ガエル記

散策

『蟲師』漆原友紀 その2

ネタバレします。

 

「柔らかい角」

女性村長の白沢は蟲師ギンコを呼んだ。

村では雪の晩に耳を病んでしまう者が出るという。ほとんどは片耳だが片耳を失うと人はまっすぐ歩けなくなる。雪深い山村で踏み外せば谷底に落ちる。

医者は首をひねるばかりで蟲師ギンコを呼んだのである。

 

ギンコは耳の中の粘液を見るなり「原因は蟲ですな」と判じた。

「呍」という蟲が音を喰うのだという。

普通は森の中に生息するが雪が音を吸収し音を求めて里へ下りてきたのだと説いた。

ギンコは屋根裏に「呍」が群れ巣くっているのをみつけ(この図かなり気色悪い)片耳が聞こえなくなった主人の治療をする。

お湯を用意させ塩を混ぜて吸い飲みのような器で主人の耳に注ぐとでろりとしたものが出てきた。

主人の片耳は聞こえるようになる。

 

村長は蟲師の仕事を見て驚き「あとひとり、両耳を病んでしまった者・・・私の孫ですが」とギンコを連れて行く。

その子の名は真火(まほ)

前の冬に突然額に角が四つ生えそれまで聞こえていた音が聞こえなくなり「これまでに聞いたこともない音」が聞こえだしたという。

物音ひとつしない夜でもささやく音、轟くような音、耳を塞いでも様々な音が角から音が入ってくるというのである。

 

「これは、もしや”阿”」

”呍”と共に行動し呍の作った「無音」を喰う蟲だという。

これに寄生されると見境なく音を拾うために近くの音を聞くことはできなくなるのだ。

そしてギンコによるとその治療法はまだみつかっておらぬらしい。

 

ギンコは蚊帳のようなものを広げて吊り下げその中で何かを燃して煙を出した。

真火にもギンコの声が聞こえるようになったらしい。

「その角ーどんなふうにして生えてきた?」

死んだ母がよく耳を塞いでいたという。

それを思い出し真似してみた。

そしたら額が盛り上がり角が生えてきたのだ。

その母も角が生える病気で耳を塞いでも音は防げなかったはず。あの時母さんはなにか言って弱り果ててしまった両手で強くおれの耳を塞いだ。

 

ギンコはどこかに処置法の鍵はあるはずと考え祖母に問うた。

真火の母親である娘は死ぬまで音に苦しめられ、と言いかけいや違う、と祖母は言った。

あの日急にあの子は「音が消えた」と言った。

そしてそのまま間もなく死んでしまったのだ。

そして真火がいう「母がよく耳を塞いでいた」のはこの時期のことだった。

屋根の上で考えていたギンコは真火がひとりどこかへ行くのを見ていた。

そして降り始めた雪を案じギンコは真火の後を追った。

 

ギンコは雪の中の静けさを感じながらも無音ではない、と思う。

だがあらゆる音を拾うとなると一つ一つの音はもう聞こえなくなる。それが極限まで高まればもしやそれが「音が消える」ということか。

 

ギンコは真火を見つけ真火の母が死ぬ前に耳を塞ぎたかったのではなく聞こえる音を聞こうとしていたと見つけていく。

そして真火がもう一度自分の手で耳を塞いだ時、生えていた四つの角が落ちたのだ。

 

ギンコはそのうちの二つを取り、二つは真火に返してあげた。

ギンコは真火が突然静かな世界に戻ったのを案じたが真火は母さんと同じ音を聞いていたことを忘れないと答えた。

 

ここまで思いつめたことはないが子供の頃、音についていろいろ思いを巡らせたような記憶がある。

漆原氏はそんな子供の時に考え込んだことをよく覚えている人だったのだろう。

大人になるとそうした小さな恐れや悩みが薄れてしまう。

それは良いことではあるのだが。

 

 

「枕小路(まくらのこうじ)」

ギンコは予知夢を見る、という男に薬を渡し「この薬で予知夢の数を調整した方がいい」と伝えて去った。

一年後、その男のいた村に寄るとそこは荒れ果てていた。

 

男は刃物研ぎを生業にしていたがそれだけでは収入が少なく、妻子に食わせてやるのもままならなかった。

それが水源地を見つける、とか崖が崩れる、とかの予知夢を見ることで村人に感謝され謝礼を受け取ることでなんとか食いつないでいたのだ。

しかし男は不安を感じていた。

夢に見たままが現実になるとまるで自分がしでかしたかのように思えたのだ。

妻は否定して思いつめる夫を励ましたが男は恐ろしくなりギンコからもらった薬を飲むようになった。

 

ところがそんな時、村を津波が襲い娘が流されたのだ。

こんな大災害を男が予知できなかったことを村人は誹り男は薬を飲むのを止めた。

たちまち予知夢の回数は増え村人は再び謝礼するようになった。

 

そんな時、男は妻の体にカビが生え全身に広がり崩れて死ぬ夢を見た。

それは現実となり村には男ひとりだけとなった。

 

男は一年後に訪ねてきたギンコに言う。

「オレを騙したな」

おれの中にいるのは予知夢を見せる蟲じゃなくおれの見た夢を現実の持ち出し伝染させる蟲なのだ。

ギンコが男に嘘をついたのは「この蟲は完全に断つことができず生涯均衡を保ち共生していくしかないからだった」という。

ギンコは謝りなんとか男に取り憑いている蟲を断つ術を見つけると約束する。

 

男が自分が使っていた枕を切ると男の身体から血が迸った。

男はギンコが去った後、ふたたび研ぎを始めたがついに自らに刃を突き立てたのだった。

 

能力を使うための能力が必要なのだと思う。

少年マンガでは異能力を駆使することでのバトルが読者を惹きつけていくがそれを使えない人間はこのように苦しみ死ぬしかない。

それを封じるのか、利用するか、その両方の力がないものは負けてしまう。