
戻ってまいりました。諸星大二郎読マンガ。
まだまだ作品ありますからなあ。
ネタバレします。
第一部
「壁男PART1」
『COMICアレ!』1995年11月号(マガジンハウス刊)
壁男の登場。自分語りで「壁男とはなにか」の説明がなされる一話である。
うすぼんやりした影のような存在として描かれ壁の中に棲息しているらしい。
どうやらかなり経年の安アパートの壁に現れた彼はますは一日中テレビを見ている老人の部屋の壁で意識をもったようだが壁男にとって記憶の順序は大きな意味を持たないという。
とはいえともかく壁男は一日中つけっぱなしのテレビを眺めていたのだが少しずつ壁の中を移動し始める。
単身赴任の中年男(というには老けてみえる)、狭い部屋に四人で住んでいるためかケンカが絶えない家族、週に一度男が訪ねてくる若い女、他の部屋には誰もいない。
若い女を訪ねてくる男は事が終わるといつも壁に向かってダーツを投げた。
まあどうしたって読んでいれば「壁男は現代日本人の比喩である」的なことを考えてはしまうわけで。
というより先にBL界隈の腐女子が「壁になって推したちのSEXを見ていたい」の方が先に沸いてしまった。腐女子の願いがここからきたのか、それとも諸星氏が腐女子の願いから発想したのか。
ともあれ、壁男はむかつくダーツ男に一矢を報いる。してやったり。
「壁男PART2」
『COMICアレ!』1996年2月号(マガジンハウス刊)
視点が壁男から「壁外の人間」に移動。
賢明な若い女性の視点である。
彼女の恋人がなぜか噂の壁男に夢中になり彼女と会っている間も壁男のことばかり考えており壁に鈴をつけてコンタクトをとろうとさえしていた。
うんざりした彼女は恋人と距離を置くが一か月も音沙汰なしで不安になり男友達らに相談し部屋を訪ねてみるが恋人は壁にめり込むようにして倒れていた。
壁に取り付けられていた鈴に仮名がふられており、鳴る順番を追うと
「ニシナハシンダ、カベオトコモイズレシヌノカ、デテイクマエニテレビヲツケテクレ」と読めた。
この作品でも前回に引き続き「テレビが壁男と重要な関りを持つ」と説かれている。
ならばテレビの存在がかなり薄くなった現在は壁男はどうなったのだろう。
とはいえ現在のテレビはYouTubeやネットフリックスなどとも連携しているのであまり変わらないのか。
「壁男 PART3」
『COMICアレ!』1996年9月号(マガジンハウス刊)
視点が別の男に移る。
PART2の視点であった彼女は壁男に引き入れられ壁の中に入ったらしい。つまり壁女になったらしいのだ。彼女は壁男を「カベオ」と呼ぶことにした。
壁女から手紙をもらった本編主人公男性は彼女に求められてコーヒーや煙草を差し入れしたりするのどかな情景が生まれるが世界はいつも波乱を起こす。
彼女が壁の中に入ったことが原因なのか静かだった壁の中で騒動が始まったらしい。
外部から来たものを受け入れる派閥と恐れる派閥が現れる。さらには彼女を巡ってカベオと別の壁男が争うことになりカベオは彼女を引き込んだことを悔やんでいるようだ。
ここまで進むと壁男&壁女は再び「オタク」の比喩になっていくようだ。
いつも液体的に有機的に融合し溶け落ちる諸星世界が壁という無機質でカサカサに崩れ落ちる稀有な例といえる。
とにかく何かに溶け込んでしまいたい欲望がある作家なのだ。