ガエル記

散策

『アドルフに告ぐ』手塚治虫 その2

ネタバレします。

 

第2章 ──続き──

シュメルツ男爵邸でワーグナー「ジークフリード」を聞かされた峠はうなされて目覚め協合通信に連絡を入れて部長からどやされる。

峠の弟の件で特高が来たという。

調査はドイツの警察にまかせて早く帰れという声をよそに峠はランプを見かけるや後を追いかけた。

こうして峠はランプとローザ(もとリンダ)が父娘であり彼女が弟をSSに密告したと知る。

ローザは父の命令で峠から勲の秘密を嗅ぎだそうとしていたのだった。

怒った峠はランプを捕らえようとするがローザによって阻止されてしまう。

峠はローザにその怒りをぶつけ彼女をレイプしてしまうのだった。

 

彼女は処女だった。

勲とは肉体関係を持っていなかったのだ。

峠はその日帰国する。

ローザはホテルの窓から投身自殺した。

 

本作の中で最も後味の悪い部分ではなかろうか。

峠という男は善人というキャラクターではないのだ。

ローザは明らかに毒親に育てられた気の毒な被害者といえる。

ずっと抑圧的な洗脳を受けていたため峠に暴行を受けたことでなにか心が動いてしまった気がする。

勲がそうした行動をとっていたら彼女の行動は違ったものになっていただろうが。

どちらにしてもローザが幸福になるのは難しかった気もする。

 

ところで「大日本帝国」って国号だったのだね。

ふざけているだけかと思っていた。

なんか恥ずかしい。

 

 

第3章

昭和十一年二月二十六日 2・26事件が発生し首謀者は軍事裁判にかけられ全員銃殺された。

これを契機に日本の軍閥は歯止めのない暴走を始める。

 

八月十六日 神戸

アドルフ・カウフマンとアドルフ・カミルが出会う。

いじめっ子らに「白んぼ」とからかわれていたカウフマンをカミルが救ったのだ。

カウフマンは父の意向で神戸キリスト教学校へ通っていたがカミルは地元の学校で日本人の中で過ごしていた。

ふたりは意気投合し友だちとなる。互いのママのケーキを比べることになった。

だがカウフマンの父は息子がアドルフ・カミルと付き合うのを許さなかった。

カミルはユダヤ人なのだ。

「ユダヤ人は劣等民族だ」と父は告げる。

 

カウフマンの家に警察が訪れていた。

「絹子」という名の芸者を知らないかと問う。

有馬温泉「芳菊」の芸者で本名は本多幸。

写真を見せられたがカウフマンは「心当たりはない」と答えた。

 

刑事は執拗だったがカウフマンは知らないと逃れた。

刑事が去るとカウフマンはドイツ総領事館へ電話を入れた。

「例の件で大使館から日本の外務省へ圧力をかけてくれ」

そこへ妻の由季江が「絹子という女性から「ブツは決してお渡しできまへん」という電話があった」とカウフマンに打ち明けた。

カウフマンには妻がなにかを知っているという疑念がわく。

 

アドルフ・カウフマンはアドルフ・カミルと互いのママのケーキを競いながら別れを告げる。

家に帰るカミルをカウフマンは追いかけ謝った。

だがカミルのパン屋にいた人々に見つかり罵られる。

ユダヤ人狩りから逃れてきたカミル家の親戚らだった。

「この子の父親は私達を監視しえドイツへ送還する気なんやわ」

アドルフ・カミルはここでもアドルフ・カウフマンを庇ったのだった。

 

父カウフマンの謎を掘り下げながらふたりのアドルフの関係を描写していく。

軍部内の話ではなく民間の物語である。

 

 

第4章

昭和十二年七月七日夜十時十分 

演習中の日本軍と河の対岸の中国軍との偶然の衝突が起こった。

七月十日午後六時半 日本政府は派兵を発表 こうして”北支事変”と呼ばれる局地戦が始まったのだ。八月二十四日には国民精神総動員体制が決定した。

戦火はすぐ上海に飛び火し全面戦争に突入。

そして内地ではこれを”聖戦”と呼ばせた。

 

アドルフ・カミルは日本男児たちに交じって戦争ごっこをしていたが皆がどうしてもカミルが対象になるのはおかしいと認めてくれない。

「白んぼが大将なんておかしい」

小城先生はこどもたちの喧嘩を止める。

カミルは自分の悔しさを小城先生に打ち明けた。

この様子を監視する者たちがいた。

小城先生は「アカ教師」として目をつけられていたのだ。

 

カミルは家に帰り父親に話をしたかったが来客中で話せない。

しかしドア越しにカミルは彼らの会話を盗聴した。

「なにしろ総裁がユダヤ人だという証拠だからな」

偶然カミル父がドアを開け息子が会話を聞いたのだと知る。

父は息子に口止めをした。

 

アドルフ・カミルはこの秘密に苦しむ。

母から「自分の悩みを紙きれに書いて自分しか知らない秘密の場所に隠せばいい」と助言されて実行する。

それは樹木に開いた「カブトムシの穴」だった。

だが彼は一度だけアドルフ・カウフマンにその秘密の穴を教えていたのを忘れていたのだった。

 

アドルフ・カウフマンは父の紹介で本多大佐の息子芳男に挨拶する。

芳男は幼年学校生だった。

カウフマン父は「自分の息子アドルフにもドイツに帰りエリート校であるAHS(アドルフ・ヒットラー・シューレ)に入学しヒットラー・ユーゲントに入れるつもりだ」と本多大佐に告げるが当のアドルフは「いやだ、ヒットラー・ユーゲントなんか入りたくない」と叫ぶのだった。

アドルフはママに気持ちを打ち明け母・由季江も息子の気持ちに応えたかったが父カウフマンは激しく息子を𠮟りつけ庇おうとする由季江も撥ねつける。

 

父カウフマンは山本通二丁目にあるクラブ・コンコルディアでリンドルフと会話する。

芸者・絹子は1934年にポーランドの骨董屋で手に入れたワグナーの石膏像を持っていた。

ユダヤ人彫刻家キリルが作った五点セットのワグナー像は一つだけ土台が空洞になっていてそこに極秘文書が隠されtいたのだ。

三個はすでに調査済み、芸者絹子から奪ったワグナー像は空くじだった。

そしてベルリン大学に在籍していた峠勲が持っていたそれが狙っていたモノだったが空洞の中身はすでに抜き取られていたのだ。

しかも峠勲は奪われるのを予知して去年の八月七日にウンター・デン・リンデン郵便局から日本へ向けて発送していた。

受取人はわからず”KOBE”という宛先だけが頼りだった。

ゲシュタポ・リンドルフは殺人まで犯したカウフマンの失策を責めた。

「もう一度ことを起こしたら立場は危ないと思え」

カウフマンは神戸のユダヤ人を一人ずつ締め上げようと考えていた。

 

昭和十三年七月四日午後三時

土砂降りの雨、由季江はひとり家でラジオを聞きながら過ごしていた。

そこへ二年前に訪れた県警刑事米山がドアチャイムを鳴らしたのである。

 

刑事は「芸者絹子殺しの犯人はあなたの夫であるカウフマンだという証拠がある。だが私はもう担当をおろされ転勤の命令が来た。重大なのは日本人がひとり殺されたということだ。あなたも日本人だ」と言って去っていく。

 

豪雨の中由季江は夫への疑惑にどうしようもなく彼の書斎を調べ始めた。

その頃、夫カウフマンは神戸に住むユダヤ人に麻薬を打ち込んで自白を迫っていた。

 

この場面を読み返そうとして再読し始めた。

例の「阪神間大水害」の場面である。

その場面とナチス党の夫を持った由季江の不安が重なって描かれる。

芸者の謎、夫の殺人、ヒットラーの秘密が豪雨と共に由季江を襲う。

 

 

第5章

 

七月五日午前一時

由季江が悲痛な思いで夫の書斎を捜索していると雨音で眠れないとアドルフが起きてやってくる。

怖いカウフマンの部屋を掻きまわしている母親に問いかけるが由季江は苛立って息子を部屋へ追い返す。

ついに鍵を見つけ出し書架の奥に隠し金庫を見出した。

 

帰宅したカウフマンは妻が金庫から絹子とワグナー像を映した写真を取り出していたのを見とがめ殴りつける。

由季江は激しく泣き崩れた。

電話が鳴り土砂崩れに襲われ家が倒壊し捕まえたユダヤ人が逃げたという連絡だった。

カウフマンは慌てて車をその家まで走らせた。

七月三日から五日にかけ阪神地方は百年に一度の水害に見舞われていた。

カウフマンは部下のゲルハルトとともに逃げたユダヤ人を追い詰めていく。

だがその日の朝、花崗岩による軟弱な地質はたちまち洗い流され六甲山塊の土砂が神戸の街へ乱入していた。

ことに新生田川は暗渠がふきとんで洪水になった。

 

それでも翌朝学校はあり由季江はぐずる息子を送り出す。

そこへ夫カウフマンがずぶぬれで帰ってきた。

彼を風呂に入れてベッドに休ませた。

彼の服には血がこびりついていた。

電話が鳴り「仕事は終わったとお伝えを」という声がした。

 

アドルフ・カウフマンが登校した学校も水害の被害を受けたが新築の校舎は無事だった。

だがその中で「ヒットラー・ユーゲント」を悪く言ったアドルフに皆は驚く。

アドルフはユダヤ人を悪く言うヒットラー・ユーゲントに入りたくなかったのだ。

アドルフ・カミルとの友情を壊したくなかった。

が、彼はじきに父親の意向でAHSに入学することになっている。

アドルフ・カウフマンは倒木のひとつにパン屋のアドルフに教えてもらった秘密の穴があったのを思い出す。

彼はこっそりそこへ行き穴の中に紙きれが入っているのを見つけた。

 

 

今日はここまで。

 

 

つまりこの激しい豪雨の中『細雪』の妙子や悦子が水害に襲われているのだ。

怖ろしい企みと暖かな愛情が同時にこの中にある。