ちょっと切りの良い所(だったかな)で『三国志』中断し横山光輝の他作品を投入します。
まずは短編集『影の世界』1960~1962年作品ということです。
表紙スタイルが良くてカッコいい男性たちによるスタイリッシュなデザインになっていますね。
ネタバレしますのでご注意を
第一話「未来をのぞいた男」(週刊少年サンデー1960年1月10日号)
いろいろおもしろい。タイトルの「のぞいた」がひらがなになっているのは「覗いた」と「除いた」をかけているのかなと考えたり。
「私の命は、あと一週間しかない」
『百日後に死ぬワニ』の先取り、ではないけどね。
表紙、ふたりの村雨竜作が描かれ怪しい白髪科学者が間にいるという謎めいた演出だ。
夜の街、どうやら村雨は警察に追われているらしい。逃げ込んだ家でいきなり見知らぬ白髪老人から「ようこそ村雨くん」と話しかけられる。
彼はメフィスト博士。ひとよんで「うらまちの科学者」らしい。ちょっと笑う。村雨は三十六歳だった。少年マンガ掲載なのになかなか渋い。
メフィスト博士は村雨のプロフィールを述べ煙草を欲しがっていることまでわかってしまう。そして一週間後に死んでしまうと予言するのだ。
横山光輝氏のマンガはテンポよく引き込ませると手塚治虫氏も感嘆したというがほんとこの短編もまさにそのとおり。
「インチキ占い師か」という村雨にメフィスト博士は「人の未来がわかる機械がある。その名は時航機(タイムマシン)」と言う。
読んで字の如く時間を航行する機械だ、というのだが「時航機」というのは知らなかった。横山氏の造語なのかなあ。
博士はそれに乗って一週間後の村雨の死を知ったということだ。
表紙にすでに描かれていたがこれがタイムマシンだった。
タイムマシンのデザインというのもいろいろあるが(『ドラえもん』とか『バックトゥザフューチャー』とか『ドクター・フー』とか)横山氏のはなかなか大がかりだ。
しかもすこし気分が悪くなる。
博士と共にマシンに乗り一週間後に丸目刑事に撃たれて死んでしまう。(丸目刑事、というか弟の健次みたいに見えるが)
死にたくない村雨は一週間後を待たず丸目刑事を撃ち殺してしまう。
これで自分の命は助かったのだ。
安心した村雨は一週間後の日に外出し警察に追われて病院に逃げ込んでしまう。
そこには怪我で入院していた丸目刑事がいた。
あのタイムマシンに乗って見た通りに村雨は丸目刑事に撃たれて死んでしまうのだ。
丸目刑事は撃たれた時に死なず入院していたのだった。
村雨がもっとくわしく覗いていたら・・・という話。
短いページ内で凝っている優れたSF短編であった。
第二話「午後3時の対決」(別冊少年サンデー1960年4月1日創刊号)
こちらの主人公は愛らしい少年である。
小さな炭坑村の話だがとてもお洒落な感覚である。
炭坑村には村の端に炭鉱員のお金を預かる銀行支店があるが小学校はなく村に暮らす六人の子どもは少し離れた町まで大型の自動車で送り迎えがされている。
その時間はまったく正確で七時半に学校へ向かい、二時半に学校を出てガソリンスタンドの前を通るのが三時、食堂の前を通るのが三時二十分なのだ。
だがその日はその時間をとっくにすぎても食堂の前を車は通らなかった。
心配した食堂の主人はガソリンスタンドに問い合わせる。するとそこはいつも通りの三時に通ったというのだ。
かわいい。
しかし食堂の主人は子供たちが心配で(やさしい)駆けずりまわって消えた自動車の行方を探す。
警察も捜索を始めた。
そして通学用車の運転をしている杉村博に疑惑がかかる。
子どもたちを誘拐して身代金をとろうとしたのではないかと。
これを聞いた弟の三郎は「兄さんはそんなことをする人じゃない」と庇う。「この事件にはなにかトリックがある。そのトリックをあばいてお兄さんの潔白を証明してやる」という物語である。
三郎と兄の博は手品が好きで三郎はよく兄から手品のコツを教わっていた。
「注意をそらす」それがキーワードである。
しかし警察と村人の疑惑は完全に杉村兄弟にかかっていた。
銃を持つ少年三郎。びっくりしたよ。かれはいったい何者なんだ。
違う話になるかと思った。
村人たちは兄弟を人さらい犯人と決めつけ三郎の家に石を投げ込む罵る。
そこへ「廃坑の入り口で子どもたちの服が見つかった」と言う知らせが入り村人は皆そちらへと走っていく。
三郎は「手品の種はこういう時にやりやすいんだ」と言って銀行へと向かった。
わざと銃を差し向け(いやいかんだろ)非常ベルをな鳴らさせるがベルは鳴らない。
そこへ本当の銀行強盗団が現れ三郎と銃撃戦となる。(おいおい)
三郎は強盗団をやっつけ警察へと連行した。
兄をはじめ子どもたちは無事。兄が運転していた車は強盗団によって襲われトレーラーで運ばれ人さらい騒ぎの中で銀行強盗を計画していたという次第だった。
「おにいさんにならった手品がとんだところで役にたっちゃった」と言う三郎くんだがその銃の腕前と度胸のほうにたまげたよ。
第三話「影の世界」(別冊少年サンデー1960年夏休み号)
なんか下の方『バックトゥザフューチャー』みたいになってる。(違うか)
主人公は少年探偵草原大助。
横山先生の少年は自由だなあ。
物語は空港で報道記者たちがひとりの少年探偵の帰国を待ち受けているところから始まる。
彼は一時間半でアフリカの砂漠の中に行ってしまったというのだ。
記者たちは謎を解くべく飛行機からおりてきた少年探偵を迎え矢継ぎ早に質問した。
少年探偵草原大助はゆっくりと説明を始めた。
彼は脱獄した殺人犯ふたりを車で追いかけているうち酷い濃霧に包まれてしまったらしい。
霧が晴れてきたと思ったらそこは見知らぬ荒涼とした平原だった。草原大助は東京を走っていたのにこんな場所があるのかと怪訝に思う。
しばらく行くと殺人犯たちが乗り捨てた車があった。どうやらガス欠らしい。
なおも進むと犯人たちは大助に銃を向けてきた。応戦する大助。
大助の銃弾が黒木にあたりふたりは森の中へ逃げ込む。
そこにはこの世のものとは思われぬ奇妙な形の樹木があった。
山彦はあまりの気味悪さに黒木に「逃げよう」と叫ぶが黒木は何故かすでに死んでいた。
と見る間に山彦は樹木の枝に縛られてしまい思わず発砲した。
その銃声に気づいた大助が駆け寄ってきた時にはすでにふたりとも樹木に捕まれ死んでいた。
そして今度は大助も樹木の枝に捕らわれそうになる。
大助はそれらを撃ち必死で逃げた。
停めていた車がすでに不気味な植物に飲み込まれそうになっていた。大助は急ぎ車に乗って発進した。
が行く手になかったはずの大きな地割れがあり彼はそこに落ちてしまった。
気が付いた時、大助はアフリカの砂漠の中におり自動車は地面から突き出したように空を向いていた。
崖から落ちたことで彼はもとの世界に帰れたのだ。果たしてその世界がほんとうにあったのか、証明するものはない。
「脱獄囚のふたりが戻ってこなければその時に僕の話を信じてください」
草原大助を見送った記者たちには何も言えなかった。
前のふたつと違い種明かし的なものはない奇妙なストーリー。
しかしこれが表題作でもある。
さすがにアフリカの砂漠まではいかなくとも変な場所にでてしまったという不思議体験は多くの人にあるのではないか。