
ネタバレします。
「魔書アッカバッカ」
紙魚子の父の店「宇論堂」に「アッカバッカ」という奇妙な洋書を数冊買い取ってほしいという客がきた。
「洋書は扱っていない」と困ったが結局買い取ってしまう。
そこへ段一知先生が来て「アッカバッカじゃないか」と言って全部買って行ってしまった。
ところがその後不気味な服装の男たちが数人現れ「アッカバッカ」という本が入らなかったかね、と尋ねてきた。
さらにつながった帽子をかぶった7人の男がやはり「アッカバッカ」を求めてきた。
という「アッカバッカ」を求めあうドタバタ喜劇なり。
「頸山の怪病院」
盲腸の手術で入院した紙魚子の見舞いに行ったしおりは「首山病院」と聞いていたのに到着したのは「頸山病院」だった。
ここがそもそもの間違いだったらしい。
かなり古い病院は暗く陰気だった。
そして紙魚子がいるはずの402号室に彼女はおらず、そこにいた中年女性から「ここから連れ出して。殺されてバラバラにされてしまう」と恐ろしいことを言われる。
驚いて逃げ出すと医師から「今の患者の言葉を気にしないで」とくぎを刺される。
病院中を捜しまわるが紙魚子はいない。
栞は不気味な傷病兵が歩いているのを見てぎょっとしていると女性看護師から部屋に引き込まれ麻酔薬を注射されてしまう。
目を覚ますと手術室に手足を拘束されて寝かせられていた。
そこへ紙魚子にそっくりな女性が入ってきて栞の拘束を解き「頼みがあるの。この廊下の一番端の部屋の戸棚から川島と書かれてあるビンを保管室まで全部もってきてほしい」と頼むのだった。
栞は頼まれるままに行動したが保管室へビンを運び込むとそこには首だけになった先ほどの女性がいて「持って切れくれた?あたしの体・・」と尋ねるのだった。
その途端他の大量の首たちも「あたしのも」「おれのも」と騒ぎ立てた。
首たちが大騒ぎになりそこへ医師たちや傷病兵たちも入り込み阿鼻叫喚となったのだ。
やっと逃げ出した栞が振り返るとそこにはなにもない空き地があった。
栞は紙魚子の病室を訪ね体験を話す。
紙魚子によるとそれはもと化学兵器の研究をしていた軍の病院でGHQによって調査され戦後も不気味な事件が絶えずついにつぶれてしまったという。
「殺戮詩集」
それは不吉な嵐の予感をさせる初夏のある日。
栞と紙魚子は見知らぬ女性に声をかけられる。
その女性は町の名前を聞いた後、ムルムルを生で飲み込んでしまった。
紙魚子は彼女が女流詩人菱田きとら、だとつきとめる。
彼女の代表作は「殺戮詩集」といった。
四年前、きとらは恋人をその詩集に書かれた通りに殺して二か月以上その死体と暮らしたのだ。
彼女は心神喪失で無罪となり精神病院に入れられたのだが一年前に退院したらしい。
きとらに興味を持った紙魚子は彼女に利用されてしまう。
菱田きとらの目的は段一知先生だった。
紙魚子を使って段先生を呼び出したきとらは不気味な(何度この形容詞を使うのだろうか)廃ビルで「詩の朗読会」を開く。
紙魚子は菱田きとらの希少本「殺戮詩集」で釣られたのだった。
が、その目的を果たすため紙魚子は栞を利用してクトルーちゃんを引き離しそのために栞は悲惨な目に会う。
怒る栞と謝る紙魚子の会話を聞いていた段先生の妻(クトルーのママ)は「段先生の不倫」という言葉に顔を表す。
ビルの一室でふたりきり、きとらの朗読を聞いていた段先生。
そこへ段妻の顔が割り込んだ。
段先生は妻に連れ去られた。
きとらは吹き飛ばされたが「いつかきっと段先生を私のものにしてみせるわ」と誓う。
「ペットの散歩」
品のいい奥さんからペットの散歩を引き受けてしまった栞。
当然の如く紙魚子を呼び出しふたりで散歩をすることになったが茂みから引っ張り出した首輪は宙に浮いたままで本体は何も見えなかった。
うーむ。
以前の足跡だけの生物、の別バージョンか。
首輪はついているが本体は見えない。
ふたりは「なにか」に引っ張られ必死でついていく。
胃の頭公園のお母さんたちの前を通り、見えない何かを「ジョン」と呼んで親しんでいるおじさんと絡み、よその家で巨大なウンチをし、迷路の中で一つ頭の七人兄弟に出会うが今回は七十人かぶれる帽子で従兄弟や又従兄弟ともつながっていたのだがジョンがひとり食ってしまう。
さらに進むと胃の頭町ではない不思議な町に入る。
そしてジョンの姿が次第に見えてきた。
ジョンはペットサロンに入ってグルーミングを受けた。
さらに進むともっと奇妙な町にはいりついにジョンの姿がはっきりと見えるようになる。
その姿は怪物であった。
さらに進むと元の見慣れた景色になり代わりにジョンが見えなくなってきた。
ふたりは必死についていき、元の場所に戻ったのだ。(ここも同じ)
ちょうど品のいい奥さんが買い物から帰ってきてふたりにお礼のキーホルダーをくれた。
「長い廊下」
栞と紙魚子は首山からバスで十五分ほどにある長頸寺を訪れた。
応永年間の創建、頸山城城主顎長勝の菩提寺だという。
拝観して楽しむふたりだが「この先立ち入り禁止」の場所を見て紙魚子が止めるのも聞かず栞は中に入ってしまう。(この娘、いつもこうだ)
物凄く長い廊下に栞は驚き戻ろうとするが何故か元の場所に戻れなくなってしまう。
そこへお坊さんが近づいてきた。
あの人に聞いてみよう、と栞は待ったがその恐ろしい形相に怯え背を向けて逃げ出した。
「待てっ」
なんと僧侶は栞を追いかけてきたのだ。
必死で逃げ部屋の戸を開けようとしたが開かない。
やむなく栞は長い廊下を再び走り出す。
その頃、紙魚子は禁止の場所に入ろうとして住職に止められてしまう。
住職は紙魚子に「その場所に(特に若い娘が)入ってはいけない理由」を話し出した。
四百年前、長頸寺に岳念という名僧がいた。
戒律を守り女色を断っていたのだが、ある日領主の娘長姫の参拝で案内をすることになりその時姫を見て激しい感情にとらわれたというのだ。
厳しい戒律に縛られた僧侶の身でしかも相手は城主の娘、姫と接していられるのはこの廊下を案内している今だけだと岳念の想いはさらに激しく燃え上がったのだ。
長い回廊を歩きながら岳念はこの廊下がどこまでも永遠に続けばいいと思った。
姫のほうは岳念のあとに従いながら廊下がどこまでも続くので不審になってきた。
「この廊下は、どこまで続くのですか」
「永遠にです」
姫は廊下を走って逃げた。
それを岳念が追ってきた。
姫が廊下の角を曲がっても曲がっても廊下はどこまでも延々と続き姫は岳念に永遠に追いかけられてるのだという。
それから逃れるには般若心経かアブラウンケンソワカでも唱え回廊の外側へ飛び出すしかないらしい。
と、そのとたん栞が扉を倒して飛び込んできた。
紙魚子はほっとして栞を連れて帰途に就く。
だが栞は疲れ果てたようでぼーっとして何度も道を間違えてしまう。
さらに速足で歩き続けるのを紙魚子が止めて理由を訊く。
「だってずっとあいつが追ってくるもの」
振り返ると恐ろしい形相の僧侶がひたひたと後を追ってきた。
今度は道を走って曲がっても曲がっても終わらずいつまでも岳念が追いかけてくる。
と、道はいつの間にか長頸寺の回廊になっていた。
紙魚子は慌てて般若心経をとなえわからなくなりアブラシンケンソワカと唱えわからなくなって内側へと飛び込む。
そこには亡霊たちがいた。
「長姫、この岳念の想い、遂げさせてくれ」
とたん、栞は長姫の姿に変わる。
あの伝説は虚偽で実は真面目な岳念を長姫がからかって畜生道に堕としたということだった。
「姫、どっちが姫じゃ、そっちかー」と飛び掛かってきた岳念を紙魚子はひっぱたく。
「この馬鹿、こんな女に四百年もたぶらかされてるんじゃないわよ」
へたへたとくずおれた岳念の亡霊は消えた。
住職が言うには「おまえさんが岳念を成仏させてやったようじゃの」
この話、最高におもしろかった。