ガエル記

散策

『アダムの肋骨』諸星大二郎  その2

このインパクト見てほしい。

 


ネタバレします。

 

 

「真夜中のプシケー」《ビッグコミック増刊》1975年1月号

本作もまたストーリーそのままならやや「よくある話」になりそうなのを演出の巧みさで読ませてしまう。

 

クラブ勤めの雅子は「浮草のような生活に嫌気がさしパトロンに囲われる」という話を受けてしまう。(いやどっちにしたって浮草だと思うが)

高級マンションにひとり暮らしで相当な生活費が与えられるというその話には条件があり「その人の姿を見ようとしてはいけない」というものだった。

連絡があった夜は灯りを消しベッドに入って待っていること、と代理の男は伝えて去った。

 

これらのことを雅子はある男に手紙で打ち明けていく、という手法で物語が進行する。

そして雅子はついに懐中電灯でパトロンの寝姿を見届けようと決心するのだった。

 

結果雅子は精神に異常をきたし入院する。そして近所にいた子ヤギを連れてきて我が子として可愛がるのである。

雅子から手紙をもらった幼馴染の男はどうしようもなかった。

雅子が住んでいたマンションの部屋で一冊の洋書を見つけページを開くとそこには”魔女の宴会”の主催者、ヤギの頭の悪魔の姿が描かれていた。

 

という話なのだが、現在でなら「悪魔の姿を見て驚いたりせず受け入れて仲良く生活していく」というラブコメになりそうだ。

実際、雅子が勝手におかしくなっただけで事実としてなんらかの加害があったわけではないのに姿を見ただけで叫ぶというのも気の毒である。

気にしていたかもしれない、悪魔氏。

 

 

「礎(いしずえ)」《漫画アクション増刊》1978年6月

諸星氏は実体験のせいか初期にサラリーマンものが多く、どの話よりもホラーの度合いが凄まじい。

主人公は作者氏を思わせる好青年のためもあってますます心が痛む。

 

サラリーマンと書いたが今回は地方公務員。

地震予防課」という現在ではさらに恐怖を覚える名称の課に移転を命じられるのが主人公の贄田くんなのだ。

“贄田”は実際にある名前なのであまり言えないがやはり予感させる。

 

贄田くんが移った「地震予防課」は課長とふたりきりで殆どこれという仕事もなくしかも驚くほどの高給になる。

課長がいつもうつむいたままで仕事をしながら受け答えするのが怖い。

突然高給を受け取り遊びの味を覚えた贄田くんは同時期に突如片目を患う。

また素人郷土史研究をしている男性から祭儀場の痕跡を捜しているという話を聞くのだが彼はその意味を調べようとはしなかった。(調べたとてどうもならなかったかもだが)

こうして贄田君はそのまま「都民の礎」になる日を迎えてしまうのであった。

 

諸星氏の「犠牲者に選ばれる話」はほんとうに怖い。

いやこれ、このようになるというのは暗喩であって実際に犠牲になっているという話なのだから。

 

 

「肉色の誕生(ホムンクルス)」《漫画アクション」1974年3月21日号

以前『海竜祭の夜』の記事で一度紹介している。

 

 

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上の記事では〈妖怪ハンター〉のワンエピソードとしての収録だったため導入部に「稗田礼二郎が友人から受け取った手紙の中にこうした物語が記されていた」という改変がなされている。おもしろい。

ただし表紙はもとの方が淫靡で良いのではないだろうか。上の画像である。

 

前回の記事で書いたようにこの本は何度も繰り返し読んだものなので感想は上で書いている通りである。

諸星氏が大好きなどろどろの生命体の美しさと恐ろしさ、そして六郎の悲しさが残る。

主人公青年の人の好さがとても良い。

 

 

「袋の中」《未発表》

諸星作品の中でも極めておぞましい話の一つだろう。

《未発表》というのは雑誌未掲載ということなのだろう、なのもうなずける。

あとがきで諸星氏は「少年が主人公であればさわやかに神にもなってくれるが大人になってしまうと人生の垢を引きずってしまう。神になり切れない」と書いている。

この作品は現在読むといわゆる引きニートの話であり、なんJ民なのである。

なんJ民になることのできなかった前時代の憐れな姿である。

引きニートになるのにも心構えが必要なのだ。