1976(昭和51)~78年「ヤングコミック」
というわけで突然上村一夫を読んでいくことになった。
楽しみすぎる。
ネタバレします。
あらすじ:まっ青な海、どこまでも続く地平線、陽光にうねる豊かな稲穂……。昭和20年8月15日、敗戦の日、関東平野の片隅、千葉県匝瑳郡の田園地帯で少年・金太の青春がはじまった。上村一夫が、自らの半生をモデルに描く感動の自伝的戦後史。
上村氏のプロフィールには横須賀市生まれ、とある。
そして少年期を疎開先の関東平野の片隅で過ごした、と前書きされる。
vol.1 チューイン・ガム
眼を閉じれば、
私の原型が逆さになって地平線に浮いている。
この『関東平野』は、私のメモである。
いつもポケットにしまい込み、
くり返し眼を通す、あのメモ帳である。
昭和20年8月15日
金太が居る関東平野の中にB29が墜落した。
出てきたアメリカ兵に怖じ気づく自警団を尻目にひとり歩み寄った老人がいた。
金太の祖父である。
小説家でもある彼は英語がわかるらしい。
金太は仲間の家の柿をもらうのを条件にその話を後で教えるという約束をした。
絵が物凄く上手いのでそのまま映画を観ているようだ。
というか日本の映画でここまで巧い映画はない気もする。
いや、昔はあったのかもしれないが。
金太の祖父は米兵と話をつけ自警団も落ち着かせた。
なによりすでに戦争は終わったと天皇のお言葉があったのだ。
ケガをした米兵は金太の家で一時預かることになる。
これには誰も反対はない。
金太は子どもたちに報告をせかされる。
金太は祖父の昼寝中に米兵がいる納屋へ入る。
そこで金太はチューインガムをもらったのだ。
仲間にチューインガムを見せつけ威張る金太。
東京モンだと馬鹿にされていた彼が見直される。
夜になり祖父は電灯の覆いを取った。
素直に喜ぶ金太の前で祖父の声は低い。
「日本は負けてしまった。わしなんぞはお国に裏切られたのかもしれぬが、何も知らぬお前はまだ大丈夫だ。ひとりで生きて行ける男になれ」
金太の両親は死んでしまったらしい。
そして祖父は金太の母の死を口惜しがったのだった。
そんな祖父を後にして金太はこっそりもらったチューインガムを繰り返し嚙みながら近所に住む若い男女が暗がりで交わっている様子を覗き見る。
どうやら明日はアメリカ兵が押し寄せてくるので男は殺され女は犯されるのだという理屈らしい。
その様子を金太はガムを噛みながら見つめる。
vol.2 先生
金太は不良三人組とヒロシさんと連れ立って歩いている。
不良が食べているのは芋だ。しょうがない。
不良たちはヒロシさんの亡くなった弟の仕返しをしに行くところだった。
そして金太は弁当の芋を運ぶ係として連行を許された。
ヒロシさんの弟は国史の教師に殴られてから頭が変になってしまい庭の柿の木で首をくくって死んでしまったのだという。悔しくとも病身のヒロシさんはやむなく不良三人組に復讐を頼むしかなかった。
一周忌の今日、彼らは学校を辞めて九十九里浜に住むその先生をやっつけにいくのである。
が、不良たちはあっさりと元教師にコテンパンにされてしまう。
怒っていたのは教師のほうだった。
戦争中は鉄拳教育を唱えていた校長が戦争が終わった途端手のひらを返し民主主義教育だとしてこの教師を暴力教師だと呼びつけたのだ。
元教師は漁師になった方がよっぽどいい、として学校を辞めたのだ。
そして弟の仇をうちにきたヒロシに謝る。
「数えきれないほど生徒を殴ってきた俺はきみの弟さんの記憶がないのだ」
不良たちは殴られた顔で芋を食うしかない。
一人が悔しさで芋を放り投げた。
「もったいない」と拾いにいった金太はその芋を咥えながら元教師の様子を見に行く。
教師は壊れたゼロ戦の下に潜り込んで「もう一度飛べるようにならないかなあ」と金槌を振るっていた。
その眼からは涙があふれていた。「小僧!おまえも仕返し組のひとりかっ!」
昭和二十年の秋に金太が知ったことは 男らしさは非常に損をするということでありました。
なるほど、と合点がいった。
私が読んだ上村漫画は女性が強くて男が意気地なしだった。
そして先日読んだ『完全なる答案用紙』もまたそうだった。
「なぜなんだろう」と思っていたが戦争を通じそして戦後、上村氏は「男らしさのくだらなさ」をこうして感じ取っていたのだろう。
なのにいまだに戦争は男らしさを描くモノになっている。
こうして「戦争は男らしさが下らないモノになるのだ」と描かれていたのになぜいまだに勘違いしているのか。
みんな上村マンガもっとちゃんと読もうよ。
vol.3 鬼灯
金太の祖父家の隣に住む大平宅に東京で焼け出された母娘がやってきた。
母は大平福太郎の義妹になる。福太郎は弟が死んだ時に縁は切ったはず、と突き放すが義妹は引き下がらなかった。
金太と祖父は残った娘から話を聞く。
娘は上品な言葉遣いで大空襲のために逃れた母の実家で兄嫁に酷くされここまで来てしまったと話す。
母娘は作ったばかりの漬物小屋の番人として住むこととなる。
ところがその母は義兄の福太郎と交わることを条件として住み込んだようだった。
夜中金太が娘の銀子を訪ねると銀子は外に出ていた。
それは女の首を締めながら交わるというものだった。
金太は恐れをなしたが銀子は平然として金太に宝物の鬼灯を見せた。
ところが突如福太郎が慌てて走り出してきたのだ。
銀子は声をかけながら中に入る。
そこには死体となった母が横たわっていた。
その顔はなぜかうれしそうだった。
銀子は「不思議ね」といいながら母のきれいな乳首の上に鬼灯の種を取り出して乗せた。
vol.4 秘密
殺人事件捜査に頼りなげな巡査が呼ばれる。
同時に金太の祖父家へ出版社の男が訪ねてきた。執筆の依頼であった。
祖父の名は坂口。
坂口安吾、だろうか。
祖父は隣家の殺人事件を変質者同士の合意の上のもの、とみていた。
一方、娘の銀子は巡査に尋問を受けていたがいつも通り淡々と答えていた。
銀子は金太を呼び出す。
金太が先に問いかけた。
「なぜ嘘をついた」
しかし銀子は「同じ男ならもっと頭を使いなさいよ」と答える。
「おまえが男だってぇ?」と言い返すと銀子は「そうよ」と言ってスカートをめくりあげてみせたのだ。
驚く金太に銀子は「女になりたいんだもの、男が好きなんだもの」と告げた。
銀子は両親にも告白していたらしい。
しかし今銀子の秘密をしっているのは「あなただけ」という。
「もしあなたが犯人のことをしゃべったらあたしもひとにしゃべるから。ふたりでオチンチンを見せ合ったって」
夜、執筆している祖父に金太は問いかけた。
「ヒミツ、ってどんな字書くの?」
祖父は「秘密」という字を書いた後、缶詰を渡されて引き受けた随筆を書き続けた。