ガエル記

散策

諸怪志異(三)『鬼市』諸星大二郎 その2

ネタバレします。

 

「倀鬼」

阿鬼が幼い頃に戻ってのお話。

五行先生と旅する阿鬼。

ふたりで峠を越えようとしていると「この景陽岡には虎が出る」と忠告される。

しかし五行は「わしは虎除けの御札を持っているから」と歩み続ける。

そこに髭面の男がふたりを追い抜いていく。

五行が「虎除けの護符を一枚進ぜようか」と声をかけると男は「虎なんかこわくない」と言って先を行った。

 

五行、阿鬼が進んでいくと女児そして壮年の男と次々と「人間ではないもの」を阿鬼が見破っていく。

ふたりは古寺に案内されそこで奇妙な化け物たちと出会うことになる。

ところが本物の虎が現れ阿鬼は怯えるがそこに先に行ったはずの髭男が寝ていた。

麓の茶屋で飲んだ酒が回って寝ていたのだという。

目の前の虎を見て「この猫野郎」と棒を叩きつけさらにまたがって血を吐くまで素手で殴りつけた。

あっけにとられた阿鬼が見つめる中で虎は死んだ。

その途端先ほどまで五行と阿鬼にまとわりついていた人間まがいたちが「ご主人様が死んだ」「これで自由だ」と喚きながら消えていった。

 

阿鬼を心配して駆け付けた五行先生に阿鬼は聞いた。

「ご主人様ってどういうこと?」

「あれらは倀鬼だ」と五行は教える。

この虎に食い殺された人たちの霊だという。

虎に食い殺された人の霊は倀鬼となって虎に使役されるようになるのだ。

それであの人間でない者たちはふたりにまとわりついてなんとか虎の御主人に食べさせようとしていたのである。

五行はその虎を殴り殺してしまった髭男に感服し「いったいあなたはどなたです?」と問うた。

「おれは清河県の武松という者さ」

 

水滸伝』の中でも有名な虎退治の武松であった。この武松がやがて梁山泊の一党に加わり天下を鬧がす好漢のひとりになるとはさすがの五行先生も測りかねることであった。

 

「空園の戦い」

五行先生の羽化庵に戻ってきた後の燕見鬼のお話。

弟弟子である葉長命はやや頼りない若者なのだが今回も怪しい者に誘われ「仮魂虫」を体内に入れられ五行先生の大事な書物を盗もうとしたところを見鬼に制止され気絶してしまう。

 

五行先生は葉長命の口から出てきた物体を「仮魂虫」と見破り彼が操られたのだと説明する。

しかし「仮魂虫」が這い出てきても葉長命は気を失ったままだった。

五行先生は「仮魂虫」をもう一度、葉長命の体内に戻しあえて盗みにきた書物を持たせて行動させた。

その後を見鬼が追う。

 

葉長命はとある古い屋敷へと入る。

見鬼は襲い掛かて来たふたりの男をたちどころに倒し迷魂陣を見つけ空を切ると長命の魂は戻ってきた。

見鬼が「仮魂虫」をすかさず追い出すと長命の魂は自分の身体と合体した。

 

が、五行先生の本がすっと何者かに奪われてしまう。

見鬼は怯える長命に「お守りだ」と剣を持たせて残しひとりそちらへと向かう。

そこには大勢の男たちの中に以前羽化庵に盗みに入ったあの道士が本の包みを持って立っていた。

道士が包みをほどいて中を確かめようとすると包みは燃えだし道士は慌てて落としてしまう。

それを見ていた紅一点の女侠客が笑い出した。

 

見鬼が指を振ると長命に持たせたおいた剣がするりと鞘から抜け出て飛んできて周囲の荒くれどもを薙ぎ払ってしまった。

さらに戻ってきた剣を投げつけ別の荒くれ男を斬り道士を脅かし女侠客によって撥ねつけられた。

女は「その本は私たちの大仕事に必要なんだ」と言い「五行が来た。引き揚げるよ」と去っていく。

道士たちもその後に続いた。

 

見鬼は五行に「その書はなんですか?」と尋ねるが五行は黙ったまま立ち去っていく。

 

「艮嶽の龍」

時の皇帝徽宗は政治は側近に任せ自分は書画音曲などの趣味三昧にうつつを抜かす風流天子であった。道教好きでもあり林霊素という道士を重用した。

 

その林霊素が名のある道士を集めた千道会に五行は参加しなかった。

そのことで五行は林霊素に憎まれることになったという。

五行は燕見鬼を「光」と呼び頼みごとをした。

 

見鬼は五行の言われる通りに山岳に赴いた。

「邪悪なものがいたら斬れ」と命じられた。

すると龍が頭上を飛んでいく。

見鬼は追おうとしたが見失った。

「なにを探していますの」と声をかけた女がいた。

 

その頃、五行は徽宗が造らせた「艮嶽」へ招かれていた。

以前参加しなかった「千道会」に再び呼ばれたのだ。

林霊素の細工によって現れた瑞祥を祝う宴であった。

皇帝は五行に珍しい術を見せよと命じる。

五行は一度辞退した後で岩に花を咲かせてみせた。

ほうと感心する皇帝の前で五行は「こんなものは人の目をくらます小手先の術にすぎませぬ」と答えた。

皇帝は「艮嶽に現れた龍が目くらましの術だというのか」と声を荒らげた。

その時「陛下。龍が現れました」と告げる声がした。

しかし艮嶽の南の岩山が崩れ気味の悪い赤い鳥がぎゃあぎゃあと飛び回るのが見えたのだ。

 

 

見鬼は五行に命じられたように邪悪なものを斬ろうとしていた。

それはとりもなおさす皇帝たちが眺めている艮嶽に現れた龍だったのだ。

一度やりそこなった見鬼は五行が送った気によって邪悪なるものを斬り捨てる。

そのことで皇帝たちの目には龍が蛇と化した。

皇帝は気分を害し林霊素は五行を憎んだ。

 

事はうまくいったが五行の心は沈んでいた。

思わぬ赤い鳥の出現は何かが起こる兆しであった。

 

「推背図」

皇帝と林霊素に睨まれいよいよ危うくなってきた五行先生は例の重要な書物を燕光(見鬼)に預けある人物に渡してもらいたいと命じた。

その人物は江南の睦州にいるという。このところ、睦州では人心が不穏で怪しげな宗教が流行り賊が増えているらしい。

 

そうこうしているうちに皇帝直々の命令で五行の羽化庵に捜査が入った。

役人の目の前で数人の客人が帰ろうとする。見とがめられたが誰も何も持っていなかった。

 

旅を急ぐ燕光の前に数人の老人たちがいた。

それはちょうど羽化庵から出て行ったあの客人たちだったが燕光が知るはずもなく。

その男たちは燕光を見つけて呼び様々な難しい質問をするが燕光には答えられない。

やがて男たちは立ち上がり燕光の旅の道連れになろうと言い出す。

さらに一人が足を痛めたといって燕光におんぶを迫った。

だがおぶった人物は意外にも軽かった。

 

男たちは賑やかに談笑しながら歩いていくがその内容が俗世離れした話ばかりでさすがの燕光もたじろぐ。

やがて一行は旅籠に泊まった。

燕光が連れの男たちを見てみるといつの間にかひとり増えているのだ。

その増えた男が奇妙なことをしゃべりだす。

「おい、きりがない。誰か背中を押してやれよ」と言いだす者がいてそのとおりに背中を押すとその男は黙ってしまった。

 

そこへ巡検の役人が入ってきた。

燕光は剣を持とうとしたがそれを一人に止められた。「勝手に調べさせればよい」

男たちは何も持っていないとされ役人たちは出て行った。

 

燕光は慌てて五行先生から預かった本を確かめようとしたが何故か本が無くなっている。

焦る燕光に一人の男が「おまえさんの書はちゃんとあるから心配はない」と声をかけてきた。

 

翌朝、目が覚めた燕光は男たちが皆いなくなっており代わりに一冊ずつ寝床に書物が置いてあるのを見つける。

そこへ五行先生が入ってきた。

「その人たちはこの書そのものだったのだよ」

そのひとりひとりを紹介する。

「あの最後にいた奇妙なことを言っていた人は?」

「それは押背図だよ」

それは未来の予言書であり焚書なのだった。

讖書というものは昔から乱に利用されてきたのである。

だから狙う者もあらわれるのだ。

 

燕光は再び五行先生に頼まれて旅を続けた。

葉長命は知り合いに預けられ、五行先生もしばらくどこかへ身を隠すという。