ガエル記

散策

『百日紅』杉浦日向子 その3

 

ネタバレします。

 

 

 

其の四「木瓜

お栄と善次郎が橋の上で歌川国直に出会う話。

 

いまだ無名の二十三歳善次郎に対しこの時十九歳歌川国直はすでに売れっ子絵師であった。

 

といっても出会った時善次郎とお栄はそのことは知らない。

ひょんなことで話をすることになった善次郎はまだ名を知らぬ若者がなかなかうまい絵を描くと知って褒めてやる。

若者はこの橋の上で出会ったある女がいかに良い女だったかと話す。

たとえりゃ幡随院長兵衛のような女だという。(幡随院長兵衛は一発で変換されると知る)

怖れをなした善次郎だが、その”良い女”はお栄だったのだ。

 

そのお栄は病気で伏せっていた母に会いに行っていた。

が、母はもう起き上がっていてふたりで飯を食べ話をする。

どうやら「アゴ」は母譲りで「色黒」は爺様譲りらしい。

 

お栄が橋の上で話し込んでいる善次郎に声をかけ三人が顔を合わせる。

国直が惚れた長兵衛はお栄だった。

そしてここでやっと絵の上手い若者が「おいら豊国門下歌川国直ってえやす」と名乗られ「いつでも寄ッつくさい」と言われてしまう。

国直から芋の尻尾を渡されていた善次郎はむかっ腹をたてて橋の上からそれを放り投げたのだった。

 

良い話だった。

アニメで使われている場面でもある。

 

其の五「龍」

その国直と善次郎がすっかり仲良くなっていて良い話だ。

 

注文の「龍」の絵が出来上がって北斎の名を入れている時にお栄は蚊に刺されくわえていたキセルから煙草の火が落ちて龍を焼いた。

途端に北斎は龍の上にぐいと墨線を引くや家を出て行った。

 

 

注文した侍は事態に困惑し差し入れの豪勢な弁当を置いていった。

そこへ入ってきた善次郎と国直は酔っ払っていて騒ぎ出す。

責任をとって絵を描きなおそうとしてたお栄は煩がってふたりと北斎を叩きだした。

北斎を叩きだすのがおかしい)

三人がへべれけになっている間、お栄は龍をつかまえようとしていた。

 

酔いが醒めた善次郎が戻ってきた時、龍の絵は完成し傍らでは酔った北斎そしてお栄が横になっていた。

この話はアニメ映画でも特に印象的な場面だろう。

こうした話があるのか、作者の創作なのか。

まるで見てきたかのようなぞくぞくする話である。

 

 

其の六「豊国と北斎

江戸の出版物は毎年正月二日一斉に売り出される。

それに向けて浮世絵師の仕事は夏からが本番となる。

らしいがどうしてなのか。一斉に売り出さなくても良さそうなのになあ。

 

とにかくそういうことで歌川豊国社中は夏の盛りに汗を垂らしながら仕事に精を出す。

その中に国直もいた。

国直は巧くて筆も早いが豊国を尊敬しながらも北斎に私淑する問題児でもある。

 

相変わらずのドタバタ喧嘩。

江戸の夏を描いたこれも傑作だなあ。

 

 

其の七「鉄蔵」

文化元年四月十三日

江戸音羽護国寺

浮世絵師葛飾北斎百二十畳の紙に大達摩を描く。

これは実写映画『北斎漫画』でもあった場面でアニメ『百日紅』でもこの場面は紹介される。

 

そして北斎は文化十一年十二月八日十一代将軍家斉公に谷文晁と共に召され御前で絵を描くこととなる。

北斎は藍を引いた紙を川に見立て鶏の足に朱を塗りその上を歩かせて「立田川に紅葉流るるの図」とする予定をたてた。

ところがいざという時に鶏が怖じ気づき動こうとしない。

北斎は即興で雲龍の図を描き「見事じゃ」の声を頂いた。

 

お上より下されたのはモナかと五十両であった。

北斎の名はますます高まった。

 

この話にお栄が腰巻もせず寝ていて父北斎が叱ると「今朝おめえが絵を包んで持ってちまったものを」と答える。もう一枚は北斎が首に巻いていた、という話が加わる。

褒美をもらった北斎は女弟子の政のところへ行きその色香に目をやりながら「アゴに緋縮緬の腰巻でも買ってやるか」と考えていた。