ガエル記

散策

『西遊妖猿伝 西域篇』「火焔山の章」諸星大二郎 その2

ネタバレします。

 

【第四回 城外に悟空 毬を追い 市場に公主 虎を見る】

約束通り悟空は玄奘と共に公主の邸に行く。中華風の屋敷であった。

公主の母君は玄奘に懐かしい隋の話をしてほしいと所望する。

その間、悟空は公主に付き合うことになる。

公主とその母親は宮廷の中でも特殊な存在だという。

公主の父親である先王はかつて隋に赴き当時の天子に拝謁した。その時天子から降嫁したのが母上である華容公主なのだという。

今は腹違いの兄が国王となった。

悟空は公主の話を聞いていてもピンとこない。

そんな悟空を公主は街へと連れ出す。

途中、警備の突厥兵たちがポロをしていた。

その中に先王の奥方のひとりである可賀敦さまがいた。八十歳はゆうに越している年齢だが矍鑠としている女性であった。

可賀敦さまは先々代の国王に降嫁した女性だが遊牧民の間にあるレヴィレート婚(兄弟の誰かが死ぬとその未亡人を兄か弟が妻にするが父子の間でも行われた。むろん生母でないことが条件である)

公主は可賀敦さまに挨拶をしポロを勧められたが辞退し代わりに悟空がやることになる。

悟空はやむなく挑戦するが難しくなかなかスティックでうまくボールを打てない。

なかなかうまく打てない悟空はスティックを放り出し金箍棒でかっ飛ばしてしまう。

可賀敦さまはそれを見て悟空が気に入ったようであった。

 

 

公主は帰りに「バザールによってみましょう」と悟空を誘う。

中では大きな天幕がありなにやら見世物があるようだった。

人食い虎が呼び物である。

公主に椅子をすすめた一座の座長の名は虎力大仙といった。

 

虎以外にも芸人たちの軽業が催される。

その中に非常に体の柔らかい女がいた。

悟空はその顔がサソリ女のように思えた。はっと気づくともういない。

目で追っているうちさらに公主の姿も見失っていた。

慌てて外へ出ると護衛の大きな体格が見えた。

追いかけていくと道の真ん中で公主が倒れていた。

公主に近寄る悟空。

「きさま、公主さまに何をした」

護衛の男が怒声をあげジャラッと武器を取り出した。

 

【第五回 高寧城に二童師を訪ね 岩窟寺に行者 奇を見る】

「公主様に何をした」と叫ぶや護衛の大男楊隗は多節棍を振り回してきた。

見慣れぬ武器に悟空は戸惑うものの間合いを詰め金箍棒で継ぎ目を打ち落とした。

その途端「おやめなさい」と公主が起き上がる。

貧血で倒れただけと言い悟空に「ゆるしてやってください」と言うのだった。

 

戻ってみると玄奘は今の今まで母君とおしゃべりに付き合わされていたらしく疲れ果てていた。

悟空たちが去ると公主は楊隗に悟空の力を訊ねる。

楊隗の答えは「ヴァンダカより上かもしれないが牛魔王とではわからない」というものだった。

 

玄奘は高昌国の仏教法師たちに失望していた。

西南大仏寺では盛大な晩餐に招かれたが肉料理が出てきて困惑したのだ。

小乗仏教では「自分のために殺されたわけではない」肉料理をお布施として渡されたのなら僧が食べてもよいとされていた、とここで説明されているが玄奘は大乗を信じておりそんなことはできないと断ると「今だけ小乗ということにすればよいではないか」と言われてしまうのだ。

そんな時玄奘はひとりの僧侶に「寧戎窟寺へ行かれましたか」と言われ気になっていた。

 

悟空はいつも玄奘を「坊さん」と呼んでいるのを悟浄に諫められ帰依する気がなくともせめて「師匠」と呼ぶようにと勧められる。

その玄奘は今日も華容公主から招待されつい「寧戎窟寺に参拝に行った」と嘘をつくよう悟浄に頼む。

その後はなにかと玄奘たちに意地悪をする張法師にも同じ返事をすることとなり実際に行かねばまずいということになる。

 

ここで登場するのが伊吾国で出会った祆教神官見習いの双子ハルとアムである。

ふたりは高昌国に行っているアシャイバンダクに任された神聖な火を届けようとしていた。

 

さて玄奘は悟空、悟浄を連れ寧戎窟寺へと向かう。

そこは岩窟寺院だった。

多数の窟があり中で仏画を描く者、座禅する者たちがおり玄奘は感動を覚えた。

仏画が描かれた窟のひとつで玄奘は祈祷をする。

それを待つ間、悟空はその仏画の仏たちが動き出すのを感じた。

悟空だけが感じたもので玄奘も悟浄もわからないままだ。

仏たちは動き出し窟を出、列をなして火焔山の麓、寧戎城というオアシスに向いて空中に浮かんだ。

いつの間にか仏は絵画に戻っていた。

悟空は寧戎城で何かあると察した。

 

高寧城の祆教寺院ではアシャイバンダクが双子を待ち受けた。

双子は意気揚々と神聖な火をアシャイバンダクに渡す。

アシャイバンダクはその火を受け取り祠へと入った。

祠では神官が異変を感じていた。

祠には高昌国の各地の祆教寺院から分けられてきた聖火が灯っていた。

その中でひとつだけ寧戎城の聖火が変なゆらぎ方をしているのだ。

 

その寧戎城そばの水脈を抑えるという仕込みをしていたのは羊力大仙、虎力大仙とアマルカであった。

 

【第六回 寧戎城に土民 水を争い 水流洞に群童 難を逃る】

アマルカたちの仕込みのせいで用水路に水がなくなる。

人々は困惑し地下水を調べ始める。

通っているはずの地下道の途中が化け物によってふさがっていたのだ。

弱り果てた農夫たちは許可を得ずムルトゥク川の水を引いた。

突然の事態に暴動も起こりかねなかった。

 

ソグド兵隊長ヴァンダカは事態を調査していた。

だが洞窟に入ろうとすると牛怪人が現れ部下を殺害されてしまう。

ヴァンダカはドヴォルクを通じてムカンサに伝令を命じる。

ついでに「瓜を盗んだガキどもがいたら皆殺しにしろ」と伝えた。

ムカンサはジュンマイにその話をしジュンマイはいそいでカシュラートに知らせた。

カシュラートはてきぱきと子供たちに指示をしていく。

ソグド兵が追ってきたがカシュラートたちは抜け穴から脱出し終えた。

 

洞窟内には牛怪人とソグド兵たちだけが残っている。

が、ヴァンダカが追いついた時にはすべて殺害されており牛怪人の姿はなかった。

 

脱出した子どもたちは夜の冷気を怖れ早く谷に降りたかった。

なんとか行けそうな場所を見つけるがそこで数人の男たちと出会う。

 

【第七回 悟空 旧敵を索めて市を探り 八戒 妬心を抱いて跡を追う】

悟空はムカンサによって「ソグド兵はカレーズに向かった」と知る。悟空は子供たちを案じたがムカンサは死体もなにもなかったと伝えた。

 

悟空はトルークシュに会いに行く。

これを見た八戒は「ご馳走を食べに行っている」と早合点し悔しさに後を追う。

 

さてハルとアムはアシャイバンダクの後をつけていた。アシャイバンダクは高昌の祆教寺院に来ていた。

そこで見つかってしまったふたりはアシャイバンダクにお小遣いをもらいバザールへと行く。

 

悟空はバザールで見世物小屋に入る。

サソリ女を捜しにきたのだが今日はいないと言われ代わりに双子と出会う。

そこへ戻ってきたのは座長だった。

寧戎城へ行っていたという。

カレーズが原因で暴動が起こっており興行どころじゃないと話す。

しかもカレーズの中に化け物がいたらしい。

 

それを聞いた双子はアシャイバンダクがそこへ行こうとしているのだと気づき悔しがり祆教寺院に戻る。

悟空は座長が出て来たのに気づき後をつけた。

八戒はまたもその後をつける。

座長がとある建物に入り悟空は連れのふりをして中へと入る。

八戒は入れずにいたがそこに張法師が被り物をした衣服で入っていくのを見つけその後に来た崔法師を殴りつけて衣服を脱がせ八戒も中にはいったのである。

 

そこは奴隷市場であった。

座長は小さな子供を買っていた。

そして張法師は若い女を買っている。

八戒は崔法師のふりをしてその女の手を掴む。

奴隷市場のおぞましい雰囲気に悟空はぴりつき、ついに我慢できず幼児に乱暴していた男を蹴り飛ばし殴りつけてしまう。

その騒ぎで人々もざわめく。

八戒はその騒ぎに紛れ女の手を引いて逃げ出した。

 

悟空は座長たちを追おうと外に出て走った。

その先に大きな虎がいたのである。

が、悟空が脅すと虎は逃げそこに座長がいた。

悟空は「買った子どもをどうする」と尋ねる。

座長は芸を仕込んで芸人にするのだ、と答えた。

 

虎を乗せた馬車で座長たちが去ると見世物小屋にいた男児が子供用の服を持ってやってきた。

座長に頼まれたらしい。

その服はどことなくシュムが来ていた服にも思えた。

男児はアルストフという。

悟空は座長の虎力大仙について訊くがアルストフは「親方のことはどうこういえないよ」としか答えなかった。