ガエル記

散策

『壁男』諸星大二郎 その2

ネタバレします。

 

「ブラック・マジック・ウーマン」

『増刊WEEKLY漫画アクション』1979年8月31日号(アクションコミックス【コンプレックス・シティ】収録)

諸星氏自伝エッセイ風で導入しながら途中から恐ろしいサバト情景となる。

 

うっかり「窓の無い」アパートの部屋を借りてしまった主人公氏に猛暑の夏がやってくる。喫茶店と隣り合った窓には板が打ちつけられているのだ。

とあるが無論エアコンは無い、という猛暑なんて今現在想像し得ない。

この頃はまだその状態でも「夏バテだあ」というのですんだのか。

今なら確実に死んでいる。

 

蒸し暑い夜、ついに主人公は耐え切れず窓の板を外してしまう。

だがそこにあるはずの喫茶店の壁は無く狭い空き地が存在していた。

そしてそこでは近所の住人たちによってなにやら恐ろし気な”サバト”が繰り広げられ悪魔ベルゼバブによって「おまえたちにかつてない快楽と富を与えよう」というお告げがくだる。「そのかわり一年たったらお前達の魂をもらいにくるぞ」

主人公は覗いているのを見つかり襲われるがなんとかその夜を凌ぎ切る。

 

しばらくしてインベーダーゲームが流行りサバトに参加していた住人たちの店はインベーダーゲーム店に変わったがそろそろ一年めとなる・・・。

 

インベーダーゲームの流行り方が悪魔的だと思うほどだった、ということなのだろうなあ。

 

「鰯の埋葬」

アクションピザッツ』1991年10月2日創刊号(小社刊)

創刊号にこの内容・・・やりおるわい。

 

タイトルをそのまま検索すればゴヤの絵画が登場しそれが表紙とも一致するのでそこからの発想だといえばそれまでだがその絵とこの作品がどのようにリンクするかはよくわからない。

ゴヤの絵にも本作の表紙絵にも描かれている大きな旗の顔が印象的だがそれがなんなのかもよくわかっていない、らしい。

 

諸星氏が好んで(?)描いている「会社」シリーズの一つである。

そして会社ものはほぼそこで働く人の「死」と密接に結びついている。

多くが「会社の生贄」となっていく物語だと言っていい。

もう少し細かく言えば「コネが無い者」「有能でない者」は「会社の生贄」となることで会社と深く結びつき役に立つ者となれるのだ、ということか。

これは柳田國男的な民族学とも結びついているのだろうか。

日本近代社会における会社は外観のぱっと見は世界と渡り合うグローバルで先進的であるようでいてその実は村社会をそのまま引きずっている。

正心製薬会社の創始者は身一つで行商から始めて一代でこの会社を興したという。

大会社の地下に祀られた神様への「お勤め」代理を任じられた本作主人公の古田は古株であるというだけで人望は無い。

が、会社の神様に誠心誠意お仕えすることで「社長よりも高い役職につけてやる」というお告げを受けた。

おざなりになっていた神様を抱きかかえ古田は「皆に行ってやってください。私がいずれ社長になるのだと」と叫ぶ。

そして彼に初代社長の偉業を説いた根津は群衆の中でその時の薬売りの旗を掲げる。

この構図がゴヤ「鰯の埋葬」となる。

 

古田は神を見出そうとしたがそこに神は無く彼は走る大型トラックの前に飛び込む。

 

古田は命を取り留めたという。

そしてまた神様へのお勤めをする者が決まった。

 

 

「会社の幽霊」

ヤングジャンプ増刊ビジネスジャンプ1号』1982年(集英社刊)

会社シリーズがさらにまたひとつ。

 

タイトル通り「会社」が幽霊であり最後大妖怪となってしまう。

戦後の高度経済成長の中膨れ上がっていく会社というものが何よりも恐ろしい妖怪になったのだ。

描かれたのは1980年代前半で日本社会はこの後「バブル期」というさらなるモンスターに変じていくのである。