。

 

使いのように鹿が現れついていく。

が、ここでイリーシュカは切り離され悟空だけが鹿力大仙の前に辿り着く。

悟空は馬を駆るがどうしても同じ場所に戻ってしまう。

鹿力大仙によって結界を張られてしまったのだ。

鹿力大仙は悟空を生贄の台に乗せるが斉天大聖の力を引き出せるようになっている悟空には何の脅威でもなかった。

容易く幻も神聖な岩をも破壊してしまう。

鹿力大仙は高みから悟空に脅しをかけた。

だがその場所はあまりにも高く見晴らしがよかった。

どこからか矢が飛んできて鹿力大仙の頭を射抜いたのだ。

無論イリーシュカである。

 

さてトルークシュは役目も終え玄奘に高昌国への出発を促す。

 

アマルカには鹿力が死んだという虫の知らせが入る。

 

悟空はイリーシュカに別れを告げるがイリーシュカは弟の仇を討とうとしていた。

 

 

西遊妖猿伝 西域篇』完結です。

なんだか途中、って感じで終わりなのでリアルタイムの方はさぞイライラだったでしょう。

私は未読なので早速次の篇に入りますがここで同時収録されている『大唐篇』の番外編に寄り道します。

 

明日の記事をお待ちください。