ガエル記

散策

『アドルフに告ぐ』手塚治虫 その8

ネタバレします。

 

第26章

それから三年の年月が流れ・・・

(わーっ、戦争中の3年が省略されてた)

日増しに敗戦の色を濃くしていくナチス政府はヒステリックに反政府分子を見つけては抹殺していた。

1944年7月20日

アドルフ・カウフマンはSD(ナチス親衛隊保安諜報部)となって活躍している。(ひどいことをしている)

その様子を見たアセチレン・ランプはカウフマンをゲシュタポとして日本に送りたいと望んでいるがアドルフはランプを侮っている。

 

アドルフが慕っているのは神戸にいるママだけだった。

そして連合軍は怒涛のようにドイツを襲い反逆者はにましに増えている。

そこに「総統爆死」の報が入る。

「狼の砦」で爆弾テロが起きたというのだ。

午後二時「狼の砦」総司令部で作戦会議中爆発が起きた。

だが総統は軽傷で免れていた。

とはいえヒットラーの心は疑心暗鬼で誰も信じられなくなっていた。

カウフマンに謀叛人を一網打尽にしろと命じる。

その直後今度はカウフマンを逮捕しろという命令を出した。

危ういところでカウフマンを助けたのはランプだった。代わりにカウフマンを逮捕しようとした将軍を逮捕する。

アドルフはランプに礼を言い、そして総統の精神を危ぶんだ。

「予のまわりの人間はみんなクズだ。クズ人間だ」と言われたことが気に障っていた。

それを聞いたランプは「クズならクズらしく総統閣下に忠誠をつくしクズのように死ぬのだ」とカウフマンを叱咤し去って行った。

 

ベルリンのSDに戻ったアドルフは反ヒットラーグループを片端から逮捕していく。

その中には同級生だったフリッツもいた。

フリッツはアドルフに懇願したが無駄だった。

アドルフに次に命じられたのはロンメル将軍の暗殺だった。

だが英雄と慕っていた将軍を殺すことはできなかった。

アドルフはロンメルに電話して計画を密告した。

ロンメルは覚悟はできていると言い「狂った総統がわしを殺すなら甘んじて死のう」と答えた。

 

ロンメル暗殺命令を拒否したカウフマンはベルリン地区SD司令部から東部辺境逐ユダヤ人輸送担当官に左遷される。

大量のユダヤ人を歩かせて移動させ脱落者はその場で射殺していく。

しかし行進は遅々としてあまりにも進まない。

その中にバイオリニストがおりアドルフは彼に軽い行進曲を弾けと命じる。

それは陰惨な曲だった。

怒るアドルフに彼は答える。

「今のユダヤ人にはこれしか曲はありませんでな。これはわしの作曲した”独裁者のための葬送行進曲”と申してな」

アドルフは銃を突き付けてモーツァルトを弾けと命じるが彼は再び同じ曲を始めた。

その男は撃ち殺された。

 

その夜からアドルフの頭にはいつもその曲が流れるようになり彼は眠れなくなった。

 

 

第27章

その年の9月にはドイツはすでにフィンランドとルーマニアとブルガリアを失い、ハンガリーも間もなく離反しようとしていた。

そんな中片田舎のSD支部ではカウフマン中尉がひとり無聊をかこっていた。

ランプが訪れる。

カウフマンはさらに東へ飛ばされソ連軍の占領地の前線へ追いやられることとなっていた。

今やカウフマンは捨て駒だった。

「どういう命令が下ろうと私は全力を尽くします」

ランプはカウフマンを惜しみ任務を命じ再び救おうとしていた。

彼を日本へ差し向け例の文書を探して焼却し文書を知っている人間を消す、というのがその指令であった。

「特にマークすべきはソーヘー・トーゲ」と写真を見せる。「私情もある。そいつは私の娘も殺したのだ。そいつは念入りに殺してほしい」

だがカウフマンは「日本へ入る手段がない」と答える。アメリカが制空権を握っているのだ。

ランプは「Uボートに乗れ」と告げた。北海をまわって北極海からベーリング海峡を抜け北海道の北端につく。東京の大使館のリンドルフと連絡をとるのだ。

躊躇うアドルフに「きみは東部戦線で野垂れ死にしたいのか」とランプは言った。

 

二週間後アドルフはキール軍港へ行きUー103に乗り込む。

スカンジナビア半島に沿って一路北極海へ向けて潜航しはじめた。

 

北極海。

あと三日も進むと永久結氷帯にはいる。何日も潜って進むのだ。

未確認の艦があとをつけてきた。敵か味方かわからぬままUボートは結氷帯のしたでやりすごすことにした。

この事態にアドルフは耐え切れなかった。

追ってきているのはユダヤ人の怨念ではないかと思い始め「降ろせ」と騒いだ。

乗組員たちは呆れアドルフを部屋に閉じ込めた。

さらに彼は怯えイザーク・カミルの幽霊を見て発砲。

艦長はやむなくアドルフを睡眠薬で黙らせた。

その後、敵艦を撃破し再びアドルフの様子を見ると彼は精神を病み心臓も弱っていた。

Uー103は運よくベーリング海峡を受け10月のおわりには千島列島に近づく。

11月初頭、北の海に氷が張り詰めるころ、基地に入港した。

医師の手当てを受けアドルフは気を取り戻した。

日本に着いたのだ。

彼はすぐに神戸に電話した。

母を呼び出したのだ。

「ズッペ料理店でございます」

アドルフが聞き返すと「カウフマンでございますが」と答えがありアドルフは「ママ、僕だ」と伝える。

若い声にアドルフは安心した。

「アドルフ、ママはね再婚したの」

そして彼女は国籍を日本に戻していた。

アドルフは打ちのめされた。

 

アドルフ・カウフマンの懊悩。

やはりあの時どんなことをしてでも日本に残すべきだった。

本人はそれを望んでいたのだから。

しかし運命は思うようには行かない。

悲しい。

 

 

 

最終巻5巻に入る。

 

第28章

1945年(昭和20年)1月25日神戸

アドルフ・カウフマンは神戸へと向かう。

そこで彼は疎開しようとしている子どもたちに石を投げられる。

神戸の街はどこも変わりお洒落だった娘たちはモンペ姿だった。

だが彼の生家はそのままの洋館だった。

だが門には「ドイツ料理店ズッペ」の標識があった。

チャイムを鳴らすと母が現れふたりは抱き合った。

 

客間は料理店の食堂となっていた。

とはいえ今では国策にそって雑炊やスープを作るだけなのだという。

アドルフが母を讃えると「新しいパパのおかげよ」と答えが返ってきた。

アドルフはどうしても日本人の父親は認めがたい。

そこへ峠草平が戻ってきた。

「いよーっ、待ってたよ。アドルフ、おれ草平だ」と言った後、草平はドイツ語で話す。

アドルフは驚きながら「ソーヘ―と言ったな」と問い返す。

「フルネームは峠草平だ」

あのランプが「特に念入りに殺せ」と伝えたのが目の前にいる峠草平だった。

 

草平が差し出した握手を断りアドルフは自分の部屋へ上がった。

「おれはハムレットじゃない。おふくろもガートルードではない。そしてあの親父もクローディアス王なんかじゃない」

だがおれはきっとあの義父を抹殺してやる、とアドルフは誓った。

 

アドルフ・カウフマンはアドルフ・カミルのパン屋へと向かった。

彼は留守で母親が出てきた。

彼がカウフマンだとわかるとカミル母は激昂した。

「ここはナチスのくるところじゃないよ」

だがエリザがここにたどり着いたと知って彼女の姿を探した。

そこへカミルが戻ってきた。

彼はカウフマンに気づくとなんのてらいもなく抱き合った。

ふたりは一気に親密になり話し出した。

カミルは自分は日本人だという。

ひきかえカウフマンはドイツ人と日本人の混血ということで苦しみ純粋のアーリア人になりたいと告白した。

そしてカミルは自分は今エリザの婚約者だと伝える。

突然言い争うことになるふたりだったが空襲警報にやむなく避難場所へ入る。

だがそこにはユダヤ人協会の人々も逃げ込んできた。

臆面もなく名乗るカウフマンにカミルはひるむ。

さらにそこにはエリザもやってきたのだ。

カウフマンにエリザは父母の安否を問うがカウフマンは「どうしようもなかった」と答えエリザは彼をはたいた。

(いやしかしこれだけは父母のせいなんだけど)(といってもナチスのせいか)

彼らが言い争う間にB29が上空へ飛来していた。

が、機体は神戸を通り明石へ向かう。

B29は明石市全市に二百五十キロ爆弾五百三十一発をばらまき工場と多大な死者を出した。

 

ズッペ料理店の裏では草平と由季江が畑作業をしていた。

由季江は「アメリカ軍が神戸を攻撃しなかったのは神戸が奇麗だったからだと思う」という。

神戸の町が無事である限り料理店ズッペもなんとか続けたい、というのが彼女の夢だった。

草平も彼女の夢をかなえたかった。

 

アドルフが帰宅し草平と話し合う。

彼は拳銃を突き付けた。

そして再びドイツ人と日本人の混血である苦しみを打ち明ける。

機密文書を出せと脅し草平を締めあげたが草平はあっさりとアドルフを打ちのめした。

アドルフも拳を返そうとするが草平には勝てなかった。

由季江の食事の呼び声に草平はアドルフを立たせ家に入る。

 

アドルフの帰国をお祝いして乾杯という声にアドルフは「ハイル・ヒットラー」と答えた。

 

せめてこの辺でなんとかなっていたらなあ、と思ってしまう。

ゆるふわ解決してほしい。

アドルフ・カウフマン、Uボートでそのままおかしくなっていたらよかったのかもな。

今現在の人間ならゆるふわ解決できるかもしれないが手塚治虫や富野由悠季にはできない。

戦争はそんなにやわなものじゃないんだろう。

どんなに願っても無理だったんだ。

戦争はぜったいだめなんだよなあ。