ガエル記

散策

『関東平野 わが青春漂流記』3 上村一夫 その1


vol.23 チンチン電車

昭和29年=1954年。

いわば日本近代史という学問として読んでいるのだがここに描かれる「中学校の教師が女子生徒に結婚を申し込む(というより強要だが)」というエピソードが事実あったことなのか、というかそもそもこんな疑問を持つことが笑われるほどのことなのか。

近代じゃなく今でもあることなのか、よくわからない。

 

金太は山根淳子に誘われコトを起こそうとするが年増女に誘われすべてやってもらった時とは違い上手くやれずに狼狽する。

 

帰宅すると大雲とモデル女性がマグロの刺身を食べていた。

「まぐろに限って安くしているのよ」

”原爆マグロ”の影響らしい。

(1954年第五福竜丸が受けた水爆実験被害から捕獲されていたマグロも被爆していたという事件)

金太は怖がりながらも口に運んだ。

大雲は「いいじゃねえか。3人揃ってあの世へ行けるなら」という。

大雲とモデル女性はとうとう一緒に住むことになったらしい。

金太はこれを機会に箸を決めようよ、と言い出す。

淳子の家で淳子が自分の茶碗を決めているのに触発されたのだ。

「おじさんの箸は太く、おばさんのは細く、僕のは花がらなんかが入ってる。それだけで家族になったみたいじゃない?」

大雲は赤くなったが反対はしなかった。

(良い話だなあ)

ご飯の後の皿洗いもいつものように金太ではなく女性がやってくれるのだ。

ほんとうの母親のようで金太はちょっとうれしかった。

 

 

vol.24 受胎告知

金太は自分は不良にはなれないと感じ真面目に生きようと決心する。

 

そこへ転校してきたのが中国から引き揚げてきた山田洋二君だった。

金太は山田洋二君の勤勉で真面目な様子に感動を覚える。

それは戦後9年間で自分たちがすっかり忘れてしまったものだった。

鼻をかむのも新聞紙だったので銀子の鼻はいつも黒かった。

 

山田君に比べ奴らのなんと不潔なことよ、と金太は三角関係のツマリ先生・山根淳子・松橋を睨むのだった。「昨日までは俺も仲間のひとりだったけど」

しかしここで金太は山根淳子から「あなたの子を妊娠してるの」と告白され「責任とってね」と去って行った。

 

動揺している金太に山田君が話しかける。

「この桜の枝を折ってはいけないだろうか」

引き揚げの途中、大陸で死んでしまった母の霊前に飾ってあげたいのだという。

金太は四つん這いになり山田君が枝を折りやすいように台になった。

「母さん」

昭和29年ビクターコロムビアから国産初の45回転EPレコード発売

テイチクレコードより「岸壁の母」(菊地章子歌)が発売される。

 

vol.25 花の宴

春の日、編集者の吉原氏が訪れ大雲宅では花見が行われた。

吉原氏は好きでもない女性を妊娠させてしまい苦しんでいた。

その話に金太は共感してしまう。

そして「ぼくにも子供ができたんだ」と告白した。

そこへ淳子がやってくる。

大雲は「産みなよ」という。

妻も「あたしたちの子供だってことで」「大きくなったら返してやる」と大雲。

しかし淳子は「あたし帰ります」と帰ってしまった。

金太はすっかり酔っぱらっていて足元もおぼつかずぶつかって気絶してしまう。

 

目が覚めた時、吉原はすでにおらず目の前にいた大雲夫妻は「あの淳子とやらのガキの父親はおめえじゃねえよ」というのだった。

しかも金太の体験を訊くと精液は畳の上にこぼしたという。

ふたりは大笑いとなり「あの女おめえに尻ぬぐいさせるつもりだったんだ」

 

夜、金太は淳子を罵りながら歩く。

だが淳子の家のまではツマリ先生が服毒自殺を図って死んでいたのだ。

 

 

vol.26 熱海心中考

山根淳子の金太への手紙が語りとなって描かれていく。

 

淳子は今、松橋と熱海に逃避行し「つつじ荘」とふたりが命名した宿に泊まり最後の交わりをしているという。

 

淳子のお腹の子は松橋のものだった。

淳子と松橋の性愛の場面が続く。

ふたりは堕胎することも生むことも出来ず一緒に死ぬことに決めたのだという。

死ぬ方法は決めていないがいずれにしろ美しい死を選ぶのだという。

 

手紙を読み終えた金太はちょうど不要なものを燃やしていた大雲たちの呼び声で手紙を含め持っていく。

大雲が燃やそうとした大正琴に目を止めた妻はそれを欲しがった。

 

淳子たちの話はすでに今朝の新聞で心中事件として出ていたのだった。

 

夜になり酒を飲む大雲は妻に大正琴を所望した。

妻が弾いたのは「湯の町エレジー」だった。

 

その時「ごめんください」という声がした。

その声の主は銀子だった。

パンツ一丁で胸に布を巻いただけの珍妙な格好で泣きながら現れたのだ。

 

vol.27 ゲイ志願

銀子は昨晩上野駅で追いはぎに会ったらしい。

チンポコを見て逃げたようだ。

 

大雲夫人は徹夜で銀子が着る服を縫ってくれたらしい。

 

銀子は東京のゲイバーで働く覚悟で出てきたらしい。

9年間の義務教育の間、苛め抜かれた銀子は耐え抜いたのだという。

そして銀子は大雲にゲイバーで働くための身元保証人になってもらいたいと頼み込んだ。

 

妻の口添えもあって大雲は引き受けた。

昭和29年ゲイバーは大盛況だった(という)

大雲は銀子を伴いゲイバー「バラ」へ赴く。ママが現れ

「敗戦国にはあたしたちみたいな男が湧いてくるっていうけれど・・・ほんとなのねえ」

(そんなものなのか???)

大雲が用意してきた銀子の履歴書と身元保証人である大雲の戸籍謄本にゲイバーママは「この子の履歴書はいらないよ」と答え大雲の書類だけを受け取ったのだった。

そして早速今夜から働いてもらうよと言い放ち、お前の部屋を見せておこう、と二階にあがってしまった。

 

残された大雲と金太は勝手に酒をつぐがふたりは降りてこない。

「陰間茶屋か」

金太はひとり立ちしようとする銀子を見て不安になった。

「おれ、おじさんの負担になってるんじゃないかな」

大雲は最初金太を見て「絵描きになる」と思ったのだが今は無理だという。「創るってえのは悪魔に己の魂を売り渡すことだ。おめえは魔道を歩けねえ。その点、銀子のほうがよっぽど芸術家なのかもしれねえぞ」

(そうだったのか。知らなかった。芸術家というのは魔道を歩くことなんだ)

「銀子は天才だ。おめえは鈍才だからもう少し学問にはげんでみろ」

 

二階では銀子がママに「やり方」を学んでいた。

写真たてが落ちてきた。銃を持った兵士だ。

その写真はママ自身で兵役中は鬼軍曹でならしたものだという。

上官から教えられたものは人殺しとこれだという。

 

大雲は飲み代を置いて金太と店を後にした。

 

 

vol.28 ユウジロウ

昭和33年11月27日

金太は小さな広告会社に勤めていた。

社長は社員たちを見てあきれる。

みんな石原裕次郎なのだ。(髪型が)

 

皇太子妃にミッチーが決まった。

男はみんな石原裕次郎に憧れ女はすべてミッチーこと正田美智子を夢見た。

そこへ版下の雄次郎がやってきた。

こちらの雄ちゃんは雄の字だけがちがって何から何まであっちの裕次郎にそっくりなのだ。

金太は銀子の店「バラ」に雄ちゃんをつれていく。

銀子は金を持っていないという客を怒鳴りつけていた。貧相な中年男である。

雄ちゃんはその客を外に出した。

その間に銀子は金太に今まで溜め込んだ金を見せる。

若いうちに店を持たなければあたしみたいなのは生きて行けないんだ、という。

だから金太のように人真似にうつつを抜かしてはいられないというのである。

裕次郎のことね)

 

だが裕次郎そっくりの雄ちゃんはさっきの貧相な客にのされてしまっていた。

中年男は見かけによらず空手黒帯だったという。

雄ちゃんは帰ってしまい金太はひとり酒を飲んだ。

「おれはおれか」

 

やっぱり銀子がいると全然違うなあ。

銀子ちゃんは存在したのかな。

淳子はあっけなくいなくなったなあ。