ガエル記

散策

『憑依と抵抗』現代モンゴルにおける宗教とナショナリズム 島村一平 その3

ネタバレします。

 

2 地下資源に群がる精霊たちー鉱山開発とシャーマニズム

2010年春、ウランバートル郊外のガチョールトという炭鉱の町で筆者はとある男性シャーマンの言葉を聞く。

「精霊は地下資源が好きなんだよ」

遊牧民であるモンゴル人は牧草地の保全のために農耕を忌む。

ひとたび表皮をはぎ取られると回復は望めないのだ。

なのに「大地を掘り返す」鉱山都市でもシャーマンが増え続けているというのである。

伝統文化に根差すはずのシャーマンが鉱山を渡り歩いて「布教活動」に励むのはなぜなのか。

そもそも北アジアシャーマニズムは狩猟牧畜文化に根差した伝統的な宗教的実践として理解されてきた。

しかしどうやらシャーマニズムはそうした伝統的信仰というよりもむしろ都市化や地下資源開発という社会変容に対応する中で柔軟に変容していく宗教的実践と考えた方がよさそうである。

 

ここでもシャーマニズムは貧富の格差の中で生まれる。遊牧よりも鉱山会社に勤める方がより安定した収入を得られるかもしれないがすべての人が社員になれるわけではない。

社員に選ばれなかった者の中からシャーマンが生まれるのである。

だがシャーマンになるためにも金が必要である。師匠に高額の謝礼を払わねばならないからだ。逆に言えばシャーマンは弟子を持つことで裕福になっていく。

この費用を出してくれる親族がいればそこに親族ネットワークの再構築が行われる。

 

だがシャーマニズムはこうした新しい社会への「抵抗運動」ともなる。

鉱山開発により牧草が生えなくなり水を飲むこともたべることもできなくなった、と考えたシャーマンたちは会社の地下設備を潰そうと考える。

ここで思い出したのは萩尾望都『マージナル』である。

あの作品は非常にシャーマニズム的なイメージで創作されているのではないのだろうか。

 

3 憤激のライムー世界の周縁で貧富の格差をラップする

「ヒップホップの発祥地はモンゴルなんだよ」

モンゴルの若者の間で急激に浸透していく西洋音楽の中でもヒップホップが彼らの言語に非常に適していると書かれている。

 

前回も書いたが人間には「神」のお告げが必要なのだ。

その神の姿はそれぞれ違うだろう。

現在日本ではゲーム・マンガ・アニメがその最先端なのではないかと思う。

アニメ映画『鬼滅の刃』に人々が殺到するのを見ればその内容からしても非常に神懸かりなものを感じてしまう。