
ネタバレします。
第18章
ユダヤ人を撃ち殺せという命令を受けてアドルフ・カミルの父、イザーク・カミルを射殺しもう一人の女性も射殺したアドルフ・カウフマンは殺人の罪に苦しむ。
そんな時、SS少佐が「ユダヤ人の一斉摘発を行う」と話しているのを盗聴した彼はエリザの両親にその話を伝えすぐにも亡命した方が良いと忠告した。
だがエリザの父親はコネがあって絶対に自分の家族は摘発されないと信じ切ってカウフマンの助言を聞き入れなかった。
やむなくカウフマンは外出中のエリザの帰りを待つ。
ひとり外出していたエリザは途中でナチスの取り締まりを受ける女性と遭遇し彼女自身も暴行を受ける。
帰りを待っていたカウフマンはエリザの姿に驚き亡命の話をする。
「どこにも行く場所はない」と答える彼女にカウフマンは「日本へ行くんだ」と告げる。
エリザに両親を説得するように言いカウフマンは亡命のルートを考える。
マックスという男に手筈を頼み、トラックにエリザ一家4人を乗せてスイスへ向かわせるのだ。
ところが約束の日、エリザ一家は亡命はしないと出てこなかったのだ。
カウフマンはやむなく銃をもちいてエリザ一家を脅迫してトラックに乗せる。
彼はなんとしてもエリザを失いたくなかったのだ。
一家を送り出したカウフマンは学校へ戻るが「教官室へ行け」と命じられる。
カウフマンの数日の行動は怪しまれていたのだ。
エリザ一家に亡命を勧めているという疑惑を持たれていた。
教官は明朝7時に当地区のユダヤ人を一掃すると告げその際カウフマンにも同行を命じる。
アドルフ・カウフマンは怖れながら警察と共にエリザ宅へと向かった。
「どうせ空き家なのだ」と思いながらドアを開けるとそこにはエリザの両親と小さな弟がいたのだ。
「なぜ戻ってきた?!」
「残してきた金をスイスの銀行口座に移そうと思ってね」という父親をカウフマンは追い立てた。
が、そこにはエリザはいなかった。
エリザはひとりだけスイスへ向かったのだ。
カウフマンは安堵したが他の家族を救うことはもうできない。
カウフマンは手紙を神戸にいるアドルフ・カミルに送り、訪ねてくるエリザのことをくれぐれも頼み込んだ。
その返信でカミルは彼の願いを承諾し代わりに「リトアニアに向かい行方不明となっている父親の消息を調べてほしい」と頼んできた。
カウフマンは顔を覆った。
カミルの父を射殺したのは自分自身なのだ。
カウフマンは列車内でその手紙を読んでいたために怪しまれ手紙を警察に奪われてしまう。
その時列車内に怪しい東洋人のスパイが潜んでおりその手紙が東洋人のスパイのものではないかと疑われたのだ。
カミルの手紙はナチスとヒットラーに対する悪口が書かれていた。青くなったカウフマンだったが偶然その怪しい東洋人を見つけ格闘して捕まえる。
自身も怪我で気を失うが目が覚めた時自分の功績はヒットラー総統の耳にも入ったと知らされる。
奪われた手紙は何事もなく戻された。
第19章
1940年6月4日 連合軍はフランス北海岸のダンケルクに追い詰められてイギリスへ向け33万5千人は脱出した。
脱出が終わった後、死体の山と銃や車両の散らばったダンケルクの海岸をヒットラー総統は視察していた。
アドルフ・カウフマンはヒットラー総統に招かれ先日の功績を讃えられ総統付秘書見習に任命された。
戸惑いながらもカウフマンは任を受けるが話している間に総統は次第に異常な話しぶりとなり激昂し会見は唐突に終わる。
アドルフ・カウフマンはベルグホーフの山荘で総統付秘書見習として勤務した。
そこにはヒットラー総統の愛人であるエヴァ・ブラウンも滞在していた。
その後、カウフマンはフランス・パリへと行き総統がドイツ人にとって屈辱の記念碑を破壊する様子を見届ける。
さらにフランス代表に降伏文書を書かせる総統の姿を見てカウフマンは「命を捧げよう」と誓う。
「ユダヤ人とロシアのコミュニストたちを抹殺する」とカウフマンは誓うのである。
そんな折、アドルフ・カウフマンの前にあのアセチレン・ランプが現れた。彼は父カウフマンと同じ捕虜収容所に入ったことがあるというのだ。
同行の男が「その”モノ”はまだ日本にある」と告げた。
カウフマンは「”モノ”ってなんです」と答える。
彼らはそれ以上教えることなく去って行った。
それよりもカウフマンはランプが「きみの母親に虫がついている」と言ったことが気になり苛立った。
その後、ランプが総統と話をした後不機嫌になった。
ここでもカウフマンは総統とエヴァの会話を立ち聞きしてしまう。
ヒットラーにユダヤ人の血が流れている、という文書が日本人の手に渡っておりランプがそれを取り戻すことができなかったため今ヒットラーは気が狂いそうなほど苦しんでいるのだった。
エヴァは彼を慰めていた。
カウフマンはショックを受ける。
「総統が、ユダヤ人の血統・・・そんな」
アドルフ・カウフマンはすでにカミルによってこのことを知っていたはずなのに衝撃を受けている。
これは作者・手塚氏が間違えているわけではなくあの時は事の重大さをまったくわかっていなかったのだろう。
というか、世の中そういうことばかりなので本当はさほど重大でもないのだが。
しかも最近このエヴァ・ブラウンからもユダヤ人のDNAが見つかったという話があってはあもうなにがなんだか、つまりやはり人類は皆兄弟ということではないか。
黒人差別を行っていた白人もDNA検査をしてみたら黒人の血統が入っていたらしいがそもそも人類ホモ・サピエンスはほぼアフリカから世界へ散らばったわけなのでそりゃみんなどこかで交じり合っているわけだろう。
人種で差別すること自体がいかに馬鹿馬鹿しいかという証拠ではないか。
この作品は人間がいかに愚かなことで悩んでいるかという物語なのだろう。
第20章
昭和15年(1940)11月 神戸
アドルフ・カミルは神戸港でエリザ・ゲルトハイマ―を迎えた。
折しも国威発揚の日本建国二六〇〇年の提灯行列でふたりが乗ったタクシーは遠回りをさせられた。
カミルのパン屋で母親も彼女を歓迎した。神戸のユダヤ人協会にも手続き済だという。
エリザは行方不明のイザークの部屋に住むこととなる。
母親はアドルフ・カウフマンが彼女を逃がしたのはあの子が好きになったからだと息子に告げた。
エリザはドイツでどんなひどい目にあったかを二人に話す。
カミル母はその話を聞いて夫を案じる。
カミルは夜中怪電話を受ける。それはやってきたエリザは偽物で本物は収容所におくられた。そいつはスパイだ、というものだった。
カミルは疑心暗鬼となる。
母親はエリザを可愛く思い店の手伝いをしてほしいと頼む。
だがカミルは疑いを振り払えず彼女をユダヤ教会へ連れて行きラビ(律法師)に「本物のユダヤ人かどうか確かめてほしい」と頼み込む。
ラビによって疑いは晴れる。
ほっとしたカミルは彼女に神戸のユダヤ人も二派にわかれているのだと伝える。
「上海ルートを使い日本でユダヤ人亡命を受け入れアメリカへ亡命させよう」という派と「同胞とはいえこれ以上神戸にユダヤ人が増えるとお互いに生活が困窮する」という派がいるのだと。
イスラエル人はモーゼの十戒をよそにお互いに争い憎みあった。
だから長い年月流浪の苦しみを続け今も同じなのだ。
エリザは言う「自分の国が欲しい。差別もされないユダヤ人の国に住みたい。そこはきっとあたしたちの祖先の土地、パレスチナだわ。そこをあたしたちヘブライ共和国と名付けましょうよ」
「いや、イスラエル共和国の方がぴったりやろ」
それを聞いて微笑むエリザのかわいらしさにカミルはキスをする。
エリザは恥じらいカミルを非難した。
ふたりがパン屋に戻るとドイツ領事館から来たナチスが家を荒らしていた。
カミルは空気銃を持って抵抗しようとしたがナチスによって殴打される。
警察は来てくれず家じゅうがかき乱されたのだった。
カミルは傷だらけ腫れあがった顔で立ち上がり家を出た。
向かった先は小城先生の家だった。
なんと出てきた小城先生も腫れあがった傷だらけの顔だったのだ。
見合ったふたりは互いの姿に笑いこけた。
カミルはあの秘密文書を一日でも早く世界に公開しなければいけないと伝える。
小城先生はナチスの邪魔が入ればすぐに握りつぶされる。
反ナチの人々、ソ連の良心的な平和主義者の人々に渡せばきっと安全な方法で全世界に発表できるというのである。
そして文学の師匠である桑山先生というドイツ文学者に頼むためふたりは出かけた。
ところが桑山先生はすでに首吊り自殺をしていたのだ。
だが先生は小城宛に遺書を残していた。
そこには暗号文で「本多サチ」そして「ラムゼイ」という名が記してあったのだ。
そして秘密文書をラムゼイに託せというのである。
ふたりは有馬温泉の芸者本多サチを探し始めるが、もちろんこの名は物語のはじめに殺された絹子の本名であることはすでに示されている。
すぐにふたりにもこのことは知れるが五年前に彼女が殺されたことを桑山先生が知らなかったはずはない、としてもう一度遺書を見る。
「本多サチ 甥」とある。
つまりその“甥”がラムゼイの連絡員なのだ。
ふたりは次にその”甥”を探さねばならないのだ。
こういうちょっとしたミステリを入れ込んでくる手法で読み手を飽きさせなくする。
うまいなあ。
こういうあたりは萩尾望都にもしっかり受け継がれている。
正直に言うと好み的にはカウフマンのドイツ編は省略してカミルの日本編だけでもよかったかなあ、と思ってしまう。
ナチス話はほんとに恐ろしくて読みたくないのだよ。
いやまあ特高も同じくらい怖いけどねえ。