
ネタバレします。
昨日に続き本名で書いていく。
迫水久恒氏本人はこの時34歳。そして首相救出に向かった憲兵特務班班長小坂慶助は36歳。よくこの救出作戦を考え出し実行したものである。
二・二六事件。青年将校らによる反乱。将校らは日本を立て直すと考え尊王義軍として首相官邸を襲撃したが首相を取り違え別人を殺害し首相自身は女中部屋に隠れ生存していたのだ。
首相の娘婿であり秘書官でもある迫水は首相であり義父である岡田啓介を救出しようと奔走する。
一方、憲兵特務班班長小坂慶助は二・二六事件の検分に入った憲兵上等兵(千葉真一が演じているという贅沢さ)から「岡田首相の生存を確認した」という報告を受けて救出を考える。
とはいえ憲兵と岡田首相は政治的に相反していたためにこの行動は憲兵として望まれるものではなかったらしい。
だが小坂は「人間の生命を助けるのだ」という信念のもとに渋る部下を引き立て官邸に向かう。
そして迫水と首相救出を考えるが良い案が浮かばない。
そこに迫水の妻が「せめて弔問に伺いたいという人たちが訪れている」と言ったことで作戦が始まる。
弔問客に紛れて首相を連れ出してしまうのだ。
問題は「首相に対する勅使差遣を奏上しなければならない」という期限までほぼ一時間ほどしかなく弔問客を急がせる必要があった。
その間に小坂と迫水は手分けして岡田首相を連れ出すのだ。
ところがこの時代の自動車、いざという時エンジンがかからない。
ほんとにイライラするうっ。
その後、高倉健演じる憲兵小坂は残っている他の者たちを無事に外へ出さねばならない。
青年将校の中にも目ざとく事情を察知した者がいてよりいっそう緊迫感がみなぎる。
が、とにかく青年将校らが驕り高ぶりすぎていた。
この傲慢さが仇となった。
迫水と小坂の首相救出作戦は無事に成功した。
女性は迫水夫人と女中ふたりくらいしか出てこない。
控えめな振舞いながらどちらも懸命に行動している姿が心強い。
特に女中たちは反乱軍の中で首相の御遺体から離れるわけにはいかないと答えて本物の首相を押し入れに隠し通す姿に感心する。
女中に寄り添っていたのが一匹の猫なのだが青年将校のひとりが苛立って猫を蹴ったのですっかり226青年将校が嫌いになった。(いや演出だから)
こういう演出は今ではやれない、と信じたい。
迫水夫人はこの頃にしては随分お洒落な眼鏡をされている。
父の心配をして官邸に向かう夫にすかさず花瓶から花を抜き取り渡す場面。こちらの演出には唸った。
三國連太郎はこの時39歳。
首相の秘書官という役柄をこんなに上品に演じられる俳優はなかなかいないのではないか。
小坂憲兵を演じた高倉健は相変わらずの固さであった。
手に汗握る素晴らしい救出劇だが当時の憲兵将校は皇道派に同調している者が多く命懸けの活躍をした小坂は逆に正面切って非難され褒賞もわずかだったらしい。
これまで「憲兵」というと冷酷で恐ろしく物語の主人公の敵でしか見なかったのがこんな人道的でかっこいい人物もいたのかと今更思っている。
それにしても首相を救出した側の映画がここまで冷遇されているのも不思議ではある。
やはり日本人はテロ側に同情してしまう気質なのだろうか。
高倉健・三國連太郎・千葉真一という今でも人気の高い俳優が活躍する本作品、鑑賞の妨げになる時代による価値観の違いというのも「猫加害=蹴とばし」くらいなのではないかと思う。確かに猫加害はかなり心を痛めてしまうが。そこだけはなんとか目をつぶって本作観てほしいと思う。
特に三國連太郎の迫水=速水役は絶対に見逃せない素晴らしい立ち居振る舞いだ。
この演技をできる人がいたのだ。