
デジタル版のメリットは見開きの絵がきれいに取り込めることではないでしょうか。
ネタバレします。
第4羽「搭に飛ぶ鳥」
「皮肉作品」というものがある。
これもそのひとつでかなり苦い。
ピュアな感じの若者が主人公である。
薄暗い部屋の中にうずくまっていた彼は何気なくドアの外へと出でて外の世界を見る。
ここから先には無限の”虚空”が広がっている。それは”世界”の外、この亜足元は”世界“の端だ、と主人公は考える。
彼に話しかける男がいる。
男は修道服らしきものをまとっている。
そして男は主人公を連れて”夜”を抜け”世界”の中心へと向かう。そこは眩しい光に満ちていた。
主人公はその眩しさに目がくらむ。
修道服の男は彼を労り委員会へと向かう。
彼は「コマー」という仮の名を与えられ「君がほんとうにタリマの住人になれるかどうかは君次第だということを忘れないように」と告げられる。
さて主人公が誰なのか、何なのかは読む人によって違うのかもしれない。
私にはやはり彼が「オタク」という存在に思える。
むろんこれは作者の諸星大二郎氏も含まれるであろう存在である。
彼はどういうわけか今辺境の地に迷い込んできている。
委員会のお偉方が言うように「タリマ」の住人になるには「君次第」なのである。
「タリマ」は「アタリマエ」の略字だろうか。
アタリマエの世界の住人になるためにはオタクにとっては努力が必要である。
与えられた名前は「コマー」これは「君は一つの駒にすぎない」の「駒一」なのだろう。
アタリマエの社会でなら努力次第ではコマから課長になることもできるだろう。
しかしコマーはそんなアタリマエの生活などまったく考えていないようだ。
彼はあれほど注意されたにもかかわらず”世界”の外を見ずにはいられないのだ。
”虚空”に開かれたあの門を通って。
(ところでなぜここには赤ん坊を抱いた女がいるのだろう)
門の外側は酷く危ない断崖絶壁に螺旋階段がありそこには全裸の美しい容姿の翼のある若い女性がうずくまっている。
コマーがはっとすると巡礼者が「汚らわしい鳥めが」と罵って女を杖で追い払う。
このエピソードはまさにオタクが好む「みだらに魅力的な女性キャラ」を迫害する様子に思える。
なにもすることのないコマーは勉強をすすめられる。
そこで世界の在り方を教えられる。
だがコマーにはその教えがよく吞み込めない。そしてやはり世界の外には何があるのかを問うてしまう。
教師の答えは「世界の外にはなにもない。あるのはただ無の虚空だけだ。意味のあるものはすべて世界の中にある」というものだった。
それがアタリマエの世界なのだ。
しかしコマーは「しかし虚空の彼方に無数の塔が無限に伸びているのを見ました」と反論する。
教師の答えは「あれは虚空が作り出す幻だ。誰も行くことはできぬ」というものだった。
コマーは「ほんとうにそうだろうか」とまたも疑心を抱くのだ。
ぼくは世界の内部に関心を持てない。僕の心はいつも外に向いている。
これはオタクの心であろう。
自分がそうなので実感してしまう。
現実の出来事に興味が持てず考えるのは宇宙だとか妖怪だとか異世界だとかなのである。
赤ん坊がこの場所にいるのはこの幼児期にだけファンタジーの世界が許されるからなのかもしれない。
しかしそれが必要だというのもおもしろい。
コマーはザムズさんに連れられ世界の中心に向かうがまだどうしても光に慣れない。
そして美しい若い女性と出会うが目を背けるようにして逃げ出してしまう。オタクである。
翼少女にはこうではなかったのに。
コマーはますます自分の中に入り込み「何か」を思い出そうとしていた。
ザムズは心配しコマーの部屋を夜の方に移してあげようとするがコマーは「このままでいい」と答える。
それでもザムズはコマーの手を引いて連れ出す。
そこで彼は自分に近寄ってきていた翼の少女が人々に叩きのめされているのを目撃し無我夢中で助けてしまうのだ。
ついにコマーは夜の一番暗い部屋へと移された。
そこにあの世界の中心で見かけた美しい少女がやってきて話しかけてきた。
が、コマーはおびえるように逃げ出し、辺境の地へとむかった。
辺境では翼人間たちが何か騒ぎを起こしていた。
門には翼の少女がいた。コマーは少女に向かって歩き出す。
ザムズが駆け寄り「もう一度委員会に頼んでみる。君はまだ更生できる」と呼びかける。
コマーは思い出した。自分がなにものかを。
虚空を渡って別の世界へ行ってみたいと思った者だった。
ザムズは何度も呼びかけたがコマーは外へと出た。
ぼくは世界の外に憧れるあまり鳥のようになりたいと思った。そしてこの鳥の少女を愛したんだ。
少女と共に主人公は鳥の巣へと向かう。
そこでは多くの鳥たちが人間の死骸を食べていた。
ザムズはつぶやく。
「なぜ世界の外に虚空に惹かれるのか。邪悪なものたちに交じってまで。世界の外に意味はないのに」
それでも私たちは鳥の世界に憧れるのだ。
アタリマエの世界には生きていけないのだ。
第5羽「本牟智和気(ほむちわけ)」
四世紀頃、第十一代垂仁天皇の物言わぬ皇子・本牟智和気は出雲の大国主を参拝する。
かつて皇子は一度大きな白い鳥を見て言葉を発しそうになった。
その後、占いによってその鳥を捕らえれば口が利けるようになる、と言われていた。
門衛の湯河板挙(ゆかわたな)はその鳥を見た唯一の者だったため「鳥を捕まえよ」と命じられていた。できなければ殺される運命だった。
湯河板挙は伯耆の国で鳥を呼ぶ少女「鳴女」に出会いその鳥を呼んでほしいと頼むのだった。
当初は拒否した鳴女だったが争いの中で湯河板挙とともに魂を空に飛ばし白鳥を見つけ皇子のもとへと向かう。
物言わぬ皇子はその時はっきりと言葉を発した。
本牟智和気は出雲へと進撃し目的を果たす。
その後、大王は本牟智和気のために鳥を取ったことに因んで鳥取部を定めた。
すばらしい。
鳥取の由来を始めて知った。