
2024年「日活 東京テアトル」
wowowオンデマンドにて鑑賞しました。
偶然見つけたものですが昨日記事にした是枝監督『怪物』と比較してしまいました。
大きな話題になった『怪物』に私は落胆を覚えましたがまったく知らずにいた本作『Cloud クラウド』に感嘆しました。
自分はこちら側の人間なのだと確認した思いです。
ネタバレします。
まず言っておくと知らなかったということでわかるだろうけど、私はどうも本作主演の菅田将暉氏が苦手なのだ。
しかし本作は苦手であるのがちょうどよく作用してくれる。
この作品の中で最も嫌な奴が主人公だからだ。
主人公・吉井良介は冒頭からいかに嫌な奴かということが示される。
転売ヤーであることを隠すこともない彼は常に人を見下げている。倒産寸前の工場長から商品を安く買いたたく。
先輩に横柄な態度を示す。
オタクたちが待ち望んでいるフィギュアを買い取ってしまう。
良い気になっている様子が描かれるのだ。
恋人である秋子には意外に本気で愛情を持っているのだが結局危機に追い詰められると秋子にも八つ当たりをしてしまう。
とはいえこの八つ当たりは普通の人間ならやってしまう程度のことかもしれない。
吉井良助は真からの悪人ではなくこれもごく当たり前に平凡な器量の小さな人間であるにすぎないのだ。
そう。吉井は悪党をやれる技量のある人間ではないのだ。
だから「転売」というしょうもないことをするためにあちこちで人を傷つけ軋轢を生んでしまう。
情けない凡人でしかない彼は自分に合わない悪事を成すために様々に敵を作り追われる羽目になる。
こうした「追いつめられる恐怖」を作るのが黒沢清監督は実に巧い。
しかしつい先日『蛇の道』を観たばかりなので捕縛されて拷問に会う羽目になる(実際はならないが)という展開になったのがおかしかった。
黒沢監督、よほど捕縛の上拷問が怖いんだろう。いや、誰だって怖いけど。
そしてここに不思議な存在が登場する。
吉井が雇ったバイト青年・佐野である。
細身イケメン風の佐野は何故か吉井を尊敬しているようでこまめに働く。
吉井の恋人・秋子が思わせぶりな態度をとってきてもまったく興味がない様子だ。
なにか裏があるのか。それとも同性愛的な感情があるのだろうか。わからない。
ところが吉井は佐野が示した好意ある行為を疎みクビにしてしまうのだ。
にもかかわらず佐野はあくまでも「吉井さんのアシスタントですから。困った時は呼んでください」と捕縛され拷問される寸前の吉井を救助するために自らピストルを持って不気味な復讐者たちと戦ってくれるのである。
最後には吉井を殺そうとした秋子を撃ち殺し、その後離れられない関係となった吉井と佐野は車に同乗してその場を去る。
いったいこれはなんなんだろう。
簡単な憶測をすれば主人公「吉井良介」の名前を分解して組み合わせれば「吉良上野介」になるところにヒントがありそうだ。
むろん吉良上野介はその高慢な態度で浅野内匠頭から恨みを買いその家来たちから討ち取られる。
吉井良助はその高慢な態度によってもう少しで討ち取られてしまうところだったが本作では不思議な救援者が現れ助けられてしまうのだ。
ではアシスタントの「佐野」はなんだろう。
吉良上野介に佐野という家来がいたのか、私にはわからないが困ったことに「浅野内匠頭」の最初の「あ」を取ったら「佐野」になってしまうのだ。
なんと本作では吉良上野介が浅野内匠頭に助けられてしまうのか???
そして佐野は吉良上野介改め、吉井良介の恋人を殺して排除し自分がその傍らに座り「思う存分転売をしてください。それ以外のことはすべて僕が片付けます」とささやくのだ。
・・・メフィストフェレス?
いったん悪の道に入った者、たいした度胸もないくせに思い上がり不正を成す者はこうしてもう二度と元の道には戻れなくなっていく、とこの映画はささやくのである。
是枝裕和『怪物』の中の同性愛描写より私は本作『Cloud クラウド』のほうに軍配を上げたい。
ふたりはもう離れることができない。
そんな関係なのだから。
是枝裕和『怪物』(2023)
黒沢清『Cloud クラウド』(2024)
偶然続けて観てしまったこの二作品に自分の好みをはっきり知らされた。