ガエル記

散策

『増殖するシャーマン』島村一平 その3

ネタバレします。

 

1章 ポスト社会主義期における宗教とエスニシティ

 

3 モンゴル研究・ブリヤート研究におけるエスニック集団論

本節は役者に光を当てるスポットライトである。

多国家に居住するモンゴル系集団。これはもう小さな島国の中で多数派として居住している日本人には共感しにくい。

とはいえ考えてみることはできるだろう。

いわゆる日系と呼ばれる人々だって存在する。

世界のあちこちに日本人の親もしくは祖先を持つ人々が存在することは知っていても日本人が「日本人は~」と述べる時にそれらの人々まで含めて考えているとは言い難い。

つまり完全に無視している。

そして日本の中で暮らしている少数派である外国由来の人々には「日本人ではない」と断言するし「日本人名」を使うことを嫌いどこの国の者かを問い「嫌なら帰化しろ」というが何かにつけ「帰化した奴だ」と暴く。

たぶんこれはどこの国でもおおよそこのようなものだとすれば「多数派ではない、少数民族」がどのような扱いを受けるかは少しは想像できる。

しかしそれ以上の実情をイメージすることはできない。

 

やはり興味を持ってしまうのは衣食住における特徴だ。

松葉は男女とも中国製の衣服が流通しているが春秋冬は防寒能力にすぐれた「デール」を着用する。

ハルハ人のものとは異なる鍵型の襟飾りが特徴である。赤・黒・赤のストライプとなっている。赤が幸せを意味し黒が苦しみを意味するともいう。黒のストライプが太いのは歴史的に苦しみを味わったからであり遠い過去や未来は幸せになるので赤いストライプによって挟まれているのだという。

食生活において他のモンゴル遊牧民と異なるのは野菜の常食である。

また肉は水煮にしてナイフで切りながら塩を付けて食べる。この方法はハルハ人からは「味のない肉」と揶揄され遅れた風習だと思われているらしい。

 

モンゴルブリヤートに特徴的なのは冬に必ず馬肉を食べることだという。これは春は遊牧民にはほとんどないことであるらしい。

逆にゴビ砂漠のハルハ人が食べるラクダ肉はモンゴルブリヤートではタブーとされている。この理由を筆者は「シャーマニズムに登場する神”白老人”の乗り物だから」と聞いた。

乳製品はモンゴル遊牧民が三十種類以上の加工をするのに対しアガ・ブリヤートに関しては数種類に限られている。馬乳酒は作られず牛乳から蒸留酒がつくられる。

毎日つくられるのは牛乳を遠心分離機にかけて絞り出す生クリーム「ズーヒー」である。

「シャルトス」と呼ばれるバター、「タラグ」「ブジグヌール」と呼ばれる凝固ヨーグルトなどもつくられる。

また毎日練った小麦粉を自然発酵させストーブで焼いた自家製パンを食べる。これはやはりロシアの影響だろう。

このパンにズーヒーと砂糖をたっぷりと塗り朝や昼にミルク茶と共に食される。ミルク茶に塩は入れない。これもハルハ人から「味のない茶」と揶揄される。

住居は冬は定住家屋に住み夏は移動式天幕(ゲル)を使う。

言語に関してはブリヤート自身は「ブリヤート語を話す」というがモンゴル語標準語からして一方言レベルであるといってよい、としながらも異なる部分も少なくないと書かれている。

 

方言に関しては狭い日本国内でも通じないほど異なる場合もかなりあるわけで教育やテレビ放送などで平均化してはいったものの今でも聞き取れない言葉はある。

小さな国内でも通訳が必要な場合さえあるのだから広大な国での方言がどれほど違うことになるかは測りがたい。