ガエル記

散策

『学生を戦地へ送るには―田辺元「悪魔の京大講義」を読む― 』佐藤優 その1

2017年「新潮社」

偶然出会って何故か絶対読まなきゃいけない気がして読み始めています。

少し読んでなぜもっと早く見つけなかったかという心境なのですが(いつもそう)とにかく読んでいきます。

【amazonでの著書紹介】

日米開戦前夜、京都大学の哲学教授・田辺元は学生たちに「悠久の大義のために死ねば、永遠に生きられる」と熱く語りかけ、その講義録『歴史的現実』はエリート学生のバイブルとされた。若者たちを死に至らしめた巧妙なロジックとは? 田辺の矛盾と欺瞞を暴き、〈戦前回帰〉の進む現代に警鐘を鳴らす、佐藤優渾身の合宿講座全記録。

 

ネタバレします。

 

 

 

本書前書きには「時代が嫌な方向に動いている。特にドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任したことによって、この傾向が加速している」とある。

2017年の著書であるが2026年6月現在そのまま通用する文章なのがおそろしい。10年近くこの状況が続いているのだ。しかも当時よりいっそう状態は悪化しているのは確実だ。

長引く国際間の戦争を予感した佐藤優氏の本書を読んでいこう。

 

1 金曜夜 歴史という制約

佐藤優氏の講座合宿は2015年6月12日夜から14日昼にかけて「あの戦争と国家」と題して箱根仙石原で行われた。

参加人数は30人。季節的にちょうどこの記事を書いている時分である。

明け方は寒いという説明で確かに今朝ここも寒い。

 

佐藤氏はこの仙石原という場所について『新世紀ヱヴァンゲリオン』で第3新東京市という次期首都になっていると説明する。

私はまったく知らなかったのだが仙石原という場所は『ヱヴァ』以前からよく映像で目にする場所だという。広大な薄野があるこの場所は時代劇などでよく使われたらしい。

ここだけ読むと「だからなに?」なのだがこの場所が非常に重要な場所だということがすぐ後にわかるのだ。

佐藤氏は読書したり執筆したりする場所としてお気に入りだという。静かで星が奇麗で富士山も間近に見えるという。水道水も美味しくゆえに食べ物も美味しいらしい。

 

講義の説明が始まる。

哲学者の田辺元(たなべはじめ)(1885~1962)が書いた『歴史的現実』という本の全文読み合わせと解説とみんなでの議論を行う。

『歴史的現実』は1940年に岩波書店から出たいわばパンフレットみたいな薄い本らしい。京都帝国大学での六回の講義を纏めている。原稿用紙110枚ほどである。

内容は「一人ひとりの命は有限だけれども、それが悠久の大義のために使われるのなら永遠に生きることになるんだ」というレトリックを使って平たく言えば「国のために死ね」と言っている。

この本がベストセラーになり読んだ学徒動員の連中が感化され納得して特攻隊に行ったのである。

佐藤優氏はこの著者田辺元を「悪魔のような思想家」と呼び彼の恐ろしい思想を見なさんと一緒に読み解いていきたいと伝える。

さらに昭和18年(1943年)(西暦でないと頭に入らないのだ)4月公開の『敵機空襲』という国策映画を皆で鑑賞するという。

 

また柄谷行人『帝国の構造』もテキストとされている。

講義の途中で質問がある時はいつでも「ちょっと待って、そこのところがわからない」と手を挙げてほしいとされている。

これは信頼関係と同質性がたかいところじゃないとできないといううえで。

 

参加者幾人かの自己紹介がされる。

途中に佐藤氏が様々な注釈を入れるのだがひとつ面白い話。

「レディスアンドジェントルメン、というがレディを先に言うのはレディファーストだからではなくレディスの対語はロードでありジェントルメンより身分が高い。単に身分の高い方から呼んでただけ」といいうものだった。

ちなみにこの呼びかけ自体が今の風潮に合っていないので廃止されつつあるようだ。

佐藤氏はさらに「パブごとに集まる人が違い、そこから徐々に固まって出てくるのが政治運動なんです」という意味でこの集まりが「サトーズパブ」のようなものだという。

 

公共圏においていろんな政治的な考えをする人がいて構わないがそこで適用されないといけない原則がある。それを「愚行権」という。

この愚行権は「幸福追求権」なのだが他者危害排除の原則に反してはいけない。

ゆえに覚せい剤使用は「愚行権」ではない。

 

「政治におけるトランスの重要性」

偏見の中で人間は存在していてそうした偏見からどうやって距離を置きながら見ていくか、その技法を身に着けていかないといけないのだと佐藤氏は語る。

その技法を持ってこれから学ぶ「田辺元」を読まなければならないのだ。

絶対にかぶれたらいけないとんでもない人物だと佐藤氏はいう。

ここから語られるのが先に言った重要な場所になるのだが「端的に言って、戦争末期に箱根か軽井沢に籠ったやつは絶対に信用したらダメです」らしい。

なぜ?

戦時国際法で各国の公使館や大使館がある場所は空爆したらいけないことになっていた。

戦時、アメリカの空襲が迫ってくると各国の大使館公使館は軽井沢や箱根に疎開したのだ。

その避難地図は中立国であるスイスを通じて日本からアメリカに渡される。

「この地域には各国公館があるから空爆をするな」

その空爆禁止区域には箱根の山と軽井沢が丸々かかっていた。

富裕層がこぞって絶対に空襲されない場所へと逃がしたのだという。

田辺元は1945年3月31日に京都帝国大学を退職しすぐに軽井沢に移ってそのまま戦後になっても下りてこなかった。

「国のために死ね」と書いた『歴史的現実』がベストセラーになったと先に書いたが敗戦後昭和23年(1948年)またもやベストセラーを出す。

『懺悔道としての哲学』さらに『キリスト教の弁証』『哲学入門』

佐藤氏は田辺元を「確かにおもしろい」と評しながらただ、彼はあの戦争に多くの学生を送り込んだ。自分の理論によって日本は大東亜戦争を正当化した、あるいは学生たちはおのれが特攻死することを正当化した、そのことに関してまったく反省していなかった。それは日本全体に責任があるんだと。だから懺悔は日本全体でするべきであって自分に特別の責任があるという発想はまるで持っていなかった、ものすごく無責任な人です、と語る。

そして自分が生き残ることと自分の恋愛に関しては貪欲だった。だから人間として尊敬できない。

こういう人が書いた魔力のあるテキストを冷静に読んでみることがすごく重要なのだ、と伝える。

 

こうしていよいよ田辺元『歴史的現実』の読み上げと解釈が始まる。

 

明日につづく。